第49話 えーと、ドラゴンくん――ちょっとお話をしたいので


 ドラゴンがウインナーマウントフジをあらかた平らげたところで、アメリアは魔法のステッキで拡声器を出した。スイッチを入れて語りかける。


 ガガッ、ピー……。


【えーと、ドラゴンくん――ちょっとお話をしたいので、ゆ~っくり寝そべって、顔をこちらに近づけてくださーい!】


 ドラゴンはパチリと瞬きし、言われたとおりにした。ノソノソッと動き、腹這いになり、アメリアたちのすぐ前に顔を持って来る。


 顔が近づいたので、アメリアは拡声器を下ろした。


「ドラゴンくん、これから足に刺さった木の杭を抜いてあげますね。方法はこれから考えるので」


 ドラゴンも、足に刺さった木の杭も、どちらも大きいので、人力で抜くのは無理そうだ。けれどなんとか方法を見つけるしかない。


「……本当か? これ、すげー痛いんだ」


 ウルッと涙ぐむドラゴン。


 アメリアは眉尻を下げた……すごく可哀想……。ジーンも『気の毒に』という顔でドラゴンを見つめる。


 ジーンが話しかけた。


「木の杭を抜いたあと手当をしてやりたいが、君は大きすぎる。どうしたものかな……」


「それなら俺、小っちゃくなれるぞ」


 ……え? アメリアとジーンは目を見交わした。


 ジーンがふたたびドラゴンに視線を合わせ、小首を傾げる。


「ではすぐに小さくなってくれれば、木の杭は簡単に抜けるんだが」


「だめだ。小っちゃくなれるのは俺のみで、木の杭は大きさが変わらんから、足が弾け飛ぶ。俺には普通の物理攻撃は効かないんだけど、この木の杭は神樹パロサントでできているから、体のほうが傷ついちゃう」


「なるほど」


 小さく頷いたジーンが、すぐに『ん?』という顔になる。


「逆にもっと大きくなるのはどうだろう? そうすれば簡単に抜ける」


「この大きさがマックスだぞ。これ以上にはなれない」


「そうか」


 ではやはり現状のサイズのままで木の杭を抜き、すぐに体を縮小してもらって傷口を手当……という流れで進めるしかなさそうだ。


「ジーンさん、どうしたらいいでしょうか」


 アメリアに尋ねられ、ジーンは少し考えてから背後を振り返った。


「――そうだ、あれを使おう」


 アメリアも振り返り、停車しているマイクロバスを眺める。


「おおー……お?」


 ん? どうやって?


 問うようにジーンを見つめると、彼がニコリと笑った。




   * * *




 木の杭は足の裏側から引っこ抜くことに決まった。甲側に突き出ているほうが尖っている――つまり先が細いため、裏側から引いたほうが抜きやすい。


「――出でよ、ロープ!」


 アメリアは魔法のステッキで頑丈なロープを出した。小学生の時に綱引きをしたことを思い出し、ちょうどいいのでそれにした。


 長さが足りないので、何本か出して結んで使うことに。


 ほどけないように結ぶのは、そういうことに慣れているバリー公爵部隊がやってくれた。


 ――さて、いよいよ固定。


 ロープの片側を木の杭にしっかりと巻きつける。すっぽ抜けないようにしなければならない。これもバリー公爵部隊が担当してくれた。テキパキと見事な仕事ぶりである。


 頑張るオジサンたちのそばに付き添い、狼たちがせっせとロープをたぐり寄せたり、一緒に縛ったりとかいがいしく手伝っている。たまにロープを介して狼のモコモコお手々にオジサンがうっかり触れてしまい、『あ、ごめんよ……☆』みたいなトゥンクシーンが繰り広げられた。


 ロープの片側がしっかり木の杭に固定されたので、今度は反対側。


 こちらはマイクロバスの車体にぐるりと巻きつける。本当は牽引フックがあればよいのだろうが、アメリアは前世日本でそれに触れたことがなかったので、魔法のステッキで出すことはできなかったのだ。


 ちなみにマイクロバスの中には、アメリアとジーン、ついでにウサウサウサがあらかじめ乗り込んでいる。


 ロープを巻き付けてしまうと乗り込めなくなるため、初めから中に入らせてもらった。


 結びつけの作業が終わり、バリー公爵が手を振って合図する。


「――よし、始めてくれ!」


 ジーンがアクセルを踏み、マイクロバスをゆっくりと発進させる。


「……重いな」


 エンジンが唸り、車体がしんどそうな音を立てている。抵抗がすごい。


 もう少し深くアクセルを踏み込むと、ジワリと前に進んだ。


 ズ、ズズ――……。


 ドラゴンは大地にお尻をつけて座り、涙目で木の杭が刺さったあんよを眺めおろしている。抜ける瞬間はちょっとへの字口に。


「頑張れ!」


「もうちょっと!」


 ドラゴンを励ます優しいバリー公爵部隊。


 狼たちは直立二足になり、右手を自身の黒っ鼻に当て、左手でキュッとオジサンたちの上着の裾を掴んでハラハラしている。


 蛙は戦国武将スタイルで、平らな石の上であぐらをかき、腕組みをして、じっと一部始終を見守っていた。


 やがて苦しい時も終わりが訪れ……。


 ズルズルスポーン!


 木の杭が抜けた。


「や、やったぁ……☆」


 全員が涙を流し、頬を染める。


 ――黄色の蝶々が舞う中――


 人間の子供サイズに縮んだドラゴンの足を手当てするジーン。


 適切に医療処理をしたあとで、清潔な包帯を巻いてやる。


 すべてが終わったあと、皆で順繰りにハイタッチをした。


 皆、和やかに笑みを交わし、互いをねぎらった。


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