第28話. 異世界の少年、地球で看病する。②
ことりに連絡した1時間後に俺は1日ぶりにことりと再会する。
「ごめんね。急に呼び出して」
俺は申し訳なさそうな表情でことりに謝る。
「全然良いよ。それよりも、さきりんが風邪引いたんだって?」
美咲のこと心配しながら、ことりは少し重そうに持っていたビニール袋を上り框に一度置いて、玄関で靴を脱ぐ。
「うん。今は部屋で寝かせているけど、俺家事とか少し不得意で……」
俺は現状をことりに報告する。
「私、ポカリスウェットとか、ゼリーとか色々と買ってきたから、あとでさきりんに食べさせてあげよう」
「うん。ありがとう」
「そりゃ、友達が困ってたら助けるっしょ。さきりんとシンくんは私の大事な友だちだから」
「う……うん」
ことりは少しかっこいいことを言って、廊下を歩いてリビングに入っていく。
「友だち……か」
俺はことりの言葉に喜ぶを感じている。
こっちの世界に来て初めてできた友だちが美咲で、次にことり、そして悠斗と浩介とも一昨日のお泊まり会で仲良くなった。こっちの世界に来たときは不安だらけだったが、今は4人もの友だちに囲まれて俺は幸せ者だ。
「これはなんというか、聞いていた以上にひどいね……」
ことりがリビングに入って早々、そんなことを少し呆れた表情で呟く。
「いやー、なんか……ごめんなさい」
俺は素直にことりに謝る。
「一昨日来た時と全然風景が違って、少し驚いちゃった」
そう、今のリビングは色々と荒れている。
床には本や雑誌が散らばり、ソファには乱雑にクッションが置かれている。ソファの前にあるテーブルには、
実際に竜巻は発生したんだが……
俺は部屋の掃除を行おうと思い、最小限の風力で中級の4級レベルに相当する《
《風竜巻》は、竜巻を発生させる風魔法である。普段は戦闘の時などに攻撃手段の一つとして使用するが、流し込む魔力の量を変えれば威力や風力を抑えることもできる。威力や風力を抑えると、小さな竜巻に変化させることができ、小さな子供たちへのエンターテイメントショーなどで利用できる。
元々膨大な魔力を持つ俺は《風竜巻》の威力と風力をできるだけ小さくしたが、思っていたよりも《風竜巻》の威力と風力が強くなってしまい、埃以外の本や雑誌、家具などを巻き込む羽目になってしまった。
俺はことりが来る前に割れたり壊れてしまった家具を、何でも元の姿に戻すことができる中級の3級レベルの《
「それじゃあ、片付けを始めようか。シンくんは私が言ったことをやってもらえる?」
「うん。分かった」
「じゃあまずは、床に散らばってる本や雑誌を「本」と「雑誌」に仕分けてくれるかな」
「うん」
俺はことりに言われた通りに簡単な仕事を次々とこなしていく。
流石に、俺でも「本」と「雑誌」に仕分けることぐらいできる。
––––––––––
「とりあえず、リビングはこんな感じかな」
リビングの掃除をことりと始めて1時間。荒れていたリビングは、普段の綺麗で埃一つないリビングにへと変貌する。
「じゃあ次はキッチンだね」
「うん」
俺とことりはキッチンへと向かう。
「シンくん、スポンジに洗剤つけすぎたでしょ?」
食器を一枚も見ることができないほどの泡だらけな流しを見たことりが俺に尋ねる。
「う……うん」
「スポンジに付ける洗剤は1プッシュか2プッシュで良いんだよ」
「そ……そうなんだ」
ことりは俺に必要な洗剤量を教えてくれる。
10分ほどでことりは泡だらけだった流しから泡を全て取り除くと、「ついでにこれも洗っちゃうね」と言って、食器も一緒に洗ってくれる。
ちなみに、美咲がまだ食べていない朝ごはんは食器に食べ物を乗っけたまま冷蔵庫で保存している。
「これで全部かな」
「ほんとにありがとう。助かったよ」
俺は感謝しきれないほどことりに感謝する。
「それじゃあ、さきりんのためにお粥でも作ろうかな。キッチン借りても良い?」
「お粥?」
「うん」
「お粥って何?」
「あ、海外にはお粥ないんだよね。お粥っていうのは、やわらかなスープに白米を浸からせた料理だよ。風邪引いた時とかに食べるんだよ」
「俺も手伝った方が良いかな?」
「いや、大丈夫だよ。そんなに難しくないし。シンくんは、少し休んでても良いよ。掃除疲れたと思うし」
「う……うん。でも何か手伝えることがあったら何でも言ってね?」
「うん。ありがと」
俺はことりに言われてソファに腰を下ろす。
ことりに休んでてとは言われたもののことりに任せっぱなしだと考えると、落ち着いていられない。
俺も料理ができるようになりたいなあ。
俺が30分ほどそわそわしていると、ことりはお粥を作り終える。
「シンくん、今からさきりんにお粥とポカリを持っていくけど、一緒にこない?」
「うん。行く」
「俺、持つよ」と言って、俺はお粥を載せたお盆を持ってことりと一緒に2階へ続く階段を上る。
コンコン。
「さきりん、私だよ。ことりだよ。お粥作ったんだけど食べない?お腹空いたでしょ?」
「……」
美咲の返事がなく、まだ寝ているのかと思っていると、数秒経って美咲の部屋の扉が開く。
「ことり?どうして?」
「シンくんからさきりんが風邪引いたって聞いて、お見舞いに来たんだよ」
「そ……そうなんだ。ありがと」
美咲はことりに感謝の言葉を口にして、俺たちを部屋に入れる。
「これことりが作ったんだけど、食べる?」
「うん」
俺は美咲の部屋にある小さな円形のテーブルにお盆をそっと置く。
「いただきます」
美咲が鍋蓋を外すと、まろやかな香りが部屋中に広がる。
美咲は、レンゲでスープに浸かったご飯を掬い上げて口に運ぶ。
「どうかな?」
「美味しいよ。ありがとう。身体が温まるよ」
「あ、そういえばこれも。ポカリと風邪薬」
「あ、ありがと」
ことりは手に持っていたポカリのペットボトルと風邪薬を美咲に手渡す。
「ごちそうさま」
美咲がお粥を完食させると、ポカリで風邪薬を飲む。
「それじゃあ、私これで行くから、もう少し寝ててよ」
「うん。色々とありがと」
「お大事に」
「うん」
ことりは美咲が食べ終えたお粥が載ったお盆を持って、美咲の部屋を出る。
「じゃあ、俺は下にいるから何かあったら呼んでね」
「うん。ありがと」
「おやすみ」と美咲に伝えて、俺もリビングへと戻る。
リビングへ戻ると、ことりは流しで鍋を洗っていた。
「じゃあ、私そろそろ行くね」
「うん」
鍋を洗い終えると、ことりは玄関へと向かい、靴を履く。
「あ、そういえば、シンくんの分のお粥も作っておいたから、お昼ご飯に一度温めてから食べてね」
ことりは靴を履きながら俺に伝える。
「そ、そうだったの?」
「うん」
「では、有り難く頂きます」
「それじゃあ、私行くね」
「うん。今日は朝早くからありがとう」
俺はことりに感謝の気持ちを伝えると、ことりは玄関の扉を開けて帰って行った。
次の日の朝には美咲の体調は回復し、元気になった美咲は
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