第5話. 異世界の少年、地球でお泊まりをする。②

 「お風呂どうぞー。入ってきて良いよ。って、それ魔法!?」

 「うん、そうだよ」



 美咲がお風呂から上がって部屋に戻ってくる間、俺は美咲の部屋で他の魔法を試していた。待ち時間を利用して他の魔法が使えるかどうか試していたのもあったが、同時に今夜のことから気を紛らわせたかった。

 ただ、俺は心を落ち着かせたかっただけかもしれない。


 美咲が俺の近くを通り過ぎると、美咲のセミロングの髪から漂うシャンプーの甘い香りが俺の鼻先に届いた。


 「今の魔法は何だったの?」


 美咲がベッドの上に腰を掛け、俺に興味深そうに尋ねると、俺は簡潔に教えてあげる。


 「今の魔法は、簡単な水魔法だよ。水を生み出すことができるんだよ」

 「そうなんだ。なんか魔法って面白いね」

 「こっちの世界ではそうなのかもね。俺の世界ではみんな普通に使えていたからさ。でも、この世界では無闇に魔法は使わないよ。俺、面倒なことには巻き込まれたくないからね」

 「確かに。地球で魔法を使うと、シンくんが話題になっちゃうよね。最悪、人体実験されちゃうかも」

 「人体実験とか死んでも嫌だな」

 「そうだね」

 「うん。それじゃあ、とりあえずお風呂に入ってこようかな」

 「分かった。着替えはお父さんのを脱衣所に置いておいたからそれを着てね」

 「分かった。ありがとう」


 俺は美咲と笑い合いながら軽い雑談を交わすと、お風呂に入るために一階へと階段を降りる。




 「お待たせ」


 俺は15分ほどで風呂を済ませ、一度軽くノックをしてから美咲の部屋に再び入る。


 「湯加減どうだった?」

 「丁度良かったよ」

 「それなら良かった」



 俺はベッドに座っている美咲に誘導されて、部屋の真ん中あたりにあるクッションに腰を下ろす。

 美咲の部屋にある時計を見ると、現在の時刻は21時を回ったところだった。


 「シンくんってどうやって地球にきたの?」

 「それがさ、俺も分からないんだよね」


 まず俺は、こっちの世界に来た方法について美咲に質問される。


 「なんか、俺がいた世界で模擬戦をやっていた時、クラスメイトが魔力暴走を起こして、気付いたらこの世界に来ていた感じ」

 「そ……そうなんだ。ちなみに、魔力暴走って何?」

 「簡単に言えば、自分で魔力を制御できなくなる状態だよ」

 「なんか、ヤバそうだね」

……



 あのあとも、魔法の種類についてや、俺の世界での生活、学校などについて色々と質問された。

 俺は今日出会った人にこんなにベラベラと話して良いものだろうかと思うこともあったが、美咲なら信用できると思った。実際に、《真嘘Truth or Lie》を使用して美咲が嘘をつくような人でないことを知っている。

 《真嘘》とは、対象の人が出す《人影オーラ》の色を見て、その人をどれぐらい信用できるかを判断することができる超級に達する8級レベルの魔法である。《人影》の色は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色に分かれており、緑色が普通の人が出してる《人影》に相当している。


 美咲の家に向かう際、美咲と話している間に、俺はこっそり美咲のことを《真嘘》で覗いていた。その時、美咲の《人影》は黄色であったため、美咲のことは信用できると思った。また、美咲と話していくうちに美咲と同い年・15歳であることを知った。そして今は互いに名前で呼び、既に敬語を使わないで話して、ある程度仲良くなっている。




 時刻は23時を回っていた。


 今日はかなり長話し、主に学校や生活関してだったが、俺のいた世界とこっちの世界の違いについて色々と知ったため、情報量が俺の頭を圧迫させ、体に少し疲労が溜まっていることが自分でも分かる。

 その頃、丁度良いタイミングで修二しゅうじさんと千穂ちほさんが美咲の部屋に布団を持ってやってきた。


 「シンくん、今日はこの布団を使って寝てね」

 「ありがとうございます」

 

 修二さんは担いでいた布団を美咲のベッドの隣の床に置き終えると、「頑張れ」と俺の耳元で囁き、俺の背中を軽く叩く。

 修二さんからその言葉を聞いた時、俺は一時思考が停止する。

 修二さんの言葉が意味するもの、それは何だろうかと。



 「じゃあ、おやすみ」


 千穂さんから「おやすみ」の言葉を耳にした時、俺の意識は普段の状態に戻る。


 「おやすみなさい」


 千穂さんに言い返すと、修二さんと千穂さんは美咲の部屋を出て行った。



 「じゃあ、私達も寝ようか」

 「そうだね」


 修二さんと千穂さんが居なくなった直後に、俺と美咲も布団に入ることにした。


 「電気消すね」

 「うん」


 美咲が部屋の入口付近にあるスイッチで明かりを消すと、俺の視界は薄暗くなる。


 「じゃあ、おやすみ」

 「うん、おやすみ」


 美咲がベッドに入り、互いに「おやすみ」というと、俺は眠りに就こうと試みる。

 しかし、予想していた通り全く眠れない。

 体は疲れているのに、心臓がバクバクしていてとても眠れる状況ではなかった。

 


 俺が意地でも寝るためにしばらく目を瞑っていると、美咲が俺に一言かけてきた。


 「シンくん、まだ起きてる?もし起きてたら、もう少し話さない?」


 俺は一度、美咲の言葉に反応するか迷ったが、美咲の呼びかけで体を起こし、美咲の方を振り向く。

 すると、ベッドの上に足を崩して座る美咲の頬が少し赤らんでおり、ベッドの横にある窓から差し込む月の光が美咲を照らしていた。その光景に、鼓動の速度が増すばかりだった。

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