05:一路、王都へ─新婚旅行(仮)─③
「ねえもしかして不能なのではないかしら?」
「はぃい?」
巻き舌で妙な返事を返してきたのは、私が姉と慕うエーディトだ。
この旅が始まり十日ほど、毎日同じベッドに寝て色々と悪戯じゃなくて、アピールして来たがフィリベルト様の様子は変わらず。
自らの意思で行われたことは手を握るだけ。
後は無意識化の事で、うっかり肌に触れたのと、寝ぼけて抱き枕扱いされただけだ。
さすがに抱き枕扱いは恥ずかしかったけれども!
ほとんど肌蹴ていたことだし!!
我慢し続けたら着衣の乱れを直されてしまった。
「男の人ってそんなに我慢できるものなのかしら?」
「ねぇベリー? 勘違いしているかもだけど、わたしは貴女と同じ女性で、おまけに経験も無いからその質問には答えられないわよ」
「う~ん残念。ここにベルハルトが居たら良かったのに~」
「きっとベルも答えてくれないと思うけど?」
「そうなの?」
「ええそういう物だと思うわよ」
二人で話していても埒が明かないと、私たちは場所を変えた。
やって来たのは女従者の部屋だ。
「それででわたしのところにいらしたのですか?」
いつも凛々しい表情を見せていたビルギットだが、今回ばかりは流石に呆れ顔を隠すことは出来なかったらしい。
「ビルギットなら判るかな~と思ってね」
「そうですね、男性の兵士がそのような所に行く話は良く聞いておりましたが、残念ながら閣下が行かれたと言う話は聞いたことがございません」
「やはり不能なのかしら」
「その質問はわたしではお答えできませんよ」
そして苦笑。
「ごめんなさい変なことを聞いたわね」
「いえ構いません。
王都に行ったら閣下と親しかった騎士連中に聞いてみましょうか?」
「う~んそれだと大事にならない」
「確かに……」
「ダメに決まってます!
その様なことを聞けば、奥様と旦那様がまだ関係を持っていないことが知れて吹聴されます」
「あっ確かにディートの言う通りだわ」
「そうですね、危うく口を滑らせるところでした」
※
馬車は大きな港町に入っていた。
ここから船に乗って約六時間で対岸の港町にたどり着く。対岸の町から王都までは馬車で三日の距離だ。
「もう少しですね」
「ああそうだな。ところでベアトリクスは疲れていないか?」
「そうですね、少しだけ疲れています」
「よしならば今日はここで休もう」
「よろしいのですか、まだ船便はあるそうですよ」
この町に入ったのは昼下がりだった。
対岸の町までは船で約六時間。夜に動く船は無いので、今日はここで足止めだろうと思っていた。しかし先ほど、船便を確認してきたビルギットによれば、あと一便だけ今日出立する船があったのだ。
だからそれに乗るものと思っていたのだが……?
「ここまで無理をしてきたのだ、きっと皆疲れているはず。今日はぐっすり休んで明日の朝の便に乗ろう」
「分かりました。では皆に休むように伝えますわ」
小さな町とは違って、ここは王都を結ぶ大きな街なので宿は選び放題だった。
なるべく安い宿を探し、
「この値段ならば主人の部屋は二つでどうだろうか?」
「つまりフィリベルト様は私と寝るのが嫌なのですか?」
「いやそうではない。ここまでかなり無理をして来た。旅の疲れを癒すには、ここらで一人でゆっくり寝る方が良いと思わないか」
「そういうのを、私と寝るのが嫌だと言うのです!」
「では晩餐まで街を一緒に歩こう。それで許してくれないか」
「そこまでして一人で眠りたいと仰るのですか?」
「いや、まぁ……」
「分かりました譲歩いたします。ただしデートは絶対、それからっ」
と言ってフィリベルト様の袖をちょいちょいと引く。
「ん?」
「耳を」
「ああ」
私の身長でその高さに届く訳はない。
するとフィリベルト様は大きな体を曲げて私に耳を寄せてきた。
「(口づけをしてくれたら許しますわ)」
と、こしょりと呟く。
こんなことを大ぴらに聞かせるわけにもいかないものね。
「なっ!?」
「今の約束が果たされない限り、私は絶対に譲歩いたしません!」
「い、いまか?」
「いいえ。後ほどお部屋でお待ちします」
「わ、分かった」
残念ながら今晩は一人寝になりそうだけど、この取引ならばは悪くないと思うわ。
部屋に入りエーディトに手伝って貰い、埃で汚れた衣服を着替えておく。さらに軽くお化粧を整え直して貰ってフィリベルト様が誘いに来るのを待った。
心持ち待たされた感が沸きはじめた頃にフィリベルト様が入っていらした。
「済まない待たせたか」
「いいえ」
と言うのは社交辞令。
いま椅子に座っているけれど立つべきか、それとも座ったままか?
フィリベルト様の動きは無し。
う~ん立ち上がって近寄るべきかしら。
悩んでいるうちにフィリベルト様は私のところまで歩み寄って来た。
「ベアトリクス手を」
手のひらを上に向けて、大きな手が私の目の前に差し出されてくる。武器を振るう人特有のごつごつした手、それに私は自分の手をそっと乗せた。
まるで力が入ったように見えなかったが、とても力強く引かれて立ち上がった。
そのままフィリベルト様の顔が降りてきて、頬にスッと軽く触れて去って行った。
「えーっ頬ですか~?」
「どこにとは言われていないはずだが」
「ズルいです!」
「むぅ。ではデートの終わりにもう一度しよう。それで許してくれ」
「では今度こそ唇にお願いします」
「二度に分けたのだそこは我慢してくれ」
「はぁ……、まさか一日の間に二度も譲歩することになるとは思いませんでした」
「それは悪かった。ではデートの間せめてこの手は離さぬようにいたそう」
「分かりました。絶対に離さないでくださいね!」
私の笑みにぎこちなく笑みを返すフィリベルト様。
うんうん、間合いはしっかり詰まってきてているみたいね。
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