10・失われつつある輝きとカウントダウン


 「くそ、重い……っ、クッソがぁぁぁっ!!」

 「ユウヤぁっ!! アーク盾っ、早くしなさいよっ!!」

 「わかった」


 紫龍は長い蛇のような龍で、尾の部分が剣のようになっている。

 ユウヤはアンフィスバエナで尾を受け止めるが、衝撃に負けて吹っ飛んだ。

 追撃でユウヤを串刺しにしようと尾が突き立てられるが、俺が出した盾に弾かれる。


 「……やっぱり」


 シャオが剣を振り上げ突撃するのを見ながら思った。

 俺の盾の出力と強度が遙かに上がっている。

 その気になれば、50枚くらいは盾を出せるかも。やらないけど。

 それに比べて、ユウヤのアンフィスバエナの発光が弱々しく、切れ味も格段に悪くなっていた。


 ファノンの放った魔術の矢が紫龍の口から侵入し体内を破壊。

 ローラの魔術で紫龍の動きを止め、シャオの剣が紫龍の首を切断した。

 シャオはユウヤに駆け寄る。

 

 「や、やった……ユウヤ、平気?」

 「ああ……ありがとう、シャオ」

 「ううん、ユウヤが無事でよかった」

 

 ユウヤはフィオーレに介抱され、俺の盾で守られている。

 盾を解除すると、ファノンとローラも駆け寄った。


 「ユウヤ、調子悪いの?」

 「……実は少し。最近剣が重く感じるんだ」

 「疲れでしょうか? 今日は早く休みましょう。8龍を倒したことで魔王城への封印も解けたはず、王都へ戻って兵を要請し、一気にケリをつけましょう」

 「ああ。済まないな。キミ達は最高の仲間だよ」


 俺はその光景を冷めた目で見ていた。

 

 もうシャオたちは戦闘以外では俺と話しもしない。

 それも話すというか怒鳴りつけ命令するといった方が正しい。

 もう世間話すらしない。この1年まともな世間話なんてしてないけどな。

 

 かつての幼なじみ姉妹に義妹と近所のお姉さん……仲のよかった頃が幻想のようだ。もう、あの頃の笑顔が俺に向けられることはない。

 ユノはシャオたちを信じろと言ったが······。正直、そこだけは信じる事が出来なかった。


 そして、俺の手にあるのはユノの残したお守り。

 そのお守りの石には、数字が刻まれていた。



 54%



 **********************



 ブルム王国の王都ファビヨン。その王城の中で、勇者たちは王に報告をしてる。

 8龍を討伐し魔王城への道が開かれたこと、それを機に軍を要請し、魔王とその手下のモンスターを一網打尽にすることを打診しに行ったのだ。

 魔王城の周りには、巨大モンスターが集まってるらしい。

 さすがに勇者パーティーだけじゃ、対応しきれない。


 当然ながら俺は城の外で待機。

 ちなみに準備に数日掛かるので、勇者たちは王城で過ごすことになったようだ。


 正直、俺はお払い箱に近い。

 このまま家に帰っても、誰も咎めないだろう。

 だけど、俺の戦いはまだ始まってすらいない。


 手の中の石は、静かに数字を刻んでいる。



 69%



 **********************

 


 勇者たちが城で会議をし、魔王城への出発日程が決まった。


 出兵は1週間後。

 出兵するのは勇者パーティーを筆頭に、騎士団の勇者親衛隊、騎士団、王国兵、雄志による志願兵だ。

 ちなみに俺はその話を城下町の住人から聞いた。ちょうど志願兵の募集が始まったからだ。

 どうやら俺の存在はすでに無い。勇者やシャオたちにとっても、俺はやっぱりお払い箱なのだろう。


 俺は自宅に帰り、家族と出兵前の最後の時を過ごしていた。

 親父と母さんはユノの死を悲しみ、俺を気遣う。


 「そういうワケだ。ごめん親父、母さん……」

 「そうか。辛かったんだな……」

 「ユノ、あの子はもう……ごめんなさいアーク、それにローラは……」

 「いいんだ。ローラは勇者と幸せそうだし、シャオたちもフィオーレ姉さんも。だから……俺はお払い箱。これからは自分の人生を生きるよ」

 「アーク、だったらムリして魔王と戦いに出なくてもいいんだぞ?」

 「そうよ、このまま家に居て、ゆっくり休んで……」

 「それは出来ないよ。だって……約束したから」

 

 ローラは、この1週間一度も帰ってこなかった。

 シャオたちやフィオーレも、自宅には帰っていない。

 もう家族のことなんて頭に無い、あるのはユウヤとの輝かしい未来だけ。

 これでもまだ信じろというのか? なぁユノ。


 そして翌日。

 王国軍の出発前に勇者から重大発表があるらしく、広場には大勢の民衆が集まっていた。

 俺は志願兵に紛れ込み、冷めた眼差しで出発の時を待っている。


 王城のバルコニーには、勇者とシャオたち婚約者。

 民衆を見下ろしながら、魔術で拡声された声を響かせる。


 『諸君!! これより王国軍は魔王城に向けて進軍する。そして、ボクがこの手で魔王を討ち取る!!」


 大歓声が上がり、老若男女の勇者コール。

 聞いてるだけで胸糞悪く、俺は欠伸をしながら立っていた。


 『魔王を倒したら、ボクはこの国のため、そして彼女たちのために出来る事を考えた。それは……この国の王になること。そして、彼女たち4人を妻に迎え、この国のために生涯を捧げようと思う!!」


 さらに大歓声。耳が痛い。

 割れんばかりの勇者コール。どうやら満場一致で賛成のようだ。

 シャオたちも照れつつ、民衆に挨拶してる。



 『アタシは、ユウヤに出会って変わった……強くなれた。だから愛するユウヤと一緒に、命を掛けて戦い、共にある事を誓う!!』


 『あ、あたしも~っ!! ユウヤがだ~い好きっ!!』


 『私もです。ユウヤさんのために戦います!!』


 『私の想いは、ユウヤさんと共にあります。戦う力がなくても、心は傍に』



 勇者に寄り添う4人の少女。

 幸せそうな光景は、どこまでも輝いて見える。


 そして勇者は『聖剣アンフィスバエナ』を抜き、天に掲げた。


 「………はぁ、あんなモンか」


 刀身は全く発光せず、薄ボンヤリとした光が見えるだけ。

 大聖堂で見た輝きは微塵もない。

 あの輝きを見たことがある子供達なら、異変に気が付いたかも知れない。

 

 そして、王国軍は出発した。

 勇者とその4人の仲間を先頭に、勇者親衛隊が固め、背後には騎士団の部隊、さらに王国軍兵士に、最後に俺が所属する志願兵たち。


 もう、勇者なんてどうでもいい。

 俺の頭にあるのは、ユノとの約束。

 この世界を救う。ただそれだけだ。


 志願兵の部隊に並び歩きながら、俺はユノのお守り石を見た。



 84%

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