04:一路、王都へ─新婚旅行(仮)─②
ホテルの使用人に連れられて部屋に向かう。
ヤバい緊張してきた。
ガチャっと鍵を開け、
「どうぞこちらの部屋になります。
荷物はこちらに置いておきます。御用がありましたら申し訳ございませんがフロントまでお願いします」
定型文らしき言葉を言い終えて「では」と使用人が去っていく。
フィリベルト様は使用人から鍵を受け取り部屋の中へ入って行った。しかし入口で立ち止まり私の為にドアを抑えていて下さるので、慌てて部屋に入った。
貴族の主人用の部屋なのでそりゃもう広い。
心配したベッドの大きさも、うん広いわ。背が高く体躯の大きなフィリベルト様でも余裕の安心サイズだ。
私だったら二人どころか四人寝ても余裕でしょ?
しかしこの部屋、やたらとドアの数が多い。
一体何のためにあるのだろうかと、緊張を紛らわせるために、部屋にあるドアをガチャガチャと開けていく。
一つ目はクローゼット。
二つ目は、
「あれ?」
「おや奥様、どうされました?」
ドアの先は女性従者の部屋だった。
「なんでこのドア、従者のお部屋に繋がってるの?」
「いざと言う時に廊下に出なくてよいようにだ」
と、後ろからフィリベルト様が教えてくれた。
なるほどそういう物なのか。
じゃあ反対側の扉は従者男性部屋と言うことかしら?
しかし開けて確かめる勇気は無くてスルーした。だって開けて着替え中の半裸の男性がいたら困るじゃない?
他に部屋の中にあるドアは~と、えとトイレに、あっ浴室!?
途端に顔が真っ赤になる。
何を今さら恥ずかしがってるののよ!?
一緒の部屋と言うことは使う浴室も同じに決まっているじゃない!
そぅとドアを閉める。
しかし顔が真っ赤なままなのは自覚中、うう恥ずかしい。
すると、
「そこはベアトリクスが使ってくれ。俺は男らと公共の浴室に行ってくる」
「えっ、でも」
「なに偶には兵士時代を思い出して、奴らとも語らってやらんとな」
最もらしい事を言っているけど、つまり逃げたと言うことよね?
さすがにお風呂からいっしょと言うのは私にも敷居が高かったから、逃げてくれてちょっぴり安心したのは内緒だ。
お風呂から上がり、私はエーディトに髪を整えて貰った。
「お召し物はどうされますか?」
「う~、……いつも通り、でいいわ」
するとエーディトが心配そうに明るい色のネグリジェを出してきた。
ネグリジェなので裾を捲るとすべて丸見えになるのは当たり前。それにしてもいつも着ているのに今日ばかりは着るのにかなりの勇気が要ったわ。
「旦那様は軽食に甘い物を好まれるそうです。
チョコレートなどをこちらに置いておきますね」
この優しい姉は前にした約束通り、どうやら城の人に聞いておいてくれたらしい。
「あ、ありがとうお姉ちゃん」
「ふふっじゃあね。お休みベリー」
優しい笑みを浮かべてエーディトは従者部屋へと去って行った。
大きなベッドの上にちょこんと座る。
一人になってしまった。前と同じでバクバクと心臓が煩い。
えと……明かりの灯った部屋でこの
じゃあ灯りを消す?
いいえダメだわ。慣れない部屋で明かりを消しておいて戻ったフィリベルト様が躓いたらと思うと、無暗に明かりを消すのも躊躇われた。
どうやって待っているべきかしら?
しかしこのような経験が無いのだから考えても良い案は一向に出てこなかった。
私はうぅ~と唸り、ベッドのシーツを頭まで捲って視線だけをドアの方へ向けて待つことに決めた。
正解かどうかは知った事か!
ドアの鍵がガチャリと開いた。
緊張からその音でビクッと体が震えた。
ドアが開いて軽装に着替えたフィリベルト様が入ってくるのが見える。彼の視線はベッドに向かい、
「ん、ベアトリクスはもう寝たのか?」
「い、いいえ。起きています」
「そうか」
短くそう言うとフィリベルト様はこちらに近づいて来て……
バクバクと心臓の鼓動がさらに激しくなる。
すっと……
通り過ぎて奥のソファで横になった。
がばっ!
私はシーツを跳ね上げて、
「なんで真っ直ぐソファに行くんですか!?」と食って掛かった。
「うっ、悪いが目のやり場に困る少し隠してくれ」
「何を言っているのですか、フィリベルト様は私の旦那様なので見てよいのです!」
怒りから、手をバッと左右に広げてさあ見ろと、大胆なアピールをしてしまった。恥ずかしいが今さら隠すわけにもいかず、ええいと虚勢を張ってズィと近寄った。
「分かったから、少し落ち着け」
口ではそう言っていても、その視線はやや斜めを向き、決してこちらを見ようとはしなかった。
「私は落ち着いていますわ。
フィリベルト様? もしやソファでお眠りになるつもりではありませんよね?」
「うっ」
「良いですか、もしも! フィリベルト様がソファで眠られると言うのでしたら私もソファで眠ることにします!
旅で疲れた私をソファで眠らせたくないと思って頂けるのなら!
フィリベルト様もこちらのベッドでお眠りくださいませ!!」
しぶしぶと言った風にソファから立ち上がりベッドへ移動する。
そして中央にソファから持ってきたクッションを並べ始めて、
「俺はこっち側で寝るからベアトリクスはそっちで寝てくれ」
女子か!?
瞬時に怒りが沸騰したが、それは一瞬で冷めて、
「これはあんまりです……」
さすがに情けなくて涙が溢れてきた。するとフィリベルト様からは「むぅ」と困った声が聞こえてきた。
泣いちゃダメだ、私はこういう困らせ方をしたかったんじゃない。
涙が流れる前にぐいと袖で目元を拭い去る。何とか涙が流れるのは阻止したが、しかしぐすぐすと鼻をすするのは止められなかった。
「悪かった。だが約束の時までには決心するつもりだ。
済まないが今日は……
いや。そうだな、手を繋いで眠るのはどうだろうか?」
「手ですか、ぐすっ……」
「ダメか?」
「ではフィリベルト様から繋いでください」
私はすっと手を中空に差し出した。
「よしではベアトリクス、手をお繋ぎして頂けますか?」
「ええ良くってよ」
大きな手がそれを包み込んだ。
ごつごつした大きな手。
その暖かい体温を感じながらその日初めて二人で眠った。
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