第31話. 異世界の少年、地球で受験勉強をする。

 夏が迫る6月下旬、自然は旺盛な生命力で満ち溢れている。朝の空気は清新で、太陽は早く昇り、日中の陽差しは一段と強く感じられる。風は軽やかに吹き抜け、新緑が木々を覆い、花々が咲き誇る。



 「シンくん、少し休憩しよっか」

 「そうだね」


 俺は美咲に賛同し、シャーペンを机に置く。

 俺は一度椅子から立ち上がり、両腕を上げて背中を反らせる。背伸びをすると、疲れた筋肉がほぐれ、体全体が気持ちよく伸びていく感覚が広がる。俺はゆっくりと深呼吸を繰り返し、その間に肩や腰のコリを解消する。

 

 

 「美咲も何か飲む?」

 

 俺はホットポットでお湯を沸かすついでに美咲に聞く。


 「んー。じゃあ、ココアを貰おうかな」

 「分かった。ちょっと待ってね」

 「うん。ありがと」


 俺はココアパウダーが入ってるスティックをキッチンの棚から取り出す。


 俺がこっちの世界にきて1ヶ月半弱、ある程度はこっちの世界での生活に慣れてきた。家の外に出るとまだ俺の知らないいことやものが多くあるが、家で暮らしていると何も不便なことはない。最近は少しずつ美咲と一緒に家事をやっている。



 カチッ。


 数分経つと、ホットポットの注ぎ口から熱い水蒸気が舞い上がる。

 俺は火傷しないように、厚いガラス製のマグカップと薄いガラスの製のマグカップにお湯を注ぐ。

 ココアパウダーが入っていたコップはお湯を注ぐと、お湯は段々と暗くて炭みの赤色に変わり、甘い香りが広がる。ただのお湯が入っているもう一つのマグカップは、時間が経つとともに段々と深みのある琥珀色へと変わる。



 「どうぞ」


 俺は2つのマグカップを持って、参考書や勉強道具が広がっているダイニングテーブルへと運ぶ。


 「ありがとう。シンくんは何にしたの?」


 美咲はふーふーと息をかけてからココアを一口啜ると、俺に尋ねてくる。


 「俺は紅茶にしたよ」

 「そうなんだ」



 俺はお泊まり会の時に紅茶を初めて口にして以来、紅茶にどっぷりとハマってしまっている。時々、コーヒーなどと違う飲み物を飲むこともあるが、高確率で俺はいつも紅茶を飲んでいる。




 「それじゃあ、そろそろ再開しよっか」

 「そうだね」


 息抜きとして美咲と少しの間会話したあと、俺は再びシャーペンを握り、参考書の文字を再び読み始める。


 俺は今美咲と一緒に勉強をしている。


 3週間ほど前にこっちの世界の学校に通ってみることを決めた俺だが、そのためには編入試験というのに合格しないといけないらしい。15歳からは誰でも入学できるレオナ魔法学園と比べて、美咲曰く、こっちの世界の学校は6歳の時から小学校、中学校、高校、大学の順で学校に通うらしい。そこで今回俺は高校に入学するため勉強をここ3週間、毎日12時間以上している。

 レオナ魔法学園に入学した時は、筆記試験と実技試験の2つの試験があったが、こっちの世界では筆記試験と面接の2つの試験が行わられるらしい。筆記試験の科目は「国語」、「数学」、「英語」の3教科である。「国語」と「英語」は全く別の言語であり、主な試験内容としてはリーディングであるため、《言語理解リンガイ》というどんな言語でも理解できる魔法を常時利用している俺にとっては「読解力」が鍵になる。俺自身、勉強は苦手ではなく、得意という部類に入るだろう。父さんが死んでからは、ある時をきっかけに数多くの魔導書を読んで自分を強化していたので、読解力には自信がある。それは、自分を強化するには魔導書の内容をしっかりと理解する必要があったからである。

 一方で、「数学」に関しては俺は全く勉強したことがなかった。そのため、俺は「算数」という小学校で習う数学を1から学んでいた。昨日までに小6までの算数の範囲を終えた俺は、今日からは中学校で習う数学の学習に取り組んでいる。



 えー、「x + 7 = 20のとき、xの値を求めよ」か、と。


 俺は参考書に書かれている問題を見てシャーペンを動かしてカリカリと紙に書く。


 俺が受験勉強をしている目の前で、美咲も期末試験のために勉強をしている。

 美咲曰く、こっちの世界の多くの学校では3学期制というシステムがあり、中学校からは毎学期の最後の方に期末試験というテストが存在するらしい。期末試験ではその学期に学んだことが試験内容になるらしい。




 「シンくん、ちょっと良いかな?ちょっとこの問題が分からないんだけど……」


 着々と参考書を進めていると、美咲は俺に分からない問題を質問してきた。


 「どれどれ」


 俺は美咲が解いている問題に目を通す。

 美咲が聞いてきた問題は英語のリーディング問題だった。


 「えっとね、これは––––––––––」


 俺は丁寧に分かりやすく説明する。


 美咲曰く、美咲は勉強が得意ってわけではないらしい。ある程度は勉強し、学年の平均は常にキープしているらしい。



 「なるほど。そういうことね。シンくん、ありがと」

 「うん」


 俺は美咲に勉強を少し教えたあと、再びシャーペンを持って中学数学の問題を解き進めた。

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