第45話. 異世界の少年、地球で夏祭りに行く。⑩

  人混みを抜け、陽川神社ひかわじんじゃを後にすると、俺たちは手持ち花火、チャッカマン、バケツを購入するために近くにあるコンビニ来ていた。



 「いらっしゃいませー」


 コンビニの中に入ると、冷房の効いた空間が広がる。また、コンビニの入店時に鳴る音と同時に俺たちを迎え入れる声が聞こえてくる。


 コンビの中では明るい蛍光灯の光が、商品陳列棚に反射して、清潔感のある明るい雰囲気を醸し出していた。また店内は整然としたレイアウトで、各種商品がカテゴリー別に並べられている。

 レジの前では、若い男性店員がお客さんと丁寧に対応していた。店内のBGMが、穏やかな音楽を流しており、その音楽商品選びを楽しく彩っている。棚には飲み物やお菓子、弁当やサンドイッチ、冷凍食品、雑誌や新聞が整然と陳列され、多様なニーズに応える商品が揃っている。

 冷蔵ケースからは冷たいドリンクやスイーツが、棚には温かいおにぎりや揚げ物がどの香りが漂っている。他のお客さんが商品を手に取り、商品を見ながら微笑む様子が見受けられ、コンビニの中には便利でアットホームな雰囲気が広がっている。


 

 「そじゃあ、花火コーナー行こっか」


 美咲はそう言って、コンビニ内を歩き回って、手持ち花火が売られている場所を探す。


 「あった」


 美咲が見つけた場所には、「手持ち花火」と書かれたパッケージが並べられていた。

 一つ一つのパッケージの中には、様々なデザインの紙によって半分包まれた細いスティックみたいなものがたくさん入っている。


 「みんな、どれにする?」


 美咲はみんなの意見を尋ねる。


 「私はこれが良いかな」

 「俺はこっち」

 

 ことりと悠斗は別々のパッケージを指差すが、俺にはどちらも同じにしか見えない。

 それぞれのパッケージには「大満足!」や、「超ボリューム!」などといったことが書かれいた。


 「桐嶋くんは?」

 「俺はどれでも良い」

 「そう……」


 浩介は「どれも一緒だろう」と思いながら、どうでもよさそうな表情を浮かべる。


 「シンくんは?」


 浩介の返事を聞いた美咲は、最後に俺に尋ねる。


 「俺もどれでも良いかな。美咲たちに任せるよ。ぱっと見、どれが良いのか俺には分からないし」

 「分かった」


 実際に俺には分からない。今日初めて手持ち花火というのを知ったので、どれが1番が良いのかなんて分からない。


 「それじゃあ、ことりと山本くん、じゃんけんで決めよっか」

 「賛成ー」

 「分かった」


 美咲の提案を受け入れたことりと悠斗は、美咲と3人でじゃんけんを始める。


 「「最初はグー、じゃんけん––––––––––」」


 「「ポン!」」



 「やったー、私の勝ちね」


 美咲と悠斗がパーでじゃんけんの勝者は、ことりだった。


 「それじゃあ、ことりが最初に選んだやつにしよっか」


 そう言って、美咲はことりが最初に選んだパッケージに入った手持ち花火セットを選ぶ。


 「みんな、先にレジに並んでてくれる?私、バケツとチャッカマン取ってくるから」


 美咲は手持ち花火セットをことりに1度託すと、バケツを取りに行こうとする。

 しかし……


 「美咲、その必要はない」


 そんなクールな声を出した浩介は、既に手に持っているチャッカマンと青いバケツを美咲に見せる。


 「いつの間に!?」


 美咲は浩介の行動に驚きの表情を浮かべる。

 実際、俺も驚いている。

 さっきまで信玄袋しか持っていなかった浩介が、美咲たちがじゃんけんをしている間に既にチャッカマンとバケツを持ってきていた。


 「桐嶋くん、ありがとう。それじゃあ、全部必要なものは揃ったし、レジ行こうか」


 美咲が浩介に感謝の言葉を伝えると、俺たちはレジの方へと向かう。




 コンビニで手持ち花火セットを購入して、俺たちは5分ほど歩くと、小さな公園に着いた。


 「それじゃあ、早速準備してやろっか」

 「俺、水を汲んでくるよ」


 公園のベンチの近くで俺たちは手持ち花火の準備を始める。

 悠斗はバケツを持って自ら近くの蛇口で水を汲みに行き、残った俺たちは手持ち花火セットのパッケージを開け、パッケージの中から全ての手持ち花火を取り出す。



 「ほら、汲んできたぞ」


 悠斗はバケツに少し水を汲んで戻ってくる。


 「山本くん、ありがとう。こっちは準備できたから早速やろっか」

 

 「「うん」」


 俺たちはそれぞれ取り出した手持ち花火を1本手に取る。


 「浩介、頼む」


 悠斗はチャッカマンを持った浩介に火をつけてもらうように頼む。

 悠斗の頼みに答え、浩介は悠斗が持っている手持ち花火に火をつける。


 「みんな、悠斗から火をもらってくれ」


 浩介に言われて、美咲たちは既に花火が出ている悠斗の手持ち花火から火を分けてもらう。

 俺も美咲たちの様子を見て、悠斗から火をもらうことに成功する。


 「綺麗」


 俺は目の前の花火を見て、ポツリと感想を呟く。


 先端に灯った導火線がスパークを放ち、ひとしずくのような光と音の軌跡が闇を切り裂くように広がっている。

 綺麗な色彩の花火が開花する瞬間、周囲に光と色が舞い散る。ピンク、青、緑、黄色など、様々な色が交じり合って夜空を彩る。その美しい花火は、まるで宝石のように輝き、夏の夜を神秘的な雰囲気に包み込む。


 

 「シンくん、どう?初めての手持ち花火は?」


 手持ち花火を楽しんでいると、俺の隣に美咲が寄ってくる。


 「楽しいよ。それにこんな棒から花火が出るなんて不思議だよ」

 「それなら良かった。そうだ、シンくん、一緒に写真撮ろ!?」

 「良いよ」


 俺の了解を得た美咲はスマホを取り出し、セルフィーモードへと切り替える。


 「いくよ」


 パシャッ!


 シャッター音とともに、美咲のスマホ画面に俺と美咲のツーショットが映し出される。


 「よく撮れてるね。あとで、シンくんにも送っておくよ」

 「うん。ありがとう」


 美咲に見せてもらった写真の写りは中々良かった。


 ちょうど写真を撮り終えた頃、しばらくの間輝きを保っていた手持ち花火は、儚く消えていく様子が瞬間的に美しい輝きを残して、輝きを失った。その美しさは、一瞬の中に感動と興奮を呼び起こし、夏の夜に特別な輝きを添えた。




 「浩介、見てみろ。2刀流だ」


 悠斗は2本の手持ち花火を持ちながら、浩介に自慢げに見せていた。


 「危ないから止めておけ」


 そんな悠斗を注意する浩介がいる。


 「悠斗、止めなよ。危ないよ」


 さらに悠斗を注意することりがいる。


 「山本くん、それすごいね」


 逆に悠斗を褒める美咲がいる。



 今日は思っていなかったことが起きた日だったが、この日は夏祭りに行って、そこでたくさん食べ物を食べて、最後には公園でみんなで初の手持ち花火をやった。

 そんなこの日は、俺にとってかけがえのない思い出になった。





 ◇ ◇ ◇


 「シンくんの手、大きくて男の子の手っていう感じだったなあ」


 手持ち花火でみんなとたくさん楽しんで帰宅したあと、私はお風呂でお湯に浸かりながらそんなことを呟いた。


 ◇ ◇ ◇

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