第32話. 異世界の少年、地球で受験をする。
「忘れ物ない?受験票持った?」
「うん。大丈夫だよ」
まるでお母さんみたいな美咲に言われ、俺はリュックの中をもう一度確認する。
「それじゃあ、シンくん、頑張ってね。終わったら連絡してね」
「うん。ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
俺は美咲に背を向けて、
一度後ろを振り向くと、美咲が笑顔で手を降っている。
応援してくれている美咲のためにも頑張らないとな。
俺はそう思って、靴を脱いで美咲に用意された靴に履き替える。
夏の7月中旬、陽射しは強く、青空には白い雲が穏やかに浮かんでいる。気温は高めで、太陽の光が地面を照りつけている。木々は深緑の葉を茂らせ、風に揺れながら日差しを遮る影を作り出している。
美咲が期末試験を終えた翌日、俺は陽川高校の編入試験を受けにきていた。
陽川高校に訪れるのは今日が初めてなこともあって、俺は陽川高校の生徒でもある美咲と一緒に来ている。
「えっと、ここで合ってるよな」
俺は受験票に記載された教室の名前と今目の前にいる教室の名前を照らし合わせる。
教室が正しいことを確認して、俺は教室の中へと入る。
白くて清潔感のある壁が取り囲む教室の中には、俺と同じく今日試験を受けにきた少年、少女が10人ほど見受けられる。
「こんにちは。受験票を確認させてもらってもよろしいですか?」
「あ、はい」
試験官と思われる上下黒いスーツを着た女性に受験票を見せる。
「えー、あなたの席はあそこになりますね」
女性はそう言いながら、5列に並べられた席の後ろの方を手のひら全体で指し示す。
俺は女性から受験票を返してもらい、女性に言われた席へと向かう。
席に着くと、左隣には陽光の中で輝いているかのように明るく輝いている金髪でロングヘアの少女がいる。少女の金髪は柔らかな波がかかり、窓が少し空いていたところから入ってくる風にそよぐたびに軽やかな動きを見せる。太陽の光が差し込むと、金髪がキラキラと輝き、まるで宝石のような美しさを放っている。
少女のロングヘアは背中まで届き、その質感はしなやかで手入れが行き届いている。風になびくたびに、ヘアの先が軽く揺れ、優雅で女性らしい雰囲気が漂っている。
綺麗な子だなー。ん?なんか、どっかで見たことがあるような、ないような……
俺はそんなことを考えながら、リュックから青くて細長い筆箱を出して受験の準備を整える。
「ねえ、そこの君」
試験が始まるまで30分ほどまだ時間があったため、俺は数学の参考書を開いて復習をしていると、左肩を何者かによってトントンと叩かれる。
声の主の方を振り向くと、左隣に座っている金髪少女と顔を合わせる。
ん?
俺は彼女の顔を見て口を真一文字にする。
俺は、この少女を知っている––––––––––
星の形をしたイヤリングを身につけている金髪少女。彼女が身につけているイヤリングは細部にまでこだわりがあり、入手がとても困難な最高品質の魔法石・セレスティアルでできている。魔法石・セレスティアルは透明度が高く、見る者をうっとりさせるほどに澄んでいる。また、内部には微細なキラキラとした輝きが閉じ込められている。
そして何よりも一番特徴的なのは、彼女の瞳と顔である。透明感のある藍色の大きな瞳には、角膜の上に黄色い大きな星が映し出されている。彼女の小さな鼻は可愛く、口元はやや小ぶりで愛らしい形状をしている。唇は自然なピンク色であり、整った顔立ちは清澄で、まるで絵画のような美しさが漂っている。
「君、どうしたの?」
俺が少しの間黙っていると金髪少女は首を横に傾げる。
「あ、すいません。どうしましたか?」
我に返った俺は金髪少女の話を聞く。
「今日消しゴムを忘れちゃったんだけど、君、2つ持っていたりしない?」
「け、消しゴムですか……」
「うん」
「ありますよ」
美咲に言われて2つ消しゴムを持ってきていた俺は「どうぞ」と言って、机においていた2つの消しゴムのうち、1つを金髪少女に渡す。
「ありがとう」と言って彼女が消しゴムを受け取ると、試験官である女性が口を開く。
「試験10分前になりましたので、机の上は筆記具のみにしてください」
試験官に言われ、俺は数学の参考書をリュックの中にしまう。
「これ、ありがとう」
「うん」
全ての試験を終えると、俺は金髪少女から消しゴムを受け取る。
「それじゃあ、私行くね。今日は助かったよ。ありがとう」
そう言って金髪少女は長い髪を揺らしながら教室を出ていく。
俺は未だ状況が掴めず、思案に暮れている。
どうして、彼女がここに……この世界に来たのは俺だけではなかったってことか?……
ちなみに、試験中はとりあえず金髪少女のことを頭の片隅において、試験にしっかりと挑んでいた。どの教科も手応えがあり、自信もある。
ここで考えていても仕方ないか、とりあえず美咲に連絡しよう。
そう考えて、俺は美咲に試験が終わったことをPINEで連絡する。
次の日、俺の頭の中は四六時中金髪少女のことでいっぱいだった。
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