第7話. 異世界の少年、地球でお泊まりをする。④

 ##


 「シン、こっちよ」

 「ソフィア、ちょっと待ってよ」

 「もうちょっとだから」


 俺はソフィアに軽く柔らかな声で言うが、ソフィアは俺の右手を優しく引っ張り続け、とある場所に向かっていた。


 「着いたよ。シン、空を見上げてみて」


 どうやら目的地に辿り着いたらしく、ソフィアに言われた通り空を見上げると、そこには星が降ってくるような圧巻の夜空があった。



 「綺麗だ」


 俺は無意識にポツリと呟いた。


 「でしょ?実はここ、私の秘密な場所なんだ」

 「そうなんだ。こんな場所があったなんて知らなかったよ。でも、なんで教えてくれたの?」

 「それはね……シンにも教えたかったから」


 左右にある木々に囲まれ、星がギラギラと輝く夜空の下に広がる草原の上にソフィアが座ると、俺もソフィアの隣に座った。


 「シン、改めて私のことを助けてくれてありがとね」

 「ん?急にどうしたの?」


 ソフィアからの唐突なお礼に俺は一瞬驚きの表情を浮かべた。


 「シンが助けてくれなかったら、今、私はこの夜空を見上げることができなかったから。だから、ありがと」

 「う、うん。ソフィアが無事で何よりだよ。これからもよろしくね」

 「うん。これからもよろしくね、シン」


 ##





 なんだか、俺の目の前から甘い香りがする。なんだろう、この……心が落ち着く香りは。

 俺はそう思いながら、閉じていたまぶたをそっと開いた。



 「うわーっ!」


 俺は目の前に美咲がいるのに驚き、思わず声に出てしまった。


 「あ、起きた?おはよう」

 「う、うん」


 俺は未だ今の状況に追いつけていなかった。

 なんで、美咲が俺の真隣にいたんだ?

 美咲が立ち上がったため、俺は一度体を起こした。そして美咲の姿を見ると、美咲は既に寝巻きから私服に着替えていた。

 どうやら、美咲は既に俺よりも早く目が覚めていたらしい。

 今日の美咲のコーデは、暗緑色のとりみブラウスと白一色のテーパードパンツだった。



 「どうして美咲はさっきまで俺の真隣にいたの?」


 俺は状況を理解するために美咲本人に直接尋ねた。


 「それは、シンくんの寝顔がちょっと可愛かったからかな。なんか、幸せそうな寝顔をしてたよ」

 「そ、そうなんだ」


 理解しているような、していないような返事をすると、美咲は俺に質問してきた。


 「なんか、良い夢でも見てたの?」

 「うん。ちょっと昔の夢を見てたんだ」

 「それって……もしかして、ソフィアとの思い出?」

 「うん。昔、ソフィアと星空を見たことがあって、そん時の夢なんだ」

 「なんか、良いね」



 俺は布団から出て布団を綺麗に畳むと、美咲からおそらく修二しゅうじさんのであろう白いT-シャツと黒色のスラックスを受け取り、それに着替えた。

 着替え終えると、一階から千穂ちほさんの声が聞こえてきた。


 「朝ごはんできたわよー」

 「はーい」




 俺が美咲と一緒にダイニングルームへ向かうと、修二さんが新聞を読みながらコーヒーを口にしていた。


 「お父さん、お母さん、おはよう」

 「おはよう」

 「美咲もシンくんもおはよう。二人とも昨晩きのうは良く眠れたかしら?」

 「おはようございます。はい。お陰様で良く眠れました」


 修二さんが美咲の挨拶で俺に気付くと、千穂さんもキッチンで朝食の準備をしながら、修二に続いて挨拶をした。


 「さあ、二人とも座って」


 俺と美咲が席に座ると、千穂さんは一枚の食パンと目玉焼きが乗ったプレートを俺と美咲の前にとんと置いた。



 「いただきます」


 俺と美咲が目の前の食事に感謝をすると、美咲はテーブルの真ん中に置いてあるバターを俺に指し出してきた。


 「シンくん、先使っていいよ」

 「いや、美咲が先に使っていいよ」

 「そう?」


 俺の言葉を聞いた美咲が食パンにバターを塗り終えると、俺は美咲からバターを受け取り、同じくバターを少し食パンに塗った。そして、食パンを一口齧った。

 食パンは焼き加減がとても良く、バターとの相性が抜群だった。



 「ごちそう様でした」

 「はい、お粗末様でした」




 俺は朝食を済ませ、今は美咲と一緒に美咲の部屋にいた。


 「さて、これからどうしようか」


 俺は今後のことについて困り果てていた。

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