終3・勇者と女神の愛の歌


 魔王を倒して3年が経過した。


 俺は19歳、ユノは18歳になり、毎日元気に暮らしてる。

 あ、魔王は瞬殺した。


 現在、俺は王都から離れた地域の領主を務めてる。魔王退治の報酬で貴族になったのだ。正直なところ報酬でもなんでもない。


 せめてもの抵抗で、王都から離れた辺境の地を選んで赴任した。

 領土内は狭く大きな町は1つしかない。そこに屋敷を構え生活してる。


 領土内は自然が多い。

 野山に囲まれ、空気が美味しいのが特徴だ。

 町の近くには大きな山が有り、狩りなんかもできるのが特徴だ。


 そして屋敷には俺とユノ、そしてローラが住んでいる。

 ローラは俺の秘書で、町の仕事や領主と貴族の仕事をサポートして貰ってる。

 魔術師としては最強レベルの腕前なのだが、その腕を披露する機会は全く無い。本人もそれでいいと思ってるそうだ。

 

 シャオはファノンと一緒に町で小さなカフェを経営してる。

 調理はシャオ、接客はファノンが担当し、美人姉妹のカフェとして成功してるようだ。


 シャオはユノから料理を一学び、腕前もかなりスゴい。

 店が忙しい時はユノも手伝い、日々楽しく過ごしてる。

 ファノンは元々が人懐っこい性格なので、接客にはうってつけの人材だ。


 フィオーレ姉さんは、薬屋を始めた。

 評判はかなりいい。しかもフィオーレ姉さんは美人だから、それ目当てでやって来るお客もいるそうだ。


 ユウヤのその後は知らない。

 魔王を倒し帰還した後、すでに城にはいなかった。

 どこかへ移送されたのかもしれないが、結局確認しなかった。

 ま、以外と元気でやってたりしてな。


 辺境の地での生活は楽しく充実してる。

 俺はたまーに王国から呼び出され、モンスター退治で聖剣を振ってる。

 だけど、それ以外は実にのんびりとした辺境貴族だった。


 今日も仕事をしつつ、ローラに言う。


 「なぁローラ、その……」

 「ダメです。30分おきに様子を見なくても変わりません」

 「で、でもよ……」

 「ダメです」


 ローラは眉をつり上げ俺に迫る。

 すると、部屋のドアがノックされた。


 「失礼します。アークさん、ローラさん、お茶をお持ちしました」

 「ゆ、ユノ!? おいおい座ってろって!!」

 「いえ、少しは運動しないと」

 

 ローラはユノからお盆を受け取ると、ユノをソファへ。

 お茶を受け取り、俺はユノの隣へ座った。


 「……平気か?」

 「はい。ありがとうございます」

 「もう、兄さんってば……」


 

 ユノは、俺の子供を身ごもっていた。



 **********************

 


 魔王を瞬殺し、辺境貴族としてこの地に赴任して俺はユノにプロポーズした。

 ユノは笑顔で受け入れてくれ、家族にも祝福された。

 

 シャオたちは当初、王国に残ろうとしたが、ユノがこの地に誘い、全員が着いてきた。

 どうやら俺をサポートしてほしいらしいが、どっちかというとユノをサポートしてる分が大きい。


 日に日にお腹が大きくなるユノ。

 正直、俺は気になって仕事どころでは無い。

 だが、ローラに睨まれなんとか仕事をこなしてる。


 「はぁ~……男の子かな、女の子かな?」

 「アークさん、名前は決めてるんですか?」

 「おう!! 男だったらアイク、女の子だったらルキアだ。それに、子供服もおもちゃも買ってあるし、準備万端、ああ……楽しみだなぁ……」

 「に、兄さん……」


 俺はユノのお腹をさすりながら言う。

 あぁ、早く我が子に会いたいぜ……。

 ローラの呆れた視線はとりあえず無視。


 

 俺は毎日が幸せだった。



 **********************



 シャオたちとはほぼ昔通り接することが出来るようになった。

 俺の屋敷で食事したり、俺とユノがシャオたちのカフェで食事したり、フィオーレ姉さんの薬屋を見に行ったり、姉さんに頼まれて薬草を摘みに行ったりもした。

 

 毎日が平和に過ぎ、その日はやって来た。

 

 「……ああ、ユノ」

 「兄さん、落ち着いて下さい」

 「……でもよ」

 「もう、アンタはもうすぐ父親になるんだから、しっかりしなさい」

 「シャオ……」

 「アーク、生まれたらお祝いしようね」

 「そうだな、ファノン」

 「ふふ、きっと可愛いんでしょうねぇ」

 

 陣痛が始まった。

 ユノは必死に頑張っている。

 女神といえども身体は人間、きっと辛いのは間違いない。


 

 そして………その日が来た。



 **********************



 「アークさん……」

 「ユノ、頑張った……ホントによくやった……」


 生まれたのはなんと双子。

 男の子と女の子、しかもメッチャ可愛い。


 「わぁ~、かわいい~」

 「た、確かに……」

 「ねぇねぇ、触っていい?」

 「ちゃんと手を洗ってからね、ファノンちゃん」


 ユノの隣で眠る2人の赤ちゃん。

 俺とユノの愛の結晶、アイクとルキア。

 シャオたちも嬉しそうに笑い、俺は感動して泣いてしまった。


 「ユノ、お疲れ様」

 「はい、アークさん……私たちの子供です」

 「ああ。可愛いな……」

 「ええ……」


 俺やシャオたちが見守る中、アイクとルキアはスヤスヤ眠る。

 逞しく、健やかに育つことを俺たちは祈る。


 「次は、皆さんの番ですね」

 

 ユノが微笑むと、何故かシャオたちの顔が赤くなった。

 ま、俺はノーコメントで。先の事はわからないし。

 まぁ、貴族だし愛妾を持つ事は…………なんてな。

 

 「あ……」


 すると、ルキアが泣き出した。

 俺は慌てるが、ユノはそっとルキアを抱っこする。

 アイクは強い子なのか、ルキアが泣いてもスヤスヤ寝てる。


 「さぁ……いい子いい子」


 ユノは歌う。

 それは子守歌。

 母になった女神ユノが歌う、愛の歌。


 ルキアは泣き止み、ユノに手を伸ばす。

 ユノはルキアの手を包み、優しく微笑む。

 俺はさらにユノの手を包みこむ。


 

 俺とユノの幸せは、これからも続いていく。

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