第25話. 異世界の少年、地球でお泊まり会に参加する。⑨
「んー。ちょっと1回休憩ー」
何試合か終わり、美咲は背伸びをしながらソファから立ち上がる。
「そうだねー」
「そうしよ」
ことりと俺も賛同したことから、みんなコントローラーをソファの前に設置されている小さな円形のテーブルの上に置く。
ひと足先に立ち上がった美咲は、キッチンでホットポットに水を入れ、スイッチを入れる。
「みんな、何飲むー?紅茶で良いかな?」
美咲はキッチンからみんなにアンケートを取る。
「うん。良いよ」
「それで、良いぜ」
「任せる」
「うん」
ことり、悠斗、浩介、俺の順に全員の確認を取ると、美咲は「分かった。ありがと」と言って、紅茶を入れる準備を始める。
カチッ。
ホットポットでお湯を沸き終えると、美咲は5つの軽いピンクの花柄がエレガントに彩られているカップに均等に注ぐ。そして、良質な紅茶の葉が詰められているティーパックをそれぞれのカップに一つずつ入れる。すると、ティーパックに詰められた茶葉がゆっくりと舞い上がり、水中で踊り始める。
紅茶の色が変わると、美咲はトレーに5人分のカップと角砂糖を載せ、ソファの方へと戻る。
「「ありがとう」」
美咲に俺を言って、それぞれカップを手にする。
カップに注がれた紅茶は、深みのある琥珀色をしている。その色は濃厚で、透明感がありつつも重曹的な奥良きを持っている。また、湯気が立ち昇り、カップの中で茶葉がゆっくりと舞いながら、深いアンバー色が広がる。
紅茶は俺がいた世界にもあるが、高級な飲料であるため、一般市民だった俺はこっちの世界に来るまで味わったことがなかった。
俺はカップに入った紅茶を角砂糖を一つも入れずに、豊かな香りとともに一口飲む。それに対して、浩介は俺と同じく砂糖なしで紅茶を味わい、残りの悠斗、ことり、美咲は角砂糖を二つほど入れてカップを口元に運ぶ。
「「美味しい」」
みんな、口を揃えて全く同じことを言う。
一口飲むたびに、体の体温が少し上がり、口の中に広がる深い味わいを感じる。
「ねー。私トランプ持ってきたんだけど、みんなでやらない?」
紅茶を堪能していると、ことりがみんなを別の遊びに誘う。
「良いね、やろう」
ことりの誘いに美咲は乗る。
「じゃあ、ちょっと取ってくるね」
そう言って、ことりはリビングを出てトランプを取りに美咲の部屋へと向かう。
1分ほど経つと、ことりは透明なケースに入ったトランプを持ってリビングへと戻ってきた。
俺がいた世界にもトランプは身近に存在し、一般市民の中ではかなり有名な遊びの一つである。
「シンくん、トランプの遊び方は分かる?」
「うん」
ことりは一度俺に確認を取る。
「それじゃあ、ババ抜きしよっか」
「良いぜ」
ことりはケースからトランプを取り出し、シャッフルし始める。
「これで全部だよ」
ことりはカードの枚数を5人分に均等に分け、それぞれに渡す。
9と9。AとA。結構揃うな。そして……ババはないと。
俺は揃ってる数字のペアを次々と捨てる。
「みんな何枚になった?ちなみに私は、5枚」
全てのペアを捨て終えると、残り枚数をチェックするかのようにことりはみんなに残りの手札の枚数を尋ねる。
「私6枚」
「俺も6枚」
「俺は5枚」
「俺は3枚」
美咲、悠斗……の順で答える。
「シンくん、3枚だけなの?」
「うん」
俺の残りの枚数を聞いて、美咲は俺にもう一度確認する。
「それじゃあ、順番決めようぜ。行くぞ。じゃーんけん……」
「ぽん!」
「えっと、浩介からだ。それじゃあ、順番は浩介、俺、ことり、美咲、シンだな」
浩介は悠斗から1枚トランプを引く。
浩介が選んだトランプは浩介が持っていたトランプと一致し、浩介は選んだトランプと手持ちのトランプ1枚を捨てる。
「次は俺だな」
そう言って、悠斗はことりから1枚トランプを選び、自分の手持ちのトランプと比べる。
「くそ、揃わないか……」
次にことりは美咲から1枚トランプを引く。
「私も揃わない……」
どうやらことりも揃わなかったらしい。
「それじゃあ、シンくん、引くよ」
「うん」
俺は数字が書かれている面を俺の方に向けて、3枚のトランプを美咲に選ばせ、スペードの8を引く。
「やった。揃った」
その声と同時に美咲は、2枚のトランプを捨てる。
次に浩介は俺にトランプの裏面を向けて、1枚選ばせる。
俺は、幾つかのトランプの先端に触れる。触れると同時に浩介の表情を除くが、全く表情に揺らぎがない。
これは分からない。もう、これで良いや。えい!
俺は右端から1枚のトランプを選ぶ。自分の方にトランプをひっくり返すと、そこには数字ではなく「Joker」と書かれていた。
まじか……
俺はジョーカーを引いたことを他のみんなに悟られないように、表情を固める。
それから何ターンか続き、残りのプレイヤーは俺と美咲だけになった。
俺が一度ジョーカーを引いても、美咲はそれを一度も俺からジョーカーを引くことなく、ジョーカーはずっと俺の手元に残っていた。
「それじゃあ美咲、どっちが良い?」
俺は残り2枚のトランプをシャッフルし、美咲に選ばせる。もちろん、そのうち1枚はジョーカー。そして、もう1枚はハートの3である。
「どうしよっかな……じゃあ、こっちで」
美咲は少し悩んだが1枚のトランプを選んだ。
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