第33話. 異世界の少年、地球で金髪美少女を思い出す。
エレスティア=ソレイユ。
2日前に消しゴムを貸したロングヘアを持つ金髪美少女。エルデン王国の人々なら誰もが1度は耳にしたことがある名前。彼女は復活が迫った魔王討伐のための勇者である。彼女は剣と攻撃魔法の両方を使いこなすことができる。剣の腕前はエルデン王国の騎士団長をも上回り、魔法はというとSランク冒険者の魔術師と匹敵するレベルだ。そんな前代未聞の強さを持った勇者の名、勇者エレスティアを知らない人はいないだろう。
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俺が初めてエレスティアと出会ったのは、俺が10歳のとき。俺が「死の森」と呼ばれている森の中で修行していたときだった。
「死の森」には凶暴な魔物がたくさん潜んでおり、魔物1体は全長6mほどの大きさで、強さは半端なもんじゃない。「死の森」に潜む魔物は、Sランク冒険者3人でやっと1体倒すことができる異常な強さを持っている。
そんな森の中で俺は強くなった自分を試していた。この頃の俺はAランク冒険者だったが、実力としてはSSランク相当だっただろう。俺は攻撃魔法と回復魔法の両方を扱える。攻撃魔法と回復魔法は魔法系統が違い、それぞれに適性というのが存在するため、普通の人にはどちらかしか扱えない。実を言うと、俺は初代の魔術師が扱っていた魔法には適性があるが、女神が授かる魔法には適性がない。そんな俺がなぜ攻撃魔法と回復魔法の両方を扱えるかと言うと、その理由は大賢者が書き残した魔導書である。
俺は父さんを亡くした日から数日後、とあることをきっかけに「死の森」に迷い込んでしまった。凶暴な魔物がたくさんいる「死の森」の中で途方に暮れていると、ある1つの洞窟を発見した。その洞窟は「死の森」の中にある様々な太さや形を持った木々に隠れており、今まで誰にも発見されていなかった。その洞窟に入ると、奥には小さな部屋が一つあり、その部屋の真ん中にあった岩らしきものでできた円形のテーブルの上には、何冊もの書物が置いてあった。それらの書物には、大賢者が独自に作り出した魔法が書かれていた。俺はそれらの書物を「魔導書」と呼ぶようになり、父さんが死んで家族のために働くことが必要になった俺は、全ての魔導書を読んで理解した。その場で覚えた《
ガアアアアアアア。
俺が「死の森」で修行をしていると、近くから1体の魔物が吠える声が聞こえてきた。
俺は目の前の1本の大きな角を持った魔物を倒すと、吠声が聞こえた方へと移動する。
吠声の主がいる近くにくると、1体の大きな斧を持った魔物の姿と1人の少女の姿が見える。
少女の目にはたくさんの大粒の涙が溢れており、地面に座り込んでいる。少女は恐怖で腰を抜かし、全く動けない状況だ。
なんで、こんなところにいるんだ?
目の前にいる少女は10歳ぐらいに見え、長い金髪を持っている。
俺は心に疑問を抱きながら、《
俺が放った《炎の矢》は魔物の頭を貫通し、その魔物はその場で倒れる。
魔物がその場で倒れると、すごい大きな音が森中に響き渡ると同時に地面の砂が周囲に飛び散る。
「君、大丈夫?」
俺は魔物が死んだことを確認してから、座り込んだ少女に近づく。
「もう大丈夫だよ」
俺は未だ泣き止まない少女を優しく包み込み、安心させる。
数分経つと少女は落ち着いた。
「君、名前は?」
「……エレスティア」
少し間が開くと、エレスティアという少女は下を向きながら答える。
「どうして、こんなところにいたの?」
またもや、間が少しできる。
「分からない……」
「そっか……」
俺はエレスティアの答えにさらに疑問を抱くが、一刻も早く彼女を森の外に連れて行かないといけないと思い、それ以上は彼女に質問をしなかった。
「エレスティアちゃん、とりあえず、僕と一緒に帰ろっか。立てる?」
「うん……」
俺はエレスティアの手をとり、彼女が立ち上がるのをサポートする。
エレスティアが立ち上がると、俺は初めて彼女の顔を見る。
美しい。
10歳の俺が同年代らしき少女の顔を見てこんな感想を述べるのは変だとは思うが、とても印象的で頭の中に残るぐらいエレスティアの顔は本当に美しかった。
エレスティアの瞳は大きく、くっきりとしている。透明感のある藍色の角膜の上には黄色の大きな星が映し出されている。鼻も小さくて可愛く、同年代とは思えないほどの美貌を持っている。
エレスティアの顔に見惚れてしまった俺は、彼女と手を繋ぎながら森の外へと向かう。
「任務中にこの子を見つけて保護したのですが、お願いできますか?」
無事「死の森」を抜けて少女と一緒に冒険者ギルドに戻ると、俺は冒険者ギルドの受付の女性に少女の保護をお願いする。
女性に何があったのかを「死の森」と言う言葉を隠して説明すると、女性は口元を緩める。
「分かりました。こちらで保護させていただきます」
「では、お願いします」
俺は少女を女性に引き渡す。
「お兄ちゃん……ありがとう」
道中何も話さなかった少女の口から感謝の言葉を聞いて、俺は笑顔でエレスティアと別れた。
それから数年後、俺が15歳のとき、俺はエレスティアが勇者になったことを耳にする。10歳のときにエレスティアを「死の森」の中で助けて以来、俺は彼女とは一度も会っていなかった。
##
俺はおととい、
どうやら、エレスティアは俺のことに気づいていない様子だった。エレスティアは、あの日あんな怖い思いをしたんだ。だから無理もない。忘れている方が良いのかもしれない。それに、俺はあの時エレスティアに名乗らなかったのだ。
エレスティアの横姿だけでは分からなかった俺だが、彼女の顔を見ると一瞬でエレスティアだと分かった。エレスティアが持つ特徴的な瞳と美貌で。
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