第29話. 異世界の少年、地球で料理をする。
「シンくん、改めて昨日はありがとうね。何かお礼がしたいんだけど、何かして欲しいこととかある?」
美咲が学校から帰ってきて、夕飯を俺は美咲と一緒に食べていた。
今日の夕飯はミートソーススパゲッティという初めて食べる料理。茹で上げたスパゲッティが、十分なソースで包み込まれ、きれいに盛り付けられている。深い皿には、濃厚で香り高いミートソースがたっぷりとかかり、その上にはさらさらしたチーズがふんだんに振りかけられている。
ミートソースは、新鮮なトマトの酸味と、ぎっしりと詰まったひき肉の旨味が絶妙に絡み合い、食欲をそそる。スパゲッティは絡み過ぎず、一本一本が見事にソースを絡ませ、シャキシャキとした食感を楽しめる。
「お礼って、そんなの良いよ。普段からお世話になってるし。なんか申し訳ない」
俺は首を左右に振る。
「で……でも。私、何かお礼しないと気が済まないんだよね」
「……」
俺は美咲の発言を聞いて暫し口を閉じる。
美咲の表情をチラ見すると、俺の答えに期待をしているのだろうか分からないが、美咲の瞳は透明感があり、楽観的な気持ちで溢れている。
「んー。じゃあ––––––––––」
「分かった。それじゃあ……今週末、一緒にしようね」
「うん。ありがとう」
時は経ち、土曜日。
「それじゃあ、始めよっか」
「うん」
俺と美咲は共にエプロンをして、今キッチンに立っている。俺が来ているエプロンは美咲が既に着なくなった黒一色のエプロンだ。
今俺の目の前には、卵、砂糖、強力粉、ベーキングパウダー、牛乳、それとボウルなどが用意されている。
そう、俺は今から美咲の指導の下でパンケーキに挑戦する。
あの時、俺が美咲にお願いしたのは「料理を教えてもらうこと」だ。今まで料理を全くしてこなかった俺だが、俺が料理できるようになれば、美咲の負担も少しは軽減され、体調も滅多に崩さないようになるだろう。それに、やっぱり俺はこの家に美咲と一緒に住んでいる以上、たとえ美咲に「平気」と言われても、家事を全て美咲に任せるわけにはいかない。
そこで、俺は今日美咲曰く、初心者に優しい「パンケーキ作り」に挑戦する。
「それじゃあ、まずは、こんな感じに卵を割ろうか」
美咲は卵をボウルの縁に軽く叩きつけ、綺麗に割る様子を俺に見せながら説明する。
「どうぞ」
「う……うん」
俺は卵を手に取り、ボウルの縁に卵を当てる。しかし……
俺が叩いた卵はグチャっと潰れてしまう。
「あちゃー。少し強く叩きつけ過ぎたね。もう少し優しく叩こうか」
「う……うん」
俺はべとべとした卵を濡れ布巾で拭き終えると、もう一度卵を割ってみる。
「うん。良いね。シンくん、上手」
ことりは俺が卵を綺麗に割ったことを確認して、俺を褒める。
「そしたら、次は卵黄と卵白に分けようか」
「うん」
俺は美咲が箸を使って卵黄をもう一つのボウルに移すのを見て、俺自身も卵黄をもう一つのボウルに移す。
これは思っていたよりもと簡単にできた。
「そしたら、卵白が入ってるボウルは一回冷蔵庫で冷やすからちょっと貸してね」
そう言って美咲は、卵白が入ってる2つのボウルを冷蔵庫に入れる。
美咲が冷蔵庫を開けると、背中には冷たい風があたる。
「次はこれを使って強力粉をふるうの。そしてふるった強力粉を卵黄が入ったボウルに入れて、そこに牛乳とベーキングパウダーを加えてよく混ぜるんだよ」
美咲は粉ふるいというものを使って、強力粉をふるう。俺も美咲の横で強力粉をふるって、ボウルに入れる。そこに計量カップなどを使って測った牛乳とベーキングパウダーを加える。
「そのぐらいで良いよ」
美咲に言われてかき混ぜるのをやめると、ボウルの中には黄土色の少しどろっとしたものが出来上がる。
「それじゃあ、次は––––––––––」
それから俺は美咲に言われた通りの手順を重ね、パンケーキ作りを進める。
じゅわじゅわじゅわ。
ホットプレートからそんな音が聞こえてくる。
「シンくん、できたよ」
俺がホットプレートに載っけられたパンケーキを除くと、それぞれのパンケーキの表面には薄茶の焦げ目がついており、ふんわりとしている。
「それじゃあ、お皿に乗せて食べよっか」
美咲は焼きやがった6枚のパンケーキを3枚ずつ2つの皿にフライ返しを使って乗っける。
「それじゃあ、食べよっか」
「うん」
「「いただきます」」
シロップとバターをかけて、俺はフォークで一口サイズに切る。切り取ったパンケーキを口の中に運ぶと、生地がとてもふんわりしていて美味しい。メイプルシロップとバターの風味が口の中で広がる。
「シンくん、どう?始めて作ってみた感想は?」
「めっちゃ美味しい。自分で作ったとは思えないよ」
「そう?それなら良かったね。良かったら、1枚貰っても良い?」
「うん」
俺は美咲と1枚のパンケーキを交換する。
「美味しい……」
俺が作ったパンケーキを一口食べると、美咲は褒め言葉を口にする。
「ほんと?」
「うん。初めてにしてはめっちゃ美味しいよ」
「ありがとう」
俺は素直に美咲に感謝する。
美咲が作ったパンケーキはというと、俺が作ったパンケーキと一段と違って美味しい。
流石美咲だ。
美咲が作ったパンケーキの中には空気がぎゅっと閉じ込められており、フォークを入れると柔らかな生地がふわりと膨らむ。断面からは黄金色が広がり、まるでアートのような美しさが感じられる。一口食べると、口いっぱいに広がる甘い香りが幸福感を満たす。
俺と美咲はパンケーキを食べ終えると、キッチンの片付けと掃除を始めた。
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