track #14 - Towering Inferno①
いつもと変わらない土曜日、ジョージは横浜のクラブで出番があって夕方出かけて行った。仕事がなくてヒマなアタシは友人のルミが、都内のクラブに出ていたらそこに遊びにでも行こうと思い、彼女の予定をチェックをしていた。
すると先日DMでやり取りしたDJ
電話に出ると『ごめんね、突然かけちゃって』と、言って彼は要件を話し出した。
『そういえばさ、ちょうどね、アルバムに参加する人とかクルーとか集まって飲むから、よかったら来ない?』
急な誘いでたじろいでいると、有名なシンガーの名前を何人か上げたうえで
『男女2、30人でワイワイやるだけだから。業界に知り合い増やすにもイイと思うよ』
「よそ者のアタシが突然行って大丈夫なんですか?」
『もうよそ者じゃないでしょ』
と、彼は笑って言った。そして
『
と、続けたので、ヒマなアタシは遊びに行く事にした。まだ1度しか一緒に仕事をしたことがないので、彼と仲良くなっておくに越したことはない。
電話を切ってルミにメッセージを送ると、彼女は今日はクラブに出番があってそれが終わり次第その飲み会に参加する予定だという。ルミとはそこで落ち合おうと約束してアタシは身支度をして指定された場所へ行った。
六本木の高層ビルの上の方でその飲み会は行われている。
超富裕層が住むことで知られているそのビルの居住者用のエレベーターに乗り指定された階に着くと1フロアに1戸しかなく、間接照明で照らされた重厚感のある入り口のインターフォンを鳴らし名前を告げると、大きな扉が開き見ず知らずの若い男の子に中に招かれた。
「有名人多いから、写真とかナシね。あと、2階はプライベートなとこなんで立ち入り禁止で」
と、その男の子に入り口で注意喚起を受けたが、奥からは人々の話声や笑い声、音楽やいろいろな音が混ざり合って騒がしく、彼の声はあまりよく聞こえなかった。
靴で溢れかえる大きな玄関を上がって廊下を少し歩いて左に曲がると、リビングというには大きすぎる空間に20人くらいの男女がいた。
入ってすぐ右側には階段がありメゾネットタイプの部屋であるのがわかって先ほど若い男の子に言われた2階の意味がわかった。
片面はガラス張りで東京の夜景が見下ろせて、絵画やオブジェクトが飾られ、グランドピアノまであった。一番奥の壁に大きなモニターがあり、その前のソファに座ってゲームを楽しんいる人達もいる。簡易なDJブースあってDJ
アタシは金持ちの遊びとはこういうものなのかと思いながら立ち尽くしていると、DJ
「ごめん、今まわせって言われちゃってさ。バーあっちにあるから、好きに過ごしてて」
と、広い空間の奥にあるキッチンスペースを指さして言った。
人々をかき分けて、アルコールや食べ物が並べられているキッチンのカウンターの前にたどり着くと意外な人に名前を呼ばれた。
「え、アイ?!」
と、声をかけてきたのは左右の腕に女の子1人づつの腕を絡ませたケイだった。
だいぶ久しぶりだったのもあり、以前彼からのオファーをあっさり断って気まずいのもあり、アタシは「久しぶり」と不愛想に答えた。ケイの両脇には女の子がいたし状況も状況だったので特に話すこともなく、アタシはケイに背を向けてカウンターに並んでいる様々なアルコールを物色し始めた。
その中からコロナビールを取って栓を抜きカットされているライムを差し込むのと同時に
「オレ、1、2杯飲んだら帰るし、アイも早く抜け出せよ」
と、ケイが後ろからアタシの耳元でささやいた。
真意がわからず何を返事するともなく振り返ると彼はもう背を向けていて両脇の女の子達と楽し気に話していた。
こんないかにも金持ち・芸能人のような事をケイもしているのだと少しショックだった。アタシ達とはいつもファミレスかチェーン店の居酒屋で過ごしていたのに、音楽性だけではなく生活もだいぶ変わってしまったのだと後姿を見ながら思った。
特にやることもなくビールを飲みながらパーティを楽しんでいる人達を
まだこのような派手な業界人の集まった場所に身の置き所のないアタシもDJ
最初に覗いた部屋では、男女10人くらいが大声を上げながら楽し気にトランプゲームに興じていた。
次の部屋は多分ゲストルームで、部屋の中央にダブルサイズくらいのベッドが向こう側の壁に頭をつけて置いてあり、その上にスナックやピザと飲み物を囲んで6人の男女が座っていた。入って左側の壁にかかっている大きなテレビでは
「よかったらどうぞー」
と、その中の1人がアタシに声をかけたので、他の場所より比較的おとなしいこの場でDJ
部屋に1歩入るとベッドの足側に腰かけて身体をひねってテレビを観ていた女の子が「
「何やってる人? 私、モデル。売れてないけど」
彼女はひねっていた身体をコチラに向けてアタシに聞いた。
「アタシはシンガー。アタシも売れてないけど」
と、返答すると笑っていた彼女は確かにキリっとした美人だったし、腰かけてコチラに投げ出している足がスラっとしていてモデル然としている。
「
「うん、けっこう」
「いいよねぇ」
などと、だいぶ酔っている様子の彼女とたわいもない話をしながらテレビを観て時間をつぶした。
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