track #19 - G
アタシが活動していく上での良き理解者の1人が、ヘアメイクを担当してくれているマサミ。彼との出会いは
衣装を担当するのは
衣装担当からマサミが預かって、衣装の面倒もみてくれる。
初めて会った日、楽屋で着替えようとした際に男性であるマサミの目を気にして恥ずかしそうにしたアタシを見た彼が
「オレ、女に興味ないから。キミの裸とかどうでもいいから、早く着替えて」
と、アッサリ言った。
アタシはどんくさいと思われたくなくて急いで脱いで着替えたが、よくよく考えてみればマサミはかなりプライベートなカミングアウトをしたのだ。
着替えるのを途中でやめてブラジャーのまま彼に抱きついた。
「ちょっとなに、オレ女興味ないって言ったじゃん」
彼が驚いて言ったので
「伝えてくれてありがと」
と、お礼を言うと
「ほら、オレ、いい男だからホレられても困るしね、最初に言っておかないと」
アタシの両肩を持って身体を離し、笑顔で言った。
たしかにハンサムな彼とはそれ以来イイ関係を築けていて、撮影や取材、テレビ出演の際には必ず来てくれる。あっという間に打ち解けて仕事の話もプラベートな話もなんでも話せる仲になった。
そんなマサミと今日は雑誌の取材のために撮影スタジオに来ていて楽屋にいる。メイクをされながら相談した。
「ボーイズグループの曲頼まれたんだけど、挑戦したいんだけど、勉強しないとと思ってるんだけどさぁ」
「
「うん、そうなの。どこから勉強したらいいか、とっかかりがさ……」
マサミはかっこよくていつも洒落た服を着ていて身体も鍛えているから年齢不詳なのだが、この業界は長くていろいろなコトを知っていてアタシのいいアドバイザーでもあった。
歌、ダンス、演技などのクラスがあって都内近郊の明日のスターを夢見る10代の男の子たちが通ってくる。最初のうちはその養成所から大手事務所や映画のオーディションに参加させて生徒を送り出してた。実際
養成所は儲かって業界内での評価も高ったので、自信をつけた勝矢は自分で
アタシが曲を依頼されたグループは大阪養成所からは1組目だが、事務所からは5組目のグループ。そのすべてが絶大な人気を誇っている。
マサミからこの話を聞いてやっと手掛かりをつかんだ。
社長・勝矢のアイドル時代を掘ってみることにした。そこからボーイズアイドルの歴史を勉強を始めれば、おのずと今やるべきことが感じられるはずだ。ヒントはあるはずだ。
研究のために
それだけでは
フォークもあり、ロックもあり、ディスコもあり、ユーロビートもあり、ラップもある。その時々の流行りをちょうどイイ具合で取り入れている。それが叶っているのは有名・一流ミュージシャン、作詞家、作曲家がクレジットには名を連ねているからだ。その時は無名だったとしても、結果として評価されているミュージシャンもいたりする。アタシはアイドルソングを誤解していたようだ。
音楽のジャンルは様々だが総じて言えるのは、ファンのための曲だということだ。
ファンが待っているだろう言葉が並ぶ。それはコンサートのDVDを観たことで改めて感じた。眩いアイドル達、それを応援しているファン達も輝いている。アイドルはファンを喜ばせるために曲を披露する。それをファンが受け止めて温かい感情を返す。その空間は異世界のようで非日常だった。アタシは感動すら覚えた。アタシとジョージはすっかりアイドルのコンサートに魅せられていた。
翌日、作業部屋で昨日の感動をそのままに思いつくままにピアノを鳴らしてた。
バラードという条件以外に特にリクエストはなく、アタシはなんとなく
ジョージが入って来て
「それ、ええね」
と、言いいながら、後ろにあるシングルソファーに腰を下ろした。
ピアノと鼻歌で曲らしきものが見えてきた。
「お、降りてきた?」
ジョージがまた言葉を発したのでアタシは振り返ってわざと迷惑そうな顔を作った。
「アタシ、降りてくるとかないから、天才じゃないし。っていうか、話しかけないでよ」
「すまん、すまん」
ジョージは笑いながら部屋を出て行こうと立ち上がってアタシに背を向けた。
その背中をみてふと思いついた。
「待って、
アタシが呼び止めると、ジョージは不思議そうな顔でコチラを見た。
「この曲の?」
「そう、関西弁でラブソング、優しいヤツ」
「なんやねん、オレがいつも乱暴なの書いてるみたいに言うて」
そう言いながらジョージはさっきまで座っていた1人掛けのソファーにまた座った。
曲を提供するグループのメンバーはみんな関西出身でほとんどが大阪に住んでいて、テレビ番組やコンサートのMCなどでは関西弁を話している。でも、共通語で書かれたリリックを歌っている。関西弁を話す人はテレビやラジオではもうお馴染みで今更違和感もないだろうから、彼らも関西弁で歌ってもいいのではないかとふと思ったのだ。
運よくアタシの一緒に暮らしている人は関西弁を話す。
そう説明するとジョージは
「ほな、それちょっと撮らして」
と、言ってアタシが鼻歌交じりでピアノでコードを弾いているまだ完成していない音をスマホで録音した。
もっと曲のカタチが明確になったら調整が必要になるが、今の時点で何かしらのテーマを見出したいとジョージは別の部屋で考えるとスマホを片手に出て行った。
曲が1歩進むとジョージに聴かせ、詞をブラッシュアップする。また曲をいじって詞を調整するそのラリーを何回か行った。
数日後、作曲はアタシ、作詞はアタシとジョージという共作『大阪ロマンチカ』が出来上がった。最初の段階で詞のイメージを考えたのはアタシだが、それをどんどん具現化してブラッシュアップして最終的に完成させたのはジョージだった。
『ロマンチックストリート』は東京と思われる都会の街を好きな子を思いながらドキドキしたキモチで歩く様子を描いた明快な詞だったが、今回の『大阪ロマンチカ』は関西弁で大阪の街を舞台にして同じようなコトを叙情的に表現している。
改めてジョージのリリシストとしての才能の高さを実感した。
「いや、でもメロディがええから、ひっぱられただけよ、ほんま」
ロマンチックで情感たっぷりなうえ、街や人の具体的な描写も精密でアタシは一瞬にして引き込まれたこのリリックに感動すると彼は謙遜していた。
感動したのはアタシだけではない、
そして10日後くらいにはグループのメンバーが歌入れして完成した曲のサンプルのデータが送られてきた。
<メンバーもスタッフも曲をとても気に入っています。ありがとうございました。またお願いします。>
と、スタッフからのメッセージが添えられていた。
「トラックメイカーとしての仕事もどんどん取ってくるよ」
と、一連の流れを見ていたルカが言ったがそこまではまだ早い気がする。
しかしデビュー曲をヒットさせられず自信をなくしていたアタシは少しそれを取り戻せた気がした。
そしてアタシとジョージは最強のコンビなのだと実感した。
この曲の作業している間にアタシとジョージの関係を週刊誌が報じたが、大して名の売れてないミュージシャンのゴシップで小さい記事だったし、その週刊誌以外は扱ってもいない。
きっとクラブに一緒に出演している時に撮ったと思われる写真を無断でSNSにあげている人が数名いたが、それもさほど話題にはされなかった。
週刊誌が発売された翌日にラジオ番組で恋人がいるコトとその人がラッパーであるコトを率直に話したのも功を奏したのか、この件で批判を受けたりするようなこともなく仕事に支障も来たしてもいない。
別に誰に認めてもらう必要なんてないが、アタシはジョージとの関係を世間が認めてくれたように感じた。
後日、発売前に完成品のCDが届いてクレジットに2人の名前が並んでいるのを見てアタシ達の絆の深さを確信した。
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