第15話. 異世界に少年、地球で炎と黒煙の日を思い出す。

 「シン、早く家から出ろ」


 父さんは急かすような声を出す。


 「わ、分かった」


 俺は父さんに言われるままに家の外へ出る。

 外に出ると、目の前には母さんがリリスを抱えながら心配そうに立っている。


 「シン!」


 俺は母に抱きつく。


 「シン、母さんと一緒に森の方へ逃げるんだ。魔族がこの村を襲いにきた」


 母さんから一度離れると、父さんは森の方面を指差す。


 「でも、父さんは?」


 俺は父さんも一緒に逃げないのではないかと心配する。


 「俺はやることがあるんだ。魔族を倒さないといけないからな。大丈夫さ、俺1人だけではない。魔族を倒したら追いかけるよ」


 父さんは俺を安心させるような優しい声で答える。


 「う……うん」


 俺は納得したような、していないような曖昧な返事をする。


 「エレナ、あとは頼む」

 「貴方あなた……」

 「さあ、け」


 母さんはどこか悲しそうな表情をしていた。


 「さあシン、行くよ」


 母さんは俺の手を取り、森の方へと向かう。

 俺は母さんに手を引っ張られながら、過ぎ去っていく父さんの背中を見続ける。そして、真っ赤な炎が父さんの姿を覆い隠す。



 母さんに連れられるがままに歩くと、森の中に入った。

 少しばかり歩くと、小さな広場に出た。そして、そこには他の村の住人がいた。周りを見回すと、女性や子供が多く、男性の姿があまり見受けられなかった。


 「シン!」


 どこからか俺の名前を呼ぶ声がしたと思い、聞こえてきた方向を向くと、その先にはレンがいた。


 「レン……」


 レンは俺の方に向かって走り出す。


 「シン、無事だったか?」

 「うん……」

 「魔族が襲いにきたらしい。今、お父さんたちが頑張って戦ってくれてる。だから、無事を祈ろ?な?」

 「うん……」


 俺は少し元気がない返事をする。



 この世界には、人間、エルフ族、ドワーフ族、魔族などといった様々な種族が存在する。そして、魔族というのは人間の長年からの宿敵であり、人間を滅ぼそうとしている悪種族である。魔族の中には魔王というのが存在し、魔族の中の王様みたいな存在である。100年前にかつてSSランク冒険者だった大賢者が魔王を倒し、一度魔族は滅んだのだが、最近になって魔族が復活した。加えて、魔王は100年に一度復活すると言われており、魔王が一度死んでから100年が経つ今、魔王の復活も近づいている。




 「大丈夫でしたか?」

 「父さん!」


 森の中で小さく蹲っていると、1人の男性の声がした。

 俺は父さんだと思い、父さんを呼ぶが、その男性は父さんではなかった。その男性の胸のあたりにはエルデン国の紋章が入っており、灰色の鎧を見にまとい、兜をかぶっていた。そして、腰あたりには一本の剣をしまっていた。


 その男性の話を聞くと、エルデン国の衛兵隊が助けにきてくれたらしい。そして、俺たちは一度王都で保護されるらしい。


 俺たちはその男性の後ろをついていきながら、森を抜けて村に戻る。


 村に戻ると、煙と炎が立ち昇り、村の空気は灰色の混沌しいた悲惨な光景に包まれていた。焼け跡となった家屋の残骸が散乱し、街路には灼熱の跡が焼き付けられている。一度は営々と立ち並んでいた家々が、今や燃え盛る火の中に崩れ落ち、その影が広がっている。そして、所々には赤色と紫色の血が飛び散っている。


 村の中心部にはさっきほどまで魔族と戦っていてくれた男性陣が固まって座っていた。中には、エルデン国の衛兵隊の治療を受けている者もいる。


 俺は男性陣の方に駆け寄り、父さんの姿を探す。

 左右を見渡す。

 しかし、父さんの姿は見当たらない。


 「……シンくん?」


 俺の名前を呼ぶ声がする。

 声がした方向に振り向くと、そこにはレンのお父さんが立っていた。


 「あの……僕の父さんはどこにいるの?」


 俺は父さんの居場所を憂わしげな表情で尋ねる。


 「そ……それは……」


 しかし、レンのお父さんは即答してくれない。

 俺はこの瞬間、何か嫌な予感がした。

 そして、レンのお父さんは安い紐と小さな石ころでできた1本のネックレスを俺に差し出した。


 「これは……僕が父さんにあげたネックレス……?」

 「……」


 レンのお父さんは、再び口を開く。


 「実は……ゼニスは俺を庇ったんだ」


 レンのお父さんは、下を向きながら続ける。


 「俺は魔族にやられそうになったんだ。そしたら……ゼニスが俺の前に現れて俺を庇ったんだ。もちろん、治癒魔法で治療もしたが、傷がかなり深くて……」

 「……」

 「申し訳ない、シンくん」

 「……」


 俺は言葉が出なかった。




 俺は父さんが亡くなった日からの記憶が暫くない。次に思い出せる記憶は俺が8歳の時に森の中で大賢者の魔導書を見つけた時である。


 ##





 「そうだったんだ……ね」


 美咲は俺の過去を聞いて、ポロポロと涙を零していた。


 「……」



 少しの間雰囲気が重苦しくなるが、夕飯の時間には元に戻っていた。

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