10ー2・目覚めろ、そして見よ
俺は城へ向かい、王様と謁見する。
荷物持ち兼御者といえ、勇者パーティーの1人。王様は多少訝しんだが、俺の謁見に応じてくれた。
俺は跪き、王様と話す。
「確か……勇者パーティーの御者だったな。用件はなんだ?」
「はい。それは、勇者ユウヤのことであります」
「ほう?」
多少の興味があるようだ。
その声色に、驚きと興味の色を感じた。
「ご質問ですが……勇者ユウヤが不調ということはご存じで?」
「うむ。度重なるスキルの酷使で、身体が悲鳴を上げているようだ」
「はい。その不調の原因……心当たりがございます」
「……なに?」
来た来た。王様も食い付いてる。
この調子で一気にいくぜ。
「勇者ユウヤは……真の勇者ではございません」
「……ほう、面白い。続けろ」
「はい。勇者ユウヤのスキルは紛い物、真のスキルは別にございます。そのスキルを用いて、勇者パーティーを洗脳し操り、この国の王となることを企んでおられます」
「………ふむ、して……真のスキルとは?」
「はい、それは……《魅惑の瞳》と呼ばれるスキルです」
「何だと!?」
うお、王様が吠えた。
なになに、そんなにヤバいスキルなのか?
「……お前は確か……アークと言ったな? 何故、そのようなことが分かる?」
「はい。それは……私こそが、《女神アスタルテ》の選んだ勇者だからでございます」
「何……?」
「証拠もございます。聖剣を握れば、私が真の勇者と理解されるでしょう」
「………」
王様は俺をジッと見てる。
俺は真実を告げた。だから絶対に目を逸らさない。
王様の眼光と俺の眼光がぶつかり、火花が散る……ワケないか。
すると王様が、近くの兵士に告げる。
「聖剣をここに」
**********************
「アーク!! お前……何のつもりだ!!」
ユウヤが怒鳴り散らしてやって来た。
すると、王様の傍に控えていた騎士団長が叫ぶ。
「控えろ!! 王の御前だぞ勇者ユウヤ!!」
「うるさい!! アーク、お前……!!」
すると、ユウヤの傍にシャオたちが寄り添う。
「お、落ち着いて下さいユウヤ……どうしたんですか?」
「黙れ!! ボクに触るな!!」
「きゃあっ!?」
「ローラ!!」
この野郎、ローラを突き飛ばしやがった。
俺は倒れたローラに駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫か?」
「………あ」
ローラを抱き起こし、近くのフィオーレ姉さんに託す。
その表情は、驚きと困惑だった。
「おいユウヤお前……ローラに何してんだよ」
「黙れよアーク。お前こそ何を勝手なことしてるんだ、聖剣を貸せだと? 真の勇者だと?」
「そうだ。わかってんだろ? お前、聖剣を持つと手が痺れるって……つまり、お前は勇者じゃないんだよ」
「……キサマ」
ユウヤの目が殺意に染まる。
王様にシャオたち、そして騎士団長の前で言ってやった。
俺の言葉にこの態度。そしてユウヤの手が聖剣に伸びる。
「っつ!?」
「どうした、聖剣を抜かないのか?」
「テメェ……死にたいのか!!」
「へ……盾よ!!」
「へぶっ!?」
俺はユウヤの両側に盾を出し、ユウヤを押しつぶす。
そしてユウヤが圧迫されてる隙に、腰の聖剣を抜いた。
「か、返せっ!!」
「諦めろ」
すると、俺の持った聖剣が黄金に発光する。
当然ながら痛みはない。むしろ、受け入れてくれるような温かさを感じた。
「な、なんでアークが聖剣を!?」
「まさか……」
シャオとローラは驚いてる。
そして、騎士団長と王様も驚いていた。
「おぉ……美しい」
「どういうことだ……聖剣の使い手が2人。勇者が、2人?」
そこは訂正しておく。
「それは違います、王様。先ほど述べたように、勇者ユウヤは本当の勇者ではありません。時間を置けば、徐々に勇者としての力を失うことが分かるはずです」
「で、では、やはり」
「はい。私ことアークが《女神アスタルテ》より任命されし勇者です」
俺はここでようやくユウヤを解放した。
「お、お前……ふざけやがって!! 返せ、聖剣アンフィスバエナを返せ!!」
「いい加減認めろよ、お前は勇者じゃない。お前はただの犯罪者だ!!」
「何だと……!!」
このまま勢いで押し切る。
幸いなことに、王様も騎士団長も俺とユウヤを止める気配が無い。
それに、シャオたちもショックなのか呆然として見守ってる。
俺は聖剣アンフィスバエナをユウヤに突き付け、真実を叫ぶ。
「ユウヤ!! シャオたちの洗脳を解け!! さもないと……斬る!!」
**********************
もちろんここで斬るつもりは無い。
王様の前で殺人なんて出来ないし、立派な大理石の床が血で汚れる。
だけど、効果テキメンだった。
「き、斬る……このボクを斬るだと!? この勇者ユウヤを」
「お前は勇者じゃない!! スキルで女の子を食い物にする外道だ!!」
「ふ、フザケやがってっ!! おいシャオ!! アークを始末しろ!!」
「え、あ……」
シャオは戸惑ってる。
ユウヤの精神が不安定になってるから、洗脳が揺らぎ始めたんだ。
「ローラ!! アークを焼き尽くせ!! お前はオレの女だろ!? オレの言うことを聞け!!」
「そ、そんな、その、にいさ……」
「クッソ、役立たずが!! ファノン!! アークの脳天をブチ抜け!!」
「え、え、え……で、でも……」
「がぁぁぁぁッ!! このゴミ共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ユウヤは錯乱してる。
この変貌ぶりに確信したのか、騎士団長が周りに居た騎士に合図する。
すると、ゆっくりと騎士が周囲を囲み始める。
「勇者ユウヤ殿……申し訳ありませんが、拘束させて頂きます」
「拘束? この勇者ユウヤをか? ははは、面白い冗談だ」
「ここまでの言動と態度から、こちらのアーク殿の言動が正しいと確信しました。よって一時的に拘束し、後に事情聴取を受けて頂きます」
「は、ははは。なぁ、よく考えてくれ。ボクはこれまで7匹の龍を退治した。聖剣は間違いなく扱える。ボクが真の勇者なんだよ」
「……申し訳ありませんが」
騎士団長と騎士は、ユウヤを囲む。
ユウヤは顔を痙攣させ、シャオたちを見る。
「しゃ、シャオ、助けてくれ……キミはボクの妃だろ?」
「ち、違う……あ、あれ? な、なんで? なんで……あれ」
「ろ、ローラ……助けて」
「……妃、妃? わ、私は……兄さんの」
「ファノン!!」
「うぅぅ~~~っ!! あたまが、あたまが痛い……」
「フィオーレ!! 助け………」
「………ちがう、私は」
シャオたちは蹲り、頭を押さえてる。
よし、もう少しだ。
「ユウヤ、お前は………望まれない召喚で呼ばれた異世界人なんだよ」
この一言で、ユウヤはガックリと崩れ落ちた。
**********************
こうしてユウヤは拘束され、洗脳について追求される。
ユウヤが崩れ落ちたと同時にシャオたちも倒れ、何故か城のあちこちで若いメイドや魔術師が倒れたらしい。
間違いなくユウヤの仕業だ。
シャオたちは部屋に運ばれ、取りあえず眠ってる。
俺は王様に知ってる限りのことを話す。もちろんユノのことは言わない。
まぁ、女神から神託が降りてきたと言っておこう。
「な、なんと……」
「はい。ですので、異世界召喚の儀式は間違いでありました。今後一切の召喚を禁じたほうが宜しいかと」
そもそも、王様は許可を出した覚えはないらしく、城の魔術師たちが勝手に呼び出したらしい。
しかし、呼び出されたユウヤが黄金に輝いていたので、真の勇者召喚として認められ、勝手に召喚した罪は不問となったそうだ。
「うむむ……まさか、元勇者ユウヤが《勇者》のスキルを継承してしまったとはな」
「はい……元勇者ユウヤはある意味被害者ですが、この城で行った悪事やスキルを利用しての犯罪は赦されません。ですが、これまで龍を退治してきた功績もありますし、寛大な処置を」
「………わかった。では元勇者ユウヤは魔王討伐されるまでの期間地下牢にて拘束、そして魔王討伐終了後、1年間の強制労働の刑に処す。その後は釈放としよう」
うーん………まぁいいか。
ユノの話だと、勇者のスキルが抜けると思考能力や運動能力に障害が出るらしいし、まともに動けなくなるだろうし。あとは好きに生きて貰おう。
「では、勇者アークよ。魔王討伐の任……任せてもよいな」
「はい。《女神アスタルテ》と、この『聖剣アンフィスバエナ』に誓って」
「うむ。それと、勇者パーティーはどうする?」
「………意識が戻り次第、私が直接お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか」
「わかった。それまで城で過ごすがよい」
「はい。……あ、その前に、一度自宅へ戻ります。仲間を置いたままですので」
ユノを連れて来ないとな。
シャオたちが起きたら、ユノも一緒に話をしよう。
俺は謁見の間を出て、自宅へ戻った。
**********************
「あ、お帰りなさいアークさん」
「おかえりアーク」
自宅に帰ると、ユノと母さんがいた。
どうやら料理をしてるらしく、いい香りが俺の腹を刺激する。
「ユノちゃん、料理上手ねぇ」
「そ、そんな。私の料理はアークさんから習った物で……」
「ふふ、私で良かったらいろいろ教えてあげる」
「は、はい!!」
和む。
さっきまでのユウヤとの出来事がまるで茶番だ。
「ユノ、いいか?」
「……あ、はい」
俺の表情で察したのか、ユノが頷く。
そのまま2階の自室に入り、城での出来事を話した。
「そうですか……じゃあ」
「ああ。ユウヤは拘束されて地下牢、シャオたちの洗脳は解けたはず。明日になったら一緒に様子を見に行こう」
「はい。わかりました」
「……ユノ、シャオたちは」
「……はい。ユウヤとの出来事は全て記憶にあります。だけど、アークさんと共に過ごしたシャオさんたちでもあります。そこだけは分かってあげて下さい」
「ああ。わかってる」
正直、すぐには受け入れる自信はない。
だけど、シャオたちは大事な幼なじみ姉妹でローラは義妹、フィオーレ姉さんは俺の姉さんだ。
彼女たちもユウヤの被害者、俺とユノで受け入れてやるしかない。
こんな言い方は酷だが、紫龍と魔王もいる。
シャオたちの力は戦いに必要だ。
「ユノ、シャオたちの力になろうぜ」
「はい……」
ユノは俺の手を握り、優しく微笑んだ。
**********************
翌日。親父と母さん、ユノと俺で朝食を食べてると、城から騎士が来た。
どうやらシャオたちが目覚めたらしく、全員が混乱してるらしい。
「アークさん、行きましょう」
「……ああ」
「大丈夫です、きっと」
こうして俺たちは城へ向かい、まずはシャオの部屋に。
そして………。
「しゃ、シャオ………」
シャオの部屋は、メチャクチャに荒らされていた。
本棚は倒れ、机は砕かれ、棚や調度品はなぎ払われていた。
シャオは部屋の隅で毛布を被って震え、俺はゆっくり近づきしゃがむ。
「アーク、アタシ、なんで……なにが、どうして……」
「おいシャオ、俺だ、落ち着け」
「アーク、アーク……アタシ、アタシ……」
「シャオ、もう大丈夫、お前はユウヤから解放されたんだ」
「か、かいほう……あたし、アークに……アークに、なんてことを……」
シャオは真っ青な顔でブルブル震え、頭を抱える。
俺はシャオの両肩を掴みゆさぶる。
「シャオ、俺は大丈夫だ、落ち着いて……ゆっくり俺を見ろ」
「あ、ああ……」
「いいか、お前は俺の知ってる、俺の幼なじみのシャオだ。ユウヤに操られていたシャオはもういない」
「で、でも……アタシ、アークにヒドいこと……」
「大丈夫、俺は平気だ」
「あ、ああ、あぁぁぁ……」
シャオは遂に泣き出した。
俺はシャオを抱きしめ、頭をポンポンとなでる。
「アーク……アークぅぅ……ゴメンなさい……ごめんなさいぃぃ……」
「いいんだ。もういいんだ……」
シャオを抱きしめ、しばらく頭をなで続けた。
**********************
落ち着いたシャオは、俺とユノに土下座した。
俺がユウヤのスキルについて話し、《勇者》のスキルのこともキチンと話す。
さすがに女神云々は話さなかったけど。
「お、おいシャオ!?」
「ごめんなさい……アタシがしたことは決して赦されることじゃないわ。アークにも、それに……ユノにも」
「シャオさん……」
そういえば、シャオがちゃんとユノを見て話すのは初めてかも知れないな。
「シャオさん、もういいんです。こうしてシャオさんは正気に戻りましたし、アークさんも《勇者》として認められました」
「で、でも……」
「ですが、まだ紫龍と魔王が残っています。シャオさんの力が必要なんです」
「アタシの、力……」
「ああ。頼むシャオ、俺と一緒に魔王を倒そう」
シャオは顔を上げて俺とユノを見る。
そして、俺に寄り添うユノを見て、少しだけ息を吐いた。
「……もう、元には戻れない……か」
「シャオ?」
「わかったわ。アタシの力をアークに託す。それが償いになるなら……」
「シャオさん……」
ユノは何故か悲しそうにシャオを見たが、俺にはわからなかった。
とりあえず、シャオはこれで立ち直った。
「ローラたちにも会いに行こう」
「はい。シャオさんも一緒に」
「……うん」
シャオは、ユノが差し出した手を握る。
「ユノ、その……」
「シャオさん。私、皆さんとお話してみたかったんです」
「え……」
「ふふっ」
「え、あ……」
ユノの笑顔は、きっとシャオにも届いただろう。
**********************
ファノンはシャオに任せ、俺とユノはローラの部屋に。
部屋を開けると、なんとフィオーレ姉さんもいた。
その様子は、ローラを慰めてるフィオーレ姉さんのように見えた。
ベッドに腰掛けるローラを抱き寄せ、その頭をなでている。
そして、俺とユノを見て驚いていた。
「兄さん……」
「あ、アークくん……」
「ローラ、フィオーレ姉さん……大丈夫?」
「………」
2人は無言。
どうやら、ユウヤに付けられた傷は深い。
俺は慎重に事情を説明した。
ユウヤのスキルで操られたこと、俺が真の勇者でユウヤがニセ勇者だったこと、ユウヤは地下牢で拘束されてること、シャオも解放されてファノンの元にいること、などなど。
すると、ローラが言う。
「……兄さん、私は……なんて愚かなことを……申し訳ありません」
「……大丈夫。もういいんだ。こうして元に戻った、だから……いいんだ」
「アークくん……」
「フィオーレ姉さんも、よかった」
「ごめんなさい……それに、ユノちゃんも……」
「平気です。私にはアークさんが居ましたから……」
すると突然、部屋のドアが開いた。
そこには、泣きじゃくるファノンを連れたシャオがいた。
「しゃ、シャオお前、無理矢理連れてきたのか!?」
「ええ。この子ってば泣いてばかりで……」
「うぇぇ~~~……ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ~~~っ」
「ったく、やりすぎだっての」
俺はファノンの頭をなでる。
すると少しだけ泣き止んだので、俺は言う。
「ファノン、もう大丈夫。だから泣き止んで、俺の話を聞いてくれ」
「アーク……ごめんなさい、あたし……」
「いいんだ。もう終わったんだ」
「う、う、うぇぇ~~~……」
ファノンが泣き止むまで暫く掛かったが、これで全員揃った。
改めて全員を見る。
シャオたちに勇者の力。奪われた物は全て取り返した。
ユノが居てくれたから、諦めずに最後まで戦えた。
「みんな、頼みがある。俺に力を貸してくれ」
俺はみんなに説明する。
勇者として、紫龍と魔王を倒すと。
その旅に、仲間として同行してほしいと。
「……アタシは行く。それが償いになるなら」
「私もです。兄さんが赦してくれるなら」
「あたしも。アークのためなら」
「私もよ。この命に掛けてもアークくんを守る」
うーん、ちょっと理由が重い。
まぁ仕方ないかもだけど、流石に昔みたいなノリはムリか。
少しづつ進んでいけば、シャオたちも自分を赦してくれる日がくるだろう。
昔みたいに戻れれば、きっと魔王なんて敵じゃ無い。
その先にある未来に進むため、さっさと魔王を倒してやる。
平和な世界でユノと生きるために。
「みんな、さっさと魔王を倒そうぜ」
「ええ。任せて」
「はい、兄さん」
「おっけ、アーク」
「薬は私に任せてちょうだい」
そして、ユノ。
「アークさん。がんばりましょう!!」
断言する……魔王は瞬殺だ。
********************
あ、これはその後の話な。
ユウヤはニセの勇者だったという真実が城下町に広がった。
どうやらユウヤの被害にあった女性たちが、その恨みから真実とそうでないことも広めまくった。
俺たちが魔王討伐に出発したあと、民衆たちによるデモが起きたらしい。
被害者の女性たちやその両親がきっかけとなり、民衆たちに火が付き、王城を囲むような怒りのデモが起きた。
事態を重く見た王様は、民衆たちに謝罪。
ユウヤを召喚した魔術師たちを全員処罰し、被害者の女性たちにはたっぷりと見舞金を送ったそうだ。
ユウヤは地下牢で拘束されてる。
かつての余裕は消え去り、見境なく暴れてるそうだ。
俺たちが帰る頃には、勇者の力を失うだろう。
あとは、魔王を倒して終わらせるだけだ。
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