第3話. 異世界の少年、逆・異世界人に秘密を共有する。

 「《飛行フライ》」


 四つの車輪をつけた流線形の物体が美咲に衝突する瞬間、俺は美咲の手を取り、上級に達する6級レベルの《飛行》を使用する。

 すると、俺と美咲は地面から5mほど浮かび上がり、隣にいる美咲は空中に浮かんでいることに驚きの表情を浮かべている。



 カッシャン!


 猛スピードで走っていた四つの車輪をつけた物体は、俺と美咲がいた場所を通り過ぎてその先にある住宅の壁に俺が設置した《反発壁クッション》に衝突して停止する。

 《反発壁》とは、衝撃を吸収してくれる上級の6級レベルの防御壁である。



 乗り物が《反発壁》によって止まると、俺は美咲と一緒にゆっくりと降下する。

 無事地面に着地すると、美咲は未だに困惑した表情をしている。



 「佐藤さん、大丈夫ですか?」

 「は、はい。大丈夫……だと思います。助けて下さってありがとうございます」


 俺が美咲に声をかけると、美咲の体がピクリと動き、俺の質問に答える。

 

 「あの……先ほど私は空中に浮かんでいたと思うのですが、これは私の思い込みでしょうか?」


 美咲は、まだ先ほどの状況を理解できていない様子で俺に恐る恐る質問してくる。

 あれ?美咲は魔法を知らないのか?


 俺は美咲の質問に疑問を抱きながらも、即答する。


 「佐藤さん、先ほどは空中に浮かんでいましたよ」

 「やはり、そうだったんですか!?」


 美咲は、衝撃の事実に目をパチクリさせる。


 「でも、どうして私は空中に浮かんでいたのですか?」

 「佐藤さんが浮かんでいた理由は、魔法が原因です。僕が飛行魔法を使用しました」

 「ま、魔法ですか?魔法って非現実的なものだと思っていたのですが、魔法は実際に存在するのですか?」

 「はい。って、この時代に魔法はないのですか?」

 「無いですよ」


 あれ?俺は時を越えたきたのではなかったのか?そうでなければ、ここはか?俺は異世界に来てしまったのか?いや、まだ異世界だと決まったわけではない。単純に魔法というものが廃れてしまった可能性もある。

 俺は頭の中でぐるぐると思考を巡らせる。

 そうだ、美咲に聞いてみるか。どうせ、俺が魔法を使えることを美咲は知ってしまったんだから、例えここが異世界だったとしてももう誤魔化せないんだし。


 「佐藤さん、一つ変な質問をするのですが、よろしいですか?」

 「はい、どうぞ」

 「ここはどこですか?」

 「ここは……」


 ゴクリ。

 俺は、次に美咲が発する言葉に意識を集中させる。


 「……日本です」


 美咲の言葉を聞いて、俺は確信する。俺はに来てしまったことを。

 そして、俺は決心し、美咲に本当のことを打ち明けようと口元をゆっくりと開く。

 

 「佐藤さん、どうやら、僕は異世界から来てしまったようです」

 「い、異世界……ですか」


 美咲は再び驚くが、俺が魔法を使えることを知ってしまったことで、思ったよりも美咲のリアクションは薄かった。


 

 ぐぅううううーー


 美咲に俺が異世界人だと伝えた刹那、俺のお腹が鳴ってしまった。

 そういえば、この世界に来てからまだ何も食べてなかったな。


 俺のお腹が鳴ると、美咲は先ほどまで驚いていた表情を抑え、微笑みを浮かべる。


 「お腹が空いてしまったのですね。何かお礼がしたいので、このあと、もしシンさんが良ければ私の家に来ませんか?もう少しシンさんのことについて知りたいので」

 「分かりました。お願いします」


 俺はお言葉に甘えて美咲の誘いを受け入れる。


 「では、私はまず警察に連絡しますね」

 「警察って何ですか?」

 「警察というのは社会の治安維持のために働いてる人たちのことです」

 「……わ、分かりました」


 はぁぁ。

 何かこのあと面倒なことに巻き込まれるような予感が……

 俺は深くため息を吐く。


 美咲に「警察」という組織について教えて貰うと、俺はエルデン国の衛兵隊みたいな組織に似ていると感じる。


 エルデン国の衛兵隊は、国の秩序、国民を守るためにある組織である。時には侵攻してきた魔族と戦い、時には悪人などを始末している。


 俺は一度衛兵隊によって酷い目に遭った経験があった。一度衛兵隊に目を付けられると、たとえ衛兵隊が誤解していてもこっちの話を全く聞いてもらえず、一方的に責められる状態になってしまう。


 だから美咲が警察に連絡すると、心に不安が漂い、まるで遠くの雷鳴が近づいてきたような、不穏な予感が俺の心をかすめた。




 美咲が警察に通報を済ませ、警察が俺たちの元へやってくると、予想していた通り色々と事情徴収されて大変だった。一番回答に困ったのは、あの四つの車輪をつけた流線形の不思議な物体、車というものが壁に衝突したにも関わらず無傷だったことだ。《反発壁》によって車は無傷だったが、美咲以外の人に魔法のことについて話すわけにはいかなかったので、俺は何とか適当な理由を考えて状況を乗り越え、今は美咲の家を訪ねていた。


 

 「シンくん、遠慮しないでたくさん食べてね」

 「あ、はい。ありがとうございます」


 俺は今ダイニングテーブルで美咲の家族と一緒に食卓を囲っている。

 この世界の料理を俺は今初めて食べたが、なんというか非常に美味しい。今食べてるのは美咲のお母さん、千穂ちほさんが作った「生姜焼き」という料理らしいが、俺の世界での料理とは全く別物だった。

 焦げ目が付いている肉の表面には生姜の香りが広がっている。

 一口食べると口の中に広がる生姜の風味が特に素晴らしく、それが肉の絶妙な味わいを引き立てている。それに加え、肉がジューシーで非常に柔らかく、白ごはんとの相性も抜群である。



 「シン、今日は美咲を助けてくれてありがとな」

 「あ、はい」


 美咲のお父さん、修二しゅうじはとてもフレンドリーで陽気な性格をしていた。


 「それでだ、今日はもう遅いし泊まっていきな」

 「そうね……シンくん、今日は泊まっててね」

 「あ、いや……」

 「ちょっと、お母さん!シンくんが困ってるじゃない。それにシンくんが泊まる部屋ないよ」

 「それなら大丈夫よ。シンくんは美咲の部屋で寝てもらうから」

 「え!?聞いてないって。シンくんとはもう少しお話したいけど、お泊まりになるなんて聞いてないよ」

 「でも、平気でしょ?」

 「ま、まあ、私は平気だけど……シンくんはどうなの?」


 美咲はまだ今の状況に追いつけていない様子だった。



 「で、では、お言葉に甘えてお願いします」


 俺は美咲の両親に今日は泊まるように誘われたが、とても断れる状況ではなかったので今日は美咲と一緒に寝ることになった。

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