第42話 蛙さん~♡ 狼さん~♡
アメリアたちは今、クイグリーの森に入っている。
もう少し奥に進むとクイグリー湖に出るはずで、その近辺にてドラゴンと、別件で蛙、そして狼が目撃されている。
アメリアたちが先に接触したいのは蛙と狼のほうだ。
ウサウサウサは自分の音色がドラゴンに効くと主張しているけれど、蛙の見解を聞いてみたいので、やはりドラゴンと接触するのはそのあとにしたい。
探索メンバーはアメリア、ジーン、そして『ミ』の音を持つわんぱくウサウサウサ。
そしてバリー公爵と、彼に仕える数名の精鋭部隊。
「――クイグリー湖は何時の方角だこら~」
なぜか当然のように仕切り出すウサウサウサ。ウサウサウサはアメリアの肩かけカバンのかぶせ蓋の上に乗り、肩ヒモを掴んでキリリ顔だ。
バリー公爵の部下であるハーコートは、普段滅多に表情を変えない冷静沈着な中年紳士であるが、ウサウサウサを眺める時だけ一瞬目がうつろになる。
やはり精霊は存在自体が珍しいし、しかもウサウサウサは喋りすぎるので、このような反応になるのも無理はない。
「……クイグリー湖は三時の方角だ」
言葉少なに答えるハーコート。
「了解だこら~、さ・ん・じ・の・ほ・う・が・く――おもかじいっぱ~い!」
……それ船のかけ声ね……半目になるアメリア。
ウサウサウサが張り切るほど、なんとなく居たたまれない気分になる。
別にウサウサウサはアメリアのペットというわけではないのだが、自領から付いて来た精霊なもので、バリー公爵たちに対して『うちの子、お行儀が悪くてすみません』という気分にさせられる。
「ちょっと、ウサウサウサ~」アメリアが呼びかける。「君、精霊同士の繋がりで、蛙さんと狼さんが今どの辺にいるかキャッチできない?」
「無理言うなこら~」
「そっか、無理かぁ」
「つーかアメリア、こっちから探さなくても、向こうから来るから心配すんなっつーの、こら~」
……ん? 向こうから?
ピタリ――全員が足を止め、ウサウサウサを囲む。特にハーコートの詰め方はエグかった。
「ウサウサウサ、どういうこと?」
代表してアメリアが尋ねると。
「アメリア、魔法のステッキを持っているだろー?」
「うん」
カバンの中に入れてある。
「蛙は自分で作った魔法のステッキが今どこにあるか把握できているはずだ。そういうアイテムは特有の信号を発信していて、作者ならキャッチできるはずだぞこら~。今蛙が近くにいるなら、アメリアに会いに、絶対に向こうから来るぞこら~」
そういう能力があるのね……アメリアは感心した。
「ねぇだけど、蛙さんのほうがうちに会いたいと思っていないと、近づいて来ないよね?」
「プププッ」お茶目にお口に手を当てるウサウサウサ。「アメリア~、来るに決まっているだろこら~」
「なんで?」
「ばっきゃろー、お、俺はお前のことが、す、好きだから、蛙も同じ気持ちに決まっているからだ、こら~。アメリアはいつもお歌を歌ってくれるし、アポーパイとか美味しいおやつをくれて大好きだこら~。あ、でも食いもんに釣られて一緒にいるわけじゃないからな、友達だから一緒にいるんだ、勘違いすんなこら~」
耳の中を赤く染めながら早口にまくし立てるウサウサウサ。
「蛙だって俺と同じでお前を友達だと思っているはずだこら~。蛙がお前を好きじゃなかったら、その魔法のステッキをやらなかったはずなんだこら~。どうだ説得力あるだろこら~」
はぁ……もうキュンだな♡ 耳を赤くしてツンデレるウサウサウサを生温い目で眺めおろす大人たち。
バリー公爵の部下の中では一番神経質なハーコートですら、これにはちょっと頬を染めている。
強面のバリー公爵も若干メロっている。
意外とモフモフ好きが集まっている、純朴なオッサン集団、バリー公爵部隊……。
そんなふうに、ほのぼの空気が漂いかけた瞬間。
――ガサ。
近くの茂みが揺れた。
一斉に警戒態勢を取るバリー公爵の部下たち。
そこへ響き渡る呑気な声。
「おーい、娘~! 元気にしとったかの~?」
ガサガサガサ……! 茂みを割って蛙が飛び出して来た。狼の背にまたがり、ご機嫌な様子である。次いで残りの狼も出て来る――全部で七匹。蛙も狼も全員、以前アメリアがプレゼントしたリュックを背負っていた。
「か、蛙さん~♡ 狼さん~♡ 会えて嬉しいです~♡」
テンション爆上がりのアメリア。
「ハロ~娘~」
蛙がスクッと狼の背の上に立ちハイタッチを求めてきたので、アメリアはノリノリでそれに応じた。
「イェイ♪」
「わしはおぬしに会うために東部に来たんじゃ」
「そうだったんですか?」
「というのも、前におぬしからもらったお菓子が、もうなくなってもうたんじゃ~」
しょんぼり蛙。そして悲しげな狼たち。
「じゃあ、また出しますよ~」
気さくなアメリア。
「じゃがのう、別にお菓子だけが目当てで、おぬしに会いに来たわけじゃないぞ? あの時のお喋りがなかなか楽しかったもんでのぅ」
「やったぁ♡」
「ほんでな? 東部に向かっていたら、ドラゴンが騒いでおるもんで、ちょっとこちらに立ち寄ってみたのさ。娘が嫁いだところにドラゴンが行ってもうたら、可哀想だからのう。けれど娘のほうからドラゴンの近くに来てしまうとは思わなんだ」
「サンキュー、蛙さん♡」
「なんと……ウサウサウサの言ったとおりだった……」
呟きを漏らすポーカーフェイスのハーコート。
確かに……! 目を瞠るバリー公爵たち。
蛙と狼は友達のアメリアを探していたのだ……! そしてこの広いクイグリーの森で再会した!
……キュン♡ オジサンたちは皆ちょっとずつトキめいた。
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