第30話. 異世界の少年、地球で外食をする。

 「シンくん、たまには外食でもしよっか」


 それは唐突な誘いだった。

 リビングのソファでスマホをいじっていると、勉強を終えリビングに戻ってきた美咲に誘いを受ける。


 「良いんじゃない」


 俺はスマホをポケットにしまって答える。


 「シンくん、何か食べたいものとかある?ほら、お肉系とか」

 「俺は何でも良いよ。ただ……強いて言うなら、まだ食べたことのない料理が良いかな」

 「それじゃあ、焼肉なんてどう?私、しばらく食べてなかったから久々に食べたいかも」

 「焼肉?」

 「うん。いろんな肉を焼いて食べる料理だよ」

 「なんか美味しそうだね。俺も焼肉食べたいかも」

 「じゃあ、決まりね」

 「うん」


 俺は一度部屋に戻って出かけるために着替える。

 美咲曰く、焼肉は肉を焼く際に油が飛び散ってしまう可能性があるため、汚れても平気な服を選ぶと良いらしい。

 そこで俺は、黒一色の長ズボンに黄色シャツを着ることにする。


 「シンくん、準備できた?」


 玄関から美咲の明るい声が聞こえてくる。


 「今いくー」


 俺は部屋の明かりを消し、玄関へと向かう。

 

 玄関に着くと、既に靴を履き終えて準備万端の美咲の姿がある。


 俺は「お待たせ」と言いながら、靴を履く。

 思えば美咲と一緒に出かけるのはショッピングモールに行った時以来か。平日は美咲が学校に行ってるし、週末はほとんど出かけることなく家にいることが多いんだよなあ

 俺はそんなことを思いながら、靴を履き終えて立ち上がる。


 「それじゃあ、行こっか」

 「うん」


 美咲は玄関ドアを施錠し、しっかり施錠できたか玄関ドアのハンドルを何度か引っ張り確認する。


 外は既に夕方になっていた。太陽は西の空に優しく傾き、その光が空をオレンジに染め上げている。夕陽が周りの家の影を引き立て、周囲を温かな色合いで包み込む。雲も淡く彩られ、夕焼けの美しいグラデーションが広がっている。

 街は少しずつ明かりを灯し始め、夜の訪れを感じさせる。




 家を出て歩くこと10分、俺と美咲は駅前にある一つの焼肉チェーン店に着く。

 店の中に入ると、店内は炭火の香ばしい匂いと、焼肉がシューと音を立てる賑やかな雰囲気に包まれている。他のお客さんがワイワイと楽しく食べている様子が見受けられる。


 「何名さまですか?」


 俺が店内の雰囲気に呆気を取られていると、一人の若い20代ぐらいの女性店員が俺と美咲に声をかける。


 「2人です」

 「2名さまですか。少々お待ちください」


 美咲が俺の代わり答えると、若い女性店員はタブレットで何かを確認する。


 「お待たせしました。案内します。こちらです」


 俺と美咲は女性店員の後をついて行く。

 女性店員が俺と美咲を案内しながら「2名さまご来店でーす」と大きな声で言うと、多方から「いらっしゃいませー」という声が聞こえてくる。



 「こちらです」

 「ありがとうございます」


 俺と美咲は女性定員に案内された席に対面状態で座る。


 「当店のご利用は初めてですか?」

 「いいえ」

 「そうですか。そしたら、そちらのタブレットからご注文をお願いします」


 女性定員はテーブルの隅にあるタブレットを手のひら全体で指し示す。


 「わかりました。ありがとうございます」

 

 美咲がお礼を言うと、女性定員は俺の目の前にある網がかかった機械に火をつけて、「では、失礼します」と言ってその場から立ち去る。

 

 「シンくん、私がいつも頼んでるコースにしちゃうけど平気かな?」

 「コース?」

 「そうだよ。このお店、食べ放題なんだよ」

 「食べ放題?」

 「うん。決められた時間以内だったら好きなだけ頼めるの」

 「そうなんだ。コースは美咲に任せるよ」


 俺はそう言って美咲に注文を任せる。




 「お待たせしました。タレカルビと牛タンになります」


 数分待つと、先ほどとは違う若い男性が注文した品物をトレーに乗せて運んでくる。


 「それじゃあ、焼こうか」

 「うん」

 

 俺は美咲からトングと肉が乗った皿を受け取る

 美咲が肉を焼く姿を見た後に俺は、美咲の真似をして網の上に肉を並べる。


 じゅうううう。


 肉を網の上に並べると、肉が焼ける音がする。

 美味しそうだ。

 肉が焼けていく様子を見ていると、口からよだれが出てきそうになる。



 「シンくん、はい、これ」

 

 俺は美咲から何か少しどろっとした濃茶の色をした液体が入った皿を受け取る。


 「これは?」

 「これはね、焼肉のたれと言って、これにお肉をつけて食べるんだよ」

 「なるほど」


 

 「「いただきます」」


 数分経つと肉が焼き上がり、俺は美咲に言われた通りに焼き上がった肉をたれにつける。


 「美味っ!」


 一枚の肉を口に運ぶと、肉に焼肉のたれが絡まっていて、口いっぱいに深い旨味を感じる。歯で肉を噛むたびにジューシーな肉汁が口の中に広がる。


 「でしょ!?焼肉美味しいでしょ?」

 「うん。癖になりそうだよ」


 俺は焼き上がった肉をしっかりと飲み込んで答える。

––––––––––




 「シンくん、学校に通ってみない?」


 焼肉を堪能していると、美咲はオレンジジュースを一口飲んでから話す。


 「え?」

 「ほら、シンくん、ずっと家に居ても退屈してそうだし。学校に通えば、もっと地球での生活楽しんでもらえるかなって」

 「確かに最近は退屈してたんだよね。魔導書も全て読み終えたけど、有効そうな情報はあまり見つからなかったし。こっちの世界の学校に通ってみるのもありかもね。もし学校に通うとなると、俺はどうすればいいの?」

 「その時は7月の中旬にある編入試験を受けて合格しないとだめだよ」

 「な……なるほど」


 俺は少しの間考える。

 そして、コーラを一口飲んで決心する。


 「せっかくの機会だし、こっちの世界の学校に通ってみようかな。まだ暫くは帰れそうにないし」

 「分かった。それじゃあ、帰りに本屋で参考書を買ってから帰ろっか」

 「うん」


 俺は、俺の返事を聞いた美咲がどこか少し嬉しそうな表情を浮かべているのではないかと思った。




 俺と美咲は焼肉を食べ終えたあと近くの本屋で参考書を何冊か購入して、帰宅した。

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