第44話. 異世界の少年、地球で夏祭りに行く。⑨

 「あ、戻ってきた」


 美咲が落ち着いて、2人で会話を交えていると、ことりの姿が見えてきた。


 

 「さきりーん」


 俺たちに気づいたことりは、美咲の名前を呼びながら俺たちの方へと走ってくる。

 ことりはそのまま美咲に抱きつく。


 「ことり、心配かけてごめん」

 「もうどこに居たの?心配したんだからね」

 「ごめんね」

 「でも、無事で良かった」


 ことりは美咲の体に触れて安心のあまり、小さな雫を一滴瞳から落とす。



 

 ことりが戻ってきてから5分後……


 人混みを抜け出した悠斗と浩介の姿が俺の視界に映る。



 「シン、それに美咲、戻っていたのか」

 「うん。約束の時間に間に合わなくてごめん」


 俺は浩介に謝る。


 「いや、問題ない。こうして、無事に戻ってきてくれたんだ」


 「それにしても、シン、どこにいたんだよ。美咲を探しに行ったきりシンが戻ってこなかったら、さっきは焦ったぜ」

 「悠斗くん、ごめん」

 「でもまあ、無事シンも美咲も戻ってこれたなら良かったぜ」


 悠斗は「気にすんな」って感じの様子だった。



 「それにしてもよー、シンと美咲はどこにいたんだ?」


 悠斗は再び口を開き、不思議そうに尋ねる。


 「話が少し長くなるんだけど、良いかな?」


 悠斗たちが頷いたことを確認して俺は、美咲が3人組の男たちにナンパされて暴力を加えられそうになったこと、そしてその男たちを俺が倒したこと、を悠斗たち詳しく話し始める。




 「そんなことがあったのかー」

 「さきりん、大丈夫?」

 「美咲、大丈夫か?」


 俺の話を聞き終えた悠斗たちは、美咲のことを心配する声を美咲にかける。


 「みんな、ありがとう、私はもう大丈夫だよ。シンくんのおかげで落ち着いたし」


 美咲は俺を含めて心配してくれたことりたちに改めて感謝するとともに、ことりたちを安心させる。


 「それにしてもシン、空手で黒帯の奴を倒したって本当なのか?」

 「ま……まあ」


 俺は軽く頷く。


 「すげーな、おい。実はシンってめっちゃ強いのか?」

 「……」


 返す言葉が出ない。

 俺が異世界だと来たことを知らない悠斗に色々と話してしまうと色々と面倒なことになってしまう可能性がある。だから、現時点で俺が異世界人だと知ってる人は美咲だけで良いと考える。



 「ね、ねー。みんな、花火やらない?」


 俺が返事に困っている様子を伺った美咲は、俺のことをフォローする。

 俺は心の中で感謝しつつ、話を違う方向に持っていこうとする。


 「花火って、自分たちででもできるの?」

 「そうだよ。手持ち花火って言って、公園とかでやる小さな花火があるんだよ」


 俺の世界にも花火というのはあった。祭りの時や、建国記念日などに王都で大きな花火が打ち上げられていたからだ。

 だから、打ち上げ花火以外の花火があることを今知って、手持ち花火というのに興味が湧く。


 「なるほど。手持ち花火、やりたいかも」

 「私もやりたい!」


 俺に続いてことりも美咲の提案に賛成する。


 「山本くんと桐嶋くんはどう?」

 「そうだなあ、やるか、花火」

 「良いだろう」


 美咲の誘いに悠斗と浩介も乗る。


 「それじゃあ、コンビニで花火と、チャッカマン、バケツを買いに行こう」


 美咲は花火を楽しみにしている様子でコンビニへとみんなを引っ張っていく。




 俺たちは人混みの中を逸れないようにゆっくりと出口の方へと歩き進める。


 「手持ち花火やるのなんて、何年ぶりだろう。最後にやったのは4年前とかかな。ことりはどう?」

 「私は、去年弟と一緒にやったよ」

 「あー、ことりの弟、まだ小学生だもんね。今度会いに行こ」

 「うん。きてきて。こうたもきっと喜ぶから」


 ことり、弟いたんだ。

 俺たちの目の前での美咲とことりの会話を聞いて、俺は初めてことりに弟がいることを知る。


 「悠斗くんとか、浩介くんには兄弟いたりするの?」


 そして、俺は興味本位で悠斗と浩介に尋ねる。


 「俺は3つ上の兄貴がいるぜ」

 「俺はひとりっ子だ」


 どうやら、悠斗にはお兄さんがいるらしい。

 どんなお兄さんなんだろうか。やっぱり悠斗みたいに活発的な人だったりして。

 俺が悠斗のお兄さんのことを想像していると、悠斗は俺に問い返してきた。


 「逆に、シンは兄弟いたりするのか?」

 「うん。俺には4つ下の妹がいるんだ」

 「そうなんだな」

 「うん」


 そういえば、リリスはきちんと母さんと一緒に幸せに暮らしているのだろうか。

 俺は悠斗に聞かれて、俺の世界においてきた妹・リリスを再び思い出す。

 俺が突然いなくなって、きっと心配しているだろうなあ。

 俺はそんな心配を抱きつつ、母さんとリリスが幸せな日々を過ごせるように願った。

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