第40話. 異世界の少年、地球で夏祭りに行く。⑤

 俺は屋台の周辺を一生懸命探す。

 しかし、左右を見渡すと人混みが凄く、とてもじゃないけどそう簡単には見つからない状況だ。


 「くっそ、こっちの世界でも《魔力探知サーチ》が使えれば……」


 人を簡単に見つける方法を俺は知っているのに、その方法が使えないことに俺は悔しい思いを抱く。


 人を簡単に見つける方法は超級の8級レベル相当の《魔力探知》を使って見つける方法である。

 《魔力探知》というのは、それで特定の人物や魔物の場所を見つける魔法である。説明の通り美咲を見つけるには、美咲の魔力を感知する必要がある。しかし、こっちの世界の人間に魔力なんて存在しないので、《魔力探知》で美咲を探すというのは不可能だ。


 だから……スマホが繋がらない今、俺は走り回って美咲を見つけるしか方法がなかった。



 「美咲、どこー?」


 俺は美咲の名前を大声で呼ぶ。


 しかし、美咲の返事はない。

 聞こえてくるのは、周りの人々がお祭りを楽しんでいる声だけだ。


 それでも俺は人混みの中を探し続ける。



 「あ、すみません」

 

 美咲のことを探していると、1人の女性の背中にぶつかってしまう。

 俺は咄嗟に謝るが、顔を見上げると、そこには俺が知っている人物が浴衣を着ていた。


 「「あ」」


 俺と《その人物》は互いに驚きの声をあげる。


 「あなたはこな……」


 「ん?ひとみ、どうかしたのか?」

 「「ひとみ?」」


 俺は声を出そうとしたが、《その人物》の横の隣にいた少女1人と少年2人が後ろを振り向き、気づかれてしまう。


 「あ、大丈夫だよ」

 「ねえ、ひとみ、その人は?」


 《その人物》の隣にいた少女は俺のことについて、《その人物》に尋ねる。


 「彼は、こないだ受験した時に、私に消しゴムを貸してくれた人だよ」

 「へー、彼が」


 《その人物》の回答を聞いた少女は、俺に少し顔を近づけ、瞳を凝らす。


 《その人物》とは……エレスティア=ソレイユのことである。

 今のエレスティアは、明るい黄色で涼しげな柄が施されている浴衣を身にまとっていた。浴衣の帯は上手に結ばれ、程よく肌を露出することで夏の涼しさを感じさせる。浴衣の裾からはふわりとした風になびく様子が、夜風とともに軽やかに舞っている。

 一方でエレスティアの隣にいた少女は、短くカットされた茶髪に、くっきりとした大きな茶色の瞳、高い鼻を持っていた。その少女は、淡い水色の地に優雅な花柄模様が散りばめられた浴衣を身にまとっていた。浴衣の帯はしっかりと結ばれ、ショートカットの髪と相まって清涼感を感じさせる。



 「私、たちばな 陽菜ひなって言うの。よろしくね」


 陽菜と名乗った少女は俺を凝視するのを止め、自己紹介をする。

 

 「う……うん。シン=ブラッドフィストと申します。よろしくお願いします」

 「シンくんかー。外人っぽい名前だけど、もしかして外国人?」

 「は……はい」


 まあ、異世界から来た者だから実際にではあるが。

 俺がそんなことを思っていると、残りの2人の少年も自己紹介を始める。


 「俺の名前は、小林智也こばやしともやだ。よろしく」

 「う、うん。よろしく」


 智也と名乗った少年は、黒色の爽やかなナチュラルショートヘアに、くっきりとした黒い瞳を持っており、顔が整っていた。智也は深紺色の地に清涼感ある波柄のデザインが施されている浴衣を着ていた。浴衣の帯は上手に結ばれ、男子らしい引き締まった印象を与えている。くっきりとした黒い瞳が、浴衣の色彩と調和していて、とてもかっこいい姿をしている。


 智也が自己紹介を終えると、特徴的な浴衣を着ているもう1人の赤みを帯びた短髪の少年が口を開く。

 その少年が着ている浴衣は、鮮やかな紅色の地に抽象的な模様が散りばめられていた。浴衣の帯は、シンプルながらもしっかりと結ばれ、引き締まった印象を与えている。


 「それじゃあ、次は俺だな。俺の名前は、レオンハート=アークライト。よ––––––––––」



 「ちょ、お前、その名前はダメだろ!?」


 レオンハートと名乗った少年の発言を聞いた智也は、小声でレオンハートの耳元で注意する。


 「あ、そうだ。やべ。すまん」


 レオンハートは小声で謝る。



 「すまん、シン。さっきの名前は忘れてくれ。俺の本当の名前は、加藤隼人かとうはやとだ。よろしく」

 「う、うん。よろしく」


 名前を言い直した隼人だが、それは

 それは……俺はレオンハート=アークライトという少年を知っているからだ。


 レオンハート=アークライトという少年の顔を一度も見たことは無かった俺だが、名前だけは知っていた。それは、俺の世界での勇者セレスティア率いる勇者一行パーティーの1人であったため、名前を知らない人はエルデン王国には誰もいないだろう。


 陽菜たちがエレスティアのことを「ひとみ」と呼んでいた時点で、俺は既に違和感を持っていたが、謎がさらに深まるばかりだ。


 エレスティア=ソレイユイコールひとみ。レオンハート=アークライトイコール加藤隼人。

 この情報から推測できるのは、残りの智也と陽菜も勇者一行パーティーのメンバーだったのではないか、と。もちろん、智也たちが勇者一行パーティーのメンバーだったという根拠はない。だがしかし、先ほど隼人が自分のことをレオンハート=アークライトと名乗った時に智也が隼人を急に止めたことや、エレスティア勇者率いる勇者一行パーティーが4人編成だったという、2つのことから残りの2人も勇者一行パーティーのメンバーではないかと推測ができてしまう。


 一体どうなってるんだ?もし、隼人たちが勇者一行パーティーだとするならば、なんでこの世界にいるんだ?それに、なんでそれぞれ名前が違うんだ?エレスティアは隼人たちに「ひとみ」と呼ばれてるし。

 俺は頭をフル回転させる。しかし、考えれば考えるほど謎が深まるばかりで何も分からない。一度、目の前にいる「ひとみ」と呼ばれてる少女が実はエレスティアではないのではないかと考えたりもしたが、エレスティアが持つ特徴的な美貌とサラサラな長い金髪を見間違えるわけがないと考え、俺の目の前にいる少女は間違いなくエレスティアだと信じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る