第4話. 異世界の少年、地球でお泊まりをする。①
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「お粗末様です。シンくん、お風呂が沸くまで自由にしてていいわよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ……シンくん、私の部屋で一緒にお話ししよ」
「う、うん」
俺は夕食を済ませると、美咲の誘いに頷き、テーブルから離れて美咲の後をついて行く。
「こっちよ、私の部屋は」
俺は二階に続く階段を登り、美咲の部屋の前に辿り着く。
美咲が部屋のドアを開けると、その先には可愛く装飾されている部屋があった。
「お邪魔します」と言いながら美咲の部屋に入ると、中には机や、ベッド、本棚、小型テーブル、クッションなどが配置されている。机の上は整然と整頓され、桃色のベッドには小さな動物が何匹か座っている。しかし、奇妙なことに、それらの小さな動物たちはピクリとも動いていない。
俺が小さな動物たちを凝視していると、隣にいる美咲が俺の視線の先に気付き俺に声をかける。
「ベッドの上に座ってる動物たちはぬいぐるみっていうんだよ」
「ぬいぐるみ?」
「うん。ぬいぐるみっていうのは、裁断された布を縫合して動物の形にしたとても触り心地が良いものなんだよ。良かったら触ってみる?」
「うん」
俺は美咲から小熊の形をしたぬいぐるみを受け取ると、そのぬいぐるみの触り心地は美咲が言った通り、非常に柔らかく、温もりを感じた。
「どう?モフモフしてて触り心地良いでしょ?」
「そうだね。初めてぬいぐるみというのを触ったけど、めっちゃ柔らかいね」
「でしょ?それに、この子たちめっちゃ可愛いでしょ?」
「うん。俺の世界にはこんなものなかったから、この世界の技術はすごいね」
この世界の技術の進歩に、俺は非常に関心する。
俺の世界には、この世界で一般的な電車や、車、スマートフォンなどのものが存在しないため、俺はこの世界の全てに驚きを覚えていた。
「お風呂が沸いたわよ。美咲とシンくん、順番に入って良いわよ」
「はーい」
一階から
お風呂の湯が沸くまで、俺は美咲が持ってる他のぬいぐるみも見せてもらい、その他にもこの世界のもの、例えばパソコンなどといったものを紹介してもらっていた。
もう、俺は既に驚きに慣れてしまった。
「シンくん、先に入って良いよ」
「いや、美咲が先に入って良いよ」
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えて先に入るね」
そして、美咲はドアの近くにあるクローゼットに向かうと俺に一つお願い事をしてくる。
「ごめん、シンくん、少しの間ベッドの方に向いててくれる?着替え出したいから」
「う、うん。分かった」
俺は美咲のお願いを受けて、素早くベッドの方に体を回した。
まず美咲の部屋に入ると、左側には勉強本や漫画という本が本棚に並び、本棚の奥には桃色のベッドがある。そして、入った右側にはクローゼットがあり、部屋の右上の隅には机と椅子が置かれている。
俺がクローゼットに背を向けると、後ろの方でクローゼットの扉が開く音がした。
「もう大丈夫だよ、こっち向いても」
俺は美咲の言葉を聞き、美咲の方に体を戻す。
「じゃあ、私、お風呂行ってくるね。少しの間、リラックスしてて」
「うん、分かった」
美咲はそう俺に言って、部屋のドアを開けて一階に向かう。
ふー。
美咲がお風呂に向かうと、俺は一人で深く息を吐く。
数秒前までは、自分の心臓の鼓動が美咲に聞こえてるのではないかと心配していた。そこで、俺は美咲に動揺してる様子が見えないよう、平静な表情を装っていた。しかし、美咲が出て行った後も、未だに心臓は激しく鼓動し続けている。
俺は自分が居た世界でも女子の部屋にあがったことが今まで一度も無く、今回が初めてだった。
美咲には「リラックスしてて」と言われたものの、全くリラックスできる気がしない。これからどうすれば良いんだ?しかも、今日は美咲と一緒に同じ部屋で寝るのか?全く眠れない気がしない。とりあえず、一度落ち着いて冷静に考えよう。
すぅー。はー。すぅー。はー。
俺は再度深呼吸を二、三度する。
今日は美咲と一緒に寝ることになるけど、明日からはどうしよう。俺はこの世界に来たばかりだからお金もないし、住む場所もない。美咲の両親には「最近引っ越してきました」と伝えているが、とても「異世界から来ました」などとは言えない。美咲だけが俺が異世界から来たことを知っている。それに、美咲は誰にも言わないと約束してくれている。明日以降のことについて考えるのも大事だけど、今明日以降のことについて考えても仕方ない。とりあえず、今は今夜を無事に乗り越えられるかが心配だ。
♢♢♢
ジャッボン。
「はあ……」
まさか、男の子と一緒の部屋で寝ることになるなんて。
私は体を洗い終えお湯に浸かると、真っ先にこの後のことについて考える。
別にシンくんのことは嫌いではないけど、まさか出会った初日に同じ部屋で寝ることになるなんて思ってもなかった。普通じゃ考えられないよね。部屋に上げることは最初から考えてたから良いんだけど、お泊まりなんて全く想定外だった。
「もう、お母さんのばか……」
私は小声で呟いたつもりだったが、思ったよりも浴室内に響いてしまった。
私、多分今日寝れないかも。幸い、明日が土曜日で良かった。もし明日が平日だったら、睡眠不足で授業内容が頭に入ってこないところだった。
もちろん、同じベッドではないけど、真隣に同い年の男の子が寝ているのを知っていると、どうしても落ち着かなくて寝れない。まあ、でもこれ以上考えても仕方がないよね。別のことを考えよう。
そういえば、シンくんが居た世界ってどんな世界だったんだろう。魔法にもとても興味あるなあ。
さっきまでは羞恥心に追われていて私の体が少し熱く感じたが、異世界や魔法のことついて考えると、今は体から熱さが少し引いたように感じた。
お湯に5分ぐらい浸かった後、私はお風呂から出て、脱衣所に上がる。そして、ドライヤーを使って髪を乾かし、乳液などを肌に塗ってスキンケアを行う。
♢♢♢
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