第10話. 異世界の少年、地球でお出かけする。②

 「あれ?さきりん?」


 俺と美咲がショッピングモールに入ろうとした刹那、近くから人の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 そして、その名を聞いた美咲は一度歩くのを止め、声が聞こえてきた方向に振り向いた。すると、そこには美咲と同い年であろうと思われる一人の少女が立っていた。



 「……ことり?」


 少女の姿に気付いた美咲は、その少女の名前を呼んだ。

 美咲に名を呼ばれた少女は肩に小柄な白色のお財布ポシェットを掛けながら、俺たちの方へと近づいてきた。



 「さきりん、今日はどうしたの?ショッピング?」


 美咲のことを「さきりん」と呼ぶ少女が俺たちの元へとやってくると、美咲に質問をしていた。


 「そうだよ。少し服とかを見に来たの」

 「そうなんだ」

 「逆に、ことりは何にしに来てたの?」

 「私は映画館で見たい映画があるから、悠斗ゆうとと一緒に見にきたの」

 「何の映画見るの?」

 「えっとね……今日見る映画は一昨日公開された『シャドウスパイラル』だよ」

 「その映画、金曜日学校で言ってたやつだよね?見に行きたいって」

 「そうだよ。まだ公開されて二日しか経ってないけど、ネットの評判がすごい高いんだよ……」


 美咲の友達は少し興奮気味に語っていた。


 「……ことりって、ほんとにアクション映画好きだよね!?」

 「うん」

 「そういえば、山本やまもとくんはどこにいるの?」

 「悠斗はまだ来てないよ。1時30分にここで待ち合わせしてるんだけど、映画が楽しみ過ぎて30分も早く来ちゃったの」

 「30分は早過ぎでしょ」


 美咲は微笑みを浮かべながら、「ことり」という少女と話していた。


 「そういえば、さきりんの横にいる彼は誰?もしかして、秘密で彼氏いたりした?」

 「いや、彼は彼氏じゃなくて……」

 「じゃなくて?」

 「彼は……」

 「ん?」


 美咲が言葉に詰まっている様子を見た俺は、自分で名乗ることにした。


 「初めまして。僕は、美咲の親戚のシン=ブラッドフィストと申します」

 「そ、そうよ。彼は、私の親戚のシンくんだよ」


 俺の自己紹介に合わせて、美咲は俺のことを再度ことりに紹介した。


 「へー」


 ことりは少し怪しんでいる表情を浮かべていた。


 「さきりん、ほんとに彼氏じゃない?」

 「うん」

 「さきりんに外国人の親戚なんていたっけ?」

 「いたよ。紹介する機会が無かったから、教えてなかっただけだよ」


 ことりから質問されても美咲は平然とした表情を保っていた。


 「へー。まあ、いいや」


 ことりは少し納得していないような顔をしていたが、とりあえずは今は納得してくれた。



 「えっと……シンくん、紹介するね。彼女は私の友達の桜井さくらいことりだよ」

 「初めまして、シンくん。私の名前は、桜井ことりだよ。よろしくね。あ、シンくんって呼んでも平気かな?」

 「う……うん。よろしく」


 美咲以上なことりのフレンドリーな接し方に俺は少し追いつけていなかった。


 ことりはレッドブラウンの髪でツインテールをしていた。身長も美咲より少し低く、ふわふわしていて、まるで1羽ののように可愛い。そして、服装もライトピンクのフリルブラウスと黒色のフレアスカートを着こなしており、とても似合っていた。



 「それじゃ、私たちそろそろ行くね」

 「うん。ショッピング楽しんでね。シンくんも、またね」

 「ことりも映画楽しんでね」

 「ありがとう」




 ことりと別れたあと、俺と美咲はショッピングモール内の服屋にやってきていた。

 そして、俺は今美咲にコーデしてもらっているところだ。


 「このシャツとこのズボン試着してみて。あと、これも」

 「う、うん」


 美咲は次々と俺に試着室で試着するシャツとズボンを渡してきた。

 こんなに要るのか。少し多い気がするけど、せっかく美咲が選んでくれたから全部来てみるか。

 そう密かに思いながら俺は、引き続き美咲からシャツとズボンを受け取っていた。



 「それじゃあ、シンくん、試着室行こ?」

 「うん」


 美咲が選び終えると、俺はシャツとズボンを計10着ほど手にしながら美咲と一緒に店内の試着室へと向かった。



 試着室に入った俺はまず、ライトグレーの半袖無地Tシャツに手を通し、同色のシャツを上から羽織った。そして、下はデニムテーパードパンツを履き、試着室にある鏡で自分の姿を見た。

 めっちゃ良いじゃん。美咲、センス良いな。ことりもそうだったけど、この世界の人のファッションセンスは凄いな。

 俺は内心で美咲のファッションセンスを褒めていた。


 「どう?着替えられた?」

 「うん」


 俺は美咲に言われて、一度カーテンを開け、今着ている服装を美咲に見せた。


 「シンくん、めっちゃ似合ってるよ。カッコいい」

 「ありがとう。でも、美咲のコーデが良いからだよ」

 「ありがとう」

 「じゃあ、次着るからカーテン閉めるね」

 「うん」




 あれから俺は残りのシャツとズボンを試着し、最終的にはシャツを4着、ズボン4着購入してもらった。


 「美咲、ありがとね」

 「どういたしまして」


 俺は片手にシャツとズボンが入ったビニール袋を持ちながら、美咲に感謝した。


 「次は、どこ行くの?」

 「えっとね……次はシンくんの新しいシューズを見に行くよ」

 「……分かった」



 そして、俺と美咲は次なる目的地、靴屋に向けて服屋を後にした。

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