8・悲しみの涙、夢での叫び


 ユノを埋葬した。

 場所は森の中にあった開けた場所。

 もう動かない彼女を抱き寄せ俺は静かに涙を流し、ボロボロの身体を引きずりながら穴を掘って埋めた。

 

 墓石代わりに木で出来た十字架を作り刺す。

 花を摘み墓いっぱいに花を飾る。

 俺のカバンは吹っ飛ばされたけど無事だった。

 カバンの中に入っていた潰れていないフルーツを添え、一緒に飲んだフルーツジュースを十字架に垂らす。


 「ユノ……おやすみ」


 もう届かない。もう聞こえない。

 奴隷として買われ、勇者パーティーの世話係として加入した。

 俺1人では辛かった勇者たちの世話を、一緒にこなした。

 あんまり笑わなかったけど、ジュースを飲ませたら初めて笑った。


 「う、うぅぅ……うっぐ、うぁぁ……」


 思い出すのは、懐かしいことばかり。

 ほんの1年だったけど、ユノは俺の支えだった。

 幼なじみ姉妹を、可愛い義妹を、優しいお姉さんを寝取られた俺の、心の支えだった。


 「…………行かなきゃ」


 勇者たちは町に戻っただろう。

 封印龍はあと2体。そいつらを倒せば魔王城への道は開かれる。

 勇者が魔王を倒せば全て終わる。

 何故だろう………こんなに悲しいのに、俺は勇者たちのところへ戻ろうとしている。

 

 勇者は言っていた。

 魔王を倒した後、ブルム王国の王になると。

 シャオとファノン、ローラとフィオーレ姉さんを妻に迎え、世界のために尽くすと。


 きっとそれが最善の道なのだろう。

 俺みたいな平民といるよりは、シャオもみんなも幸せになれる。

 それに、シャオたちの心と身体は既に勇者の物だ。


 

 この戦いが終わったら、俺もユノの傍で終わることにしよう。



 **********************



 俺は町に戻ってきた。


 失った旅道具を買い揃え、明日の準備をすることにする。

 町で事情を話し、勇者の仲間という理由で新しい馬と馬車を購入する。

 道具屋でカバンや旅道具一式を買い、ボロボロの状態で宿へ。


 そして、宿に戻って気が付いた。

 宿の一階は酒場で、勇者パーティーと冒険者たちが祝杯をあげていた。


 「さぁて、ドラゴン討伐を祝して~~~っ!! かんぱ~~いっ!!」

 「あはは、何回目だよファノン」

 「いいじゃんユウヤぁっ!! うれしいんだもんっ」

 「おっと、抱きつくなよ。こいつめ」

 「えっへっへ~」

 「もう、ファノンってば仕方ないわねぇ」

 「フィオーレ姉さんも嬉しそうじゃないですか?」

 「それはもちろんよローラちゃん。龍をあと2体倒せば魔王城の道が開かれる。ユウヤさんの力を持ってすれば、魔王なんて敵じゃありませんからね」

 「むっふっふ、フィオーレ姉さんはその先が気になるんじゃないの?」

 「な、なんのことかしら? シャオちゃん?」

 「ユウヤとの結婚よ、け・っ・こ・ん!! まぁアタシも楽しみだし、キモチは分かるわ」

 「おいおい、気を引き締めろよ、まだ龍は2体居るんだぜ」

 「わかってるって。ねーローラ」

 「そうですね。がんばりましょう」

 「じゃ、もう一度~~~っ、かんぱ~~いっ!!」


 5人は、ユノの事なんてどうでもいいようだ。

 所詮、使い捨ての奴隷。居なくなれば補充すればいいだけ。

 シャオたちはユノに当たることはしなかったが、殆ど無視してた。

 

 この瞬間。シャオたちに残っていた僅かな情は消えた。

 

 「あ、やっと帰ってきたわね。ったく」

 「アーク、何して……」

 

 勇者、シャオ、ローラ、ファノン、フィオーレが俺を見て驚いていた。


 何だよ、まさか俺が自殺するとでも思ってたのか?

 悪いけどまだ先だ。親父や母さんにユノの死を報告しないといけない。ここで俺まで死んだら、あの2人はきっと悲しむだろうからな。

 

 「遅くなって悪かった」

 「……アンタどうしたの? 酷い顔よ?」

 「アークくん、寝る前に失った装備品と消耗品の確認を。明日の出発前に足りない物は補給しておいて下さい」

 「…………ああ」


 自分の声とは思えないくらい、平べったい声が出た。

 ガマガエルのような緑龍よりも、勇者たちは醜く見えた。

 俺がどうしてこんな表情なのか、本気で分かっていないらしい。


 俺が歩き出すと、再び楽しく談笑を始める。

 もう、あの頃のシャオたちはすでに帰ってこないと考えた方が、精神衛生上いいに違いない。


 一番安い1階の部屋に戻る。

 ベッドと僅かなスペースしかない物置のような最安値部屋。

 僅かなスペースに買い直した旅の荷物を置く。

 ポーションやエーテルなど、明日の朝一で町の冒険者ギルドに買いに出かければいいだろう。


 「……ユノ」


 俺はユノがくれたお守りを見つめた。

 小さな袋に入ったキレイな石。

 俺はそれを抱きしめ、ベッドに潜った。


 勇者たちは、今夜も性に溺れるのだろう。

 だが本当にどうでもいい。むしろ今は嫌悪感がわいてくる。



 目を閉じると、すぐに睡魔に襲われた。



 **********************



 「……あれ?」


 俺は白い空間にいた。

 ベッドで寝てたはずなのに、服も身につけ、気が付くと突っ立っていた。


 「ここ……どこ? あれ?」


 真っ白。

 怖いぐらいの純白。

 俺はほっぺを抓り、確認する。


 「あ、こりゃ夢か」


 痛みがない。

 なら、好きにさせて貰おう。





 「ふぅぅ……、こおぉぉぉんのぉぉぉぉっ!! クッソ勇者がぁぁぁぁぁぁぁっ!! アホボケカスクソったれ野郎が!! 地獄に落ちて業火に焼かれちまえっ!! シャオのアバズレ、ファノンのクソビッチ、フィオーレのクソばばぁも同罪だっ!! なーーーーにが王妃だっつーーのっ!! こんのカス女ども!! ローラの野郎もふざけやがって、お前みてぇなクサレ妹なんざこっちから願い下げだヴォーーケカスッ!!」





 俺はあらん限り絶叫した。

 ため込んでいた物を全て吐き出した。


 「ハァ、ハァ、ハァぁぁぁ………………。ユノ······」


 そして、最後に出てきたのはユノの笑顔。


 「会いたいよ……会いたいよユノ……!!」


 俺は泣いていた。

 白い地面に蹲り、一人で絶叫した。

 夢の中だから、一切の遠慮を捨てて泣いた。

 そして。



 「会えますよ、夢の中なら」



 そんな、誰よりも聞きたい声が聞こえてきた。

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