第25話 謎のウサウサウサ
アメリアは北の森に入り、しばらく奥に進んで、ぽっかり開いた広場に出た。
そこで声をかける。
「おーい、ウサウサウサ~」
しばらくしてから、大木のウロから変な生きものが三匹出て来た。
ほぼ二頭身で、二足歩行、耳が長くて、なんとなくウサギっぽい。
「おう来たかアメリアこのやろ~」
ヘリウムガスでも吸い込んだみたいに声が高い。
「アメリア、なんか寄越せ~」
「カレー食わせろ~」
全員声が高い。
「ウサウサウサは食いしん坊だなぁ」
実家裏山の禁足地にいた蛙さんと狼さんたちは、もっとお行儀が良かったぞ~。
ウサウサウサは礼節を学ぶべきだと思う。
しかしアメリアの願いは届かない。
地団太を踏むウサウサウサ。
「カ、レ、ー、カ、レ、ー」
「俺は餃子~、味噌ダレも出せこら~」
「出せこら~」
「なんという卑(いや)しい存在……!」
眉根を寄せるアメリア。
ウサウサウサはオルウィン伯爵邸の森に住みつく謎の精霊(?)なのだが、とにかく性格が可愛くない。
腕組みをして考えを巡らせていたアメリアは、いいことを思いついて片眉を上げた。
「食べものを出してあげてもいいけれど、たまには感謝の気持ちを表してほしいな~」
その言葉にザワつくウサウサウサ。
「見返りを要求してきたぞ、図々しい女だこら~」
「いいからもったいぶってないで、早くカレーを食わせろこら~」
「イ、テ、コ、マ、ス~!」
邪悪な物言いに、アメリアはむぅと膨れた。
「お歌を聴かせてあげようとか、そういう気持ちはないわけ?」
「歌は無理だが、『素敵な音』なら出せるぞこら~」
「出せるぞこら~」
……本当に? 声はヘリウムガス使用後みたいな感じだけど?
半信半疑のアメリア。
一方、自信満々なウサウサウサ。
「俺の耳を握って、振ってみろこら~」
「え」
「ほれほれこら~」
ぐいぐい頭部を突き出してくるので、アメリアはおそるおそるウサウサウサの耳を掴んだ。
……モニュオ~……なんともいえない嫌な感覚……生温かいマシュマロを握り締めたみたいな。
「振れこら~」
脅迫まがいに命じられ、渋々左右に振ってみる。
すると。
『リリィ~ン……!』
うっとり腰が抜けるような素敵な音色が響き渡った。
アメリアは『ひい』とのけ反った。
「な、何、今の音……!」
「俺たちは耳を握られて空中で左右に振られると、良い音色を奏でるんだこら~」
「メルヘンな生きものだろこら~」
アメリア、大混乱。
「え、さっきの音、体の『どこが』鳴ったの?」
「知るかこら~」
順番に振ってみると、少しずつ高さが違う。そして音色はハンドベルにとても似ている。
「あ~ん、ドレミの三音しかない~」
音階が揃っていれば、クリスマスソングとか演奏できそうなのにぃ……!
アメリアが眉尻を下げると、ウサウサウサが顔を見合わせた。
「俺たちはもっと大勢いるぞこら~」
「え、そうなの?」
「毎回三匹ずつしか現れないようにしていたが、実はシャッフルして順に出ていたんだこら~」
……一体なんのために?
「大勢で出て来て、お前を混乱させないためだこら~」
えー……粗暴な性格と思いきや、分かりづらいけれど親切な気遣いをしてくれていた……!
アメリアはホロッときた。
「あ、ちょっと、全員呼んで?」
一匹がウロに戻り、残りを呼んでくれた。
ワラワラワラワラ……
「総勢二十五匹……!」
呆気に取られるアメリア。
一匹ずつ耳を握って鳴らしてみて、音が低い順に並んでもらう。
結局、♯(シャープ)♭(フラット)込みで、二オクターブ、綺麗に揃っていた。
「俺たちを分類してくれたやつは初めてだこら~」
「キュンだこら~」
「アメリアはもっとちょくちょく遊びに来いこら~」
ガラが悪いだけだと思っていたウサウサウサが、実は可愛いの塊であることが判明。
せっかく音階ができたので、小中学校で習った音楽の授業を思い出しながら、少し演奏してみた。その間、ウサウサウサもアメリアもずっと笑っていた。
ウサウサウサは笑い方もワンパクで、お腹を抱えて『ケタケタケタケタ~!』と笑うので、それを見てアメリアのほうも笑ってしまう。
空が茜色に染まった頃、魔法のステッキで出したカレーを振舞い、皆で寝転がってお昼寝をして――……。
ハッと目が覚めた時には、周囲は真っ暗だった。
慌てて上半身を起こし、手探りでリュックを引き寄せる。中から魔法のステッキを取り出して、ひと振り。
「出でよ、懐中電灯――!」
ポムン♪
イェイ、スイッチオーン!
ピ、カー……! 便利だね、文明☆
周囲を懐中電灯で照らすと、ウサウサウサたちは鼻ちょうちんを作って眠りこけている。
アメリアはブルッと体を震わせた……なんだか冷えてきたかも。
「お~い、ウサウサウサ~」
「もう食えんぞこら~……」
「食えんぞこら~……」
「明日もアメリアが遊びに来ますように~こら~……」
ス、ピー……二十五匹、全然起きない。一匹も起きない。
「お~い、ウサウサウサ~、私はもう屋敷に帰るぞ~」
「むにゃ……」
「もにゃ……」
「にぇむ……」
アメリアは仕方なしに数匹ずつ抱えてウロの中に戻してやった。魔法のステッキでチェックのフリースひざかけを出してウロの中に広げ、その上に寝かしてやる。
フリースは別に必要ないのかなぁ……? 精霊って、暑さ寒さは感じないのかもしれないけれど……まぁいいや。
何往復もして、最後は指差し確認で全二十五匹を収容し終えたことを確かめたあと、「ふぅ!」と息を吐く。
大事業をやり遂げた感……!
アメリアは良い気分でリュックを背負い、屋敷を目指して歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます