14・討伐完了
それから橙龍と紫龍が見つかるまで、俺はこれからの話を王様や宰相達と話し合った。
まず、この国の王に即位するのはまだ早い。
王様も現役だしまだ若い。なのでまずは王国が管理する領土を任される事になった。そこの領主として領地経営を学び、王としての知識や作法などを学ぶ。
勿論、王国から要請があれば勇者として前線に出る。
まぁ、魔王退治をする勇者を敵に回すような国は無いだろうし、そもそも魔王以外の驚異はこの世界にない。人間同士での争いなんて、ここ数百年以上ないらしいけどな。
ちなみに、俺に与えられる領土は王国から近く、いくつかの村や町が集まる比較的穏やかで発展してる領土らしい。
その事をパーティーのみんなに話したら、みんな喜んでいた。
まずシャオとファノンとショウコ。
「アタシさ、お店を出してみたいな。小さくてもいいからオシャレなカフェを経営してみたい」
「あ、わたしも〜。お姉ちゃんとよくおままごとして遊んだよね」
「いいね、私も手伝うよ。この世界にない、日本の知識が役に立つかも」
確かに、小さい頃はよく『お店屋さんごっこ』して遊んだな。
手作りの泥団子やカップに注いだ泥水を食わされたっけ。
まぁ、魔王討伐による報奨金を使えば出来るだろう。最近のファノンはフィオーレ姉さんに料理を習ってるし、王城の厨房もレシピをもらって練習してる。それにシャオなんてコーヒー豆や紅茶の葉っぱの勉強もしてるらしい。
ショウコはアドバイザー兼ウェイトレスかな?
俺が王に即位するのも何年先になるかわからないし、新しい領地でやりたい事をやるのも悪くない。
そしてローラとナルフェ。
「領地経営ですか·········ふふふ、楽しみですね」
「お、おいローラ? どうした?」
「兄さん、私は兄さんの秘書になります。こう見えて毎日勉強してますので、お役に立てるかと」
「僭越ながらこのナルフェもお手伝いさせて戴きます」
ローラは、暇があればナルフェに勉強を教わっていた。
ナルフェだけでなく、王城の図書室で歴史や文学の本を読み漁り、経済や経営の勉強も城の重鎮から習っていた。
もともと頭の良かったローラは知識をグングン吸収し、ナルフェ曰くこのまま教師としても十分に仕事が出来るらしい。
まさかと思うが、こうなる事を見越して勉強してたのだろうか······まさかな。
「私はやっぱり薬屋かしら」
フィオーレ姉さんは予想通り、というか姉さんならどこでも通用する薬屋になれる。
王城に滞在してるときだって、鍛錬してる兵士の手当てをしたり、仕事で疲れてるメイド達に栄養剤なんかを調合して渡してるからな。おかげで城の評判ならフィオーレ姉さんが一番いいかもしれない。
これで、みんなのやりたいことはわかった。
俺は領主、シャオとファノンとショウコはカフェ、ローラとナルフェは秘書、フィオーレ姉さんは薬屋。
何年掛かるかわからない領主生活だ。やりたいことがあるのはいい。
話し合いから数日後、橙龍と紫劉が見つかったとの知らせが入った。
お互いの場所も近く、補給しながら順番に倒す作戦で行く。
まず、位置が近い橙龍を討伐、そのまま最寄りの町で補給をして紫龍を討伐する。連戦に近い戦いになるが、今の俺たちなら楽勝だ。それに残り2匹を倒せば、ついに魔王城への封印が解ける。
俺の頭の中は、魔王を倒した後の事でいっぱいだった。
結婚式、領主としての生活………いや、甘い新婚生活。
シャオだけじゃない、ローラやファノン、フィオーレ姉さんにショウコ、ナルフェ……みんなと性、いや生活が始まるんだ。むふふふふ、ローテーションを組まないと。いやはや、干からびてしまいますなぁ。
「………兄さん、気味が悪いです」
「放っておきなよローラ、ありゃロクでもないことを考えてる顔よ」
「はい、ショウコさん」
「ほんっとアークはバカね。どーせ龍とか魔王とかじゃなくて、その先の事を想像してんのよ」
「その先? お姉ちゃん、どういうこと?」
「うふふ、経験者のシャオちゃんが言うなら間違いないわね」
「え、あ、いや……その」
「ご安心くださいファノンさん、フィオーレさん。私とローラさんでキチンとローテーションを考えておきますので」
おっと、いつの間にか女性陣がワイワイやってる。
これから橙龍の討伐に出発だってのに、気を抜きすぎた。
俺は頬を張り気合を入れ直し、全員に向かって言う。
「よーし、気合入れていくぞ!!」
婚約者達は全員が頷き、馬車に乗り込み出発する。
俺達は進む、これからの未来に向かって。
やって来たのは薄気味悪いとある洞窟。
ここに橙龍がエサのモンスターを咥えて入って行く姿を見たとの情報があったが……どうやらアタリみたいだ。
洞窟に入ったのは俺とファノンとローラ。シャオは洞窟の外でフィオーレ姉さん達の護衛だ。だって狭い洞窟じゃ近接系の俺とシャオじゃ不利だし、こう狭いと同士討ちになる可能性がある。
そして、ゆっくり静かに洞窟の奥へ進むと……いた。
俺たちは洞窟の最深部、橙龍の死角の岩場に身を潜める。
「あれが橙龍か……」
「き、キモい~」
「しっ、気付かれます」
橙龍は、一言で表すなら『翼の生えたゴリラ』だった。
龍と言われても、特徴で見るなら頭に生えてるツノと翼くらいしかない。
「ファノン、ローラ、頼む」
「おっけ~」
「はい」
俺は剣を抜き、ファノンは矢を同時に三本番え、ローラは指揮棒のような杖を構える。
「……1、2の」
俺の号令、そして。
「「「さんっ!!」」」
俺は黄金のオーラを纏い飛び出し、ファノンの矢が飛び、ローラの魔術が炸裂する。
ファノンの矢は橙龍の両目に刺さり、ローラの放った雷が橙龍の動きを硬直させ、トドメに俺の斬撃。
橙龍は縦に両断……ヤバい、めっちゃキモい。縦に切ったから内蔵とか全部ドロッとこぼれ落ちた。首を斬り落とせばよかった。
とにかく、橙龍はこれで討伐だ。
近くの町で橙龍討伐をささやかに祝い、補給を済ませて紫龍の元へ。
紫龍は森に住み、狩人を何人も襲っているらしい。さっさと討伐しないと犠牲者が増える。
俺たちは情報に従い紫龍が現れた森に踏み込んだ。
「アーク、今回はアタシ達がやるからね」
「橙龍では出番がなかったからねぇ」
シャオとショウコがやる気満々だ。
シャオなんて既に剣を出してるし、ショウコも両手を閉じたり開いたりしてる。
ヘタに逆らうと俺も討伐されそうなので、取りあえず任せておこう。
ナルフェが馬車を停め、周囲を見回して言う。
「馬車ではここまでです。後は徒歩でお願いします」
「ああ、わかった。護衛にローラを置いていくから」
ローラに馬車の護衛を任せ、俺たちは徒歩で森を進む。
何かあればローラが狼煙を上げる手はずになってるし、俺も注意は常に向けておく。
「……来たわ」
シャオがニヤリと笑い、物騒な事を言う。
「盾よ、覆え」
『ジャアァァァァァッ!』
ショウコが呟くと同時に、俺の背後から紫色の大蛇が現れた。
大口を開け、俺を丸呑みしようと襲い掛かり、ショウコの盾に阻まれる。
完全に油断していた、意識をローラ達に向けすぎた。
心臓が高鳴り、冷たい汗が背中を伝う。
「アーク、油断大敵だよ?」
「す、すまん」
「じゃ、アタシの番ね!!」
あっけらかんと言うショウコに頭を下げ、シャオが大太刀を構えて紫龍に飛びかかった。
紫龍は大口を開け、今度はシャオを丸呑みにしようとする、が。
「『|円盾(ラウンドシールド)』」
『アガッ!?』
円形の透明な盾が、紫龍の口を蓋のように塞ぐ。
シャオはショウコの攻撃を予測してたのか、迷いがない。
大太刀を華麗に操り、紫龍の身体を細切れにする。
「『|桜花刃(おうかじん)』!!」
鮮血の花びらが舞い、紫龍はバラバラになって絶命した。
ぶっちゃけ、俺は足手まといだった。なーんにもしてないっす。
でもまぁ、これで8龍は全討伐だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます