9ー2・勇者ユウヤの目的


 ユノの真実から一夜。俺とユノは早起きして出発の支度をしていた。

 馬車は町長が用意した物。というか町長の私物。

 馬車を町長の家から取りに行き、そのまま近くの露店で朝食を買う。


 「ユノ、何食べる?」 

 「······えっと、あれがいいです」

 

 馬車に揺られながらユノが指さしたのは、焼いたパンに肉野菜を挟んだサンドイッチ。

 冒険者たちが食べるような、簡易的な朝ご飯だ。


 馬車を停めてサンドイッチを2つ買う。

 荷物を積み込まなくちゃいけないので、急いで戻る。


 「ほら、食べろよ」

 「え、あの、アークさんは?」

 「あぁ、俺は後でいいよ」


 御者だし、両手が塞がってる。

 さすがに片手じゃ操作はできない。


 「······あ、あの」

 「ん? 美味いか?」

 「い、いえ、その······あーん」

 「え」


 ユノは、サンドイッチを俺の口元に寄せる。

 こっ恥ずかしいが、俺は一口かじる。


 「······美味い」

 「そうですか? じゃあ私も······うん。おいしいです」

 「そ、そうか」


 肉野菜なのに、何故か甘い。

 それにしても、ユノはよく笑うようになった。

 

 ユノに食べさせて貰い、サンドイッチを完食。

 宿に到着すると、急いで荷物を運び込む。


 すると朝食を食べるために、シャオたちと勇者が降りてきた。

 そのまま一階の酒場スペースに座ると、定員が朝食のオーダーを取りに来る。

 

 荷物を運ぶ俺と勇者は目が合ったが、すぐに逸らされた。

 それに、緑龍の一件からか、シャオたちからは睨まれるようになった。

  

 「アークさん。大丈夫です」

 「わかってる」


 シャオたちが操られてると知っている。

 そう思うと、不思議と心が軽くなる。

 これもユノのお陰だな。


 朝食を終えた勇者たちが馬車に乗り込み……勇者が降りて来た。


 「アーク。少し話がある」

 「え……」



 この展開は、流石に予想していなかった。



 **********************



 「単刀直入に聞く。あのユノは何者だ?」

 「………お前が買った奴隷だろ?」

 「確かにそうだ。でも……何かおかしい。まるでボクの……いや、違う。まるでボクの全てを奪うような……」

 「奪う……だと」


 奪う。

 それはお前だろう。

 シャオたちを奪ったのは……お前だろう。


 「キミの補佐にユノを渡したが返して貰う。あの子は不思議な力を感じるから、調べないとね。ああ、キミの補佐にはもっといい子をあげるよ」

 「ふざけんな。お前にユノは渡さない」

 「……へぇ」

 

 勇者は面白い物を見つけたように笑嗤う。

 その笑みが、もの凄くカンに触った。


 「もしかして、シャオたちだけじゃなくてユノも取られることを恐れてるのかい? ははは、こりゃ傑作だ」

 「へ……|その目(・・・)が無いと何も出来ないくせに、チョーシ乗るなよ」

 「……何だと?」

 

 勇者から笑みが消えた。

 どうやら《魅惑の瞳》のことを知られてるのが想定外みたいだ。


 「……なるほどね。ユノか」

 「………」

 「彼女のスキルはモンスターの接触を避けるモノだと思ってたけど……ボクのスキルについても知ってるようだね」

 「さぁな。いいか、これだけは言っておくぞ」


 俺はこの瞬間、勇者ユウヤに宣戦布告する。


 「ユノは渡さない、シャオたちは返して貰う」

 「………それは、ボクを倒す、ということかい?」

 「ああ。知ってるぜ、お前……聖剣を掴むと手が痺れるだろ?」

 「………」

 「その原因は、その内わかるぜ」

 「………」

 「行こうぜ。シャオたちが睨んでる」



 俺は勇者を警戒しつつ、御者席に向かった。



 **********************



 白龍の巣へ向かう途中、ユノが言った。


 「アークさん。石の数字はどのくらい進みました?」

 「数字?……えーと、18かな」

 「18%……まだまだですね。だけど、《輝く盾》の強度や数は上がってると思います」

 

 そんなこと言っても実感が沸かない。

 まぁ、白龍相手に試し……いや、危険は犯せない。ユノもいるし。


 ユノ曰く、ユウヤは徐々に聖剣から拒絶されている。

 このままだと持ち上げることすら出来なくなり、最後は触ることすら出来なくなるらしい。

 

 そして、白龍の巣に到着。

 白龍の巣は崖の近くで、ワイバーンと呼ばれるモンスターの巣の近くに住み着き、ワイバーンを捕食しているらしい。

 

 離れた場所に馬車を停め、全員で歩く。

 すると、崖下にワイバーンの死骸がいくつもあり……いた。


 「みんな、気を引き締めろ……」

 「ユウヤ、気を付けて」

 「ファノン、私が術でサポートします。白龍を打ち落として」

 「おっけ~!!」

 「フィオーレ、キミは下がってろ」

 「ユノ、お前もだ」


 白龍は巨大な鷹みたいな白い龍。

 動きも速く、直滑降で勇者を狙う。


 「アーク、盾を!!」

 「盾よっ!!………えっ!?」


 なんと俺の盾が、直滑降で向かう白龍を止めた。

 白龍も盾を破れると踏んだのだろうが、豪快に激突。

 シャオたちも驚いていた。


 「な、ウッソ!?」

 「こ、これは……っ、ユウヤ、今です!!」

 「あ、ああっ!!」


 気絶したのか、白龍は落下。

 ユウヤがそのまま一刀両断し、白龍は討伐された。


 「………マジ、かよ」

 

 俺は思わずユノを見た。

 ユノはにっこり笑い、頷いた。



 お守り石の数字は、26%と刻まれていた。



 **********************



 白龍を討伐し、町へ帰還。

 宿でユウヤたちを降ろして俺とユノは買い出しを済ませる。

 宿に戻り部屋に入ると、ドアがノックされた。


 「……しゃ、シャオ?」

 「……来て、話がある」

 「ここでいいだろ。部屋に入るか?」

 「いい、外に来なさい」


 有無を言わさず外へ。

 ユノには部屋にカギを掛けておけと言い、久し振りにシャオと話す。

 

 「何だよ一体」

 「アンタ……何したの?」

 「は?」

 「アンタの盾、あんなヘッポコだったのに、いつの間にか龍の突進まで止められるくらい強くなった。それでユウヤが不安になってる。アンタがユウヤを陥れようとして、何かアタシたちが知らない魔術にでも手を出したんじゃないかって」

 「………」


 シャオは操られてると知ってる。

 だけど心は痛い。身も心もユウヤに汚され、それでもユウヤのために俺と話してる。

 

 「……シャオ、お前……ホントに俺はどうでもいいのか?」

 「は?」

 「俺はお前にプロポーズした。お前は答えてくれた……そのことを、ホントに何も感じてないのか?」

 「………」

 「シャオ、お前は……お前だけじゃない、ローラもファノンもフィオーレ姉さんも、ユウヤのスキルで操られてんだよ!! 眼を覚ませ!!」

 「………」


 思わず言ってしまった。

 我慢出来なかった。

 言葉で正気に戻ると、僅かな希望に縋ってしまった。


 「はぁ、もういい……」

 「シャオ!!」


 シャオはそのまま宿へ戻り、部屋に帰った。

 俺はしばらく動けなかった。


 

 ちくしょう……シャオ。



 **********************

 


 翌日。

 数日掛けて王国へ帰還。そのまま最後の紫龍の情報が集まるまで待機することになった。

 俺とユノは自宅に戻り、勇者たちは城へ。

 

 「アークさん、お守り石は?」

 「ああ。55%……ようやく半分だ」

 

 間違いなく、俺は身体能力が上がってる。

 盾の強度も上がってるし、素手で果実も握りつぶせる。

 それに、ジャンプして2階の窓に上れるようになった。


 「ユウヤからスキルの移動は順調に進んでいます。これなら……」

 「よし、行ってくる」

 「………え?」

 「ずっと考えてた。ユウヤに制裁を与える方法」


 この旅でいくつか見えたユウヤの目的。

 まず、シャオたちを洗脳して自分のモノにすること。

 そして、魔王討伐が終わると次期王になること。


 「ユウヤがニセ勇者だってわかれば王の椅子も全部パァになる。つまり、俺が真の勇者だってみんなに知らしめてやればいい」

 「あの、どうやって……?」

 「ユノ、確認するけど、俺はこの状態で聖剣を使えるか?」

 「は、はい。ユウヤより上手く使えるハズですけど」

 「それならいい」

 「あ、アークさん?」


 ユウヤがニセ勇者であると示す方法。

 それは、みんなに見せつけること。



 「取られた物を……取り返す!!」

 

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