track #13 - The My Dream Killing Me

 SNSを開くとDMダイレクトメッセージが来ていることに気がついた。

<JIROくんからデモもらって連絡しました>

と、始まるメッセージで、以前DJ JIROジローと行ったクラブでWhitney Houstonホイットニー ヒューストンを歌った同じ日に出演していたDJからだった。DJ MIURAミウラというHOUSEハウスミュージックで有名なベテランDJで、ジャンルが違うので接点はなかったが名前はよく見かけていた。かつてはHOUSEハウスHIP-HOPヒップホップ、両界隈はクラブミュージックとくくられて近しくしていた時代もあって、アタシ達よりいくつか上の世代は交流があったりする。今ではクラブミュージック内も細分化され、交流はそれほど活発ではなくなってしまっているが、DJ MIURAミウラは当時から現在に至るまで人気のある有名人だ。

<アルバムを作ってて歌ってくれる人を集めてるんで参加しませんか? よかったら電話ください。>

とても興味がそそられるお誘いだった。

 慌ててとりあえずお礼のメッセージを返信すると、すぐに電話がかかって来て詳細を教えてくれた。

DJ MIURAミウラが何曲か作曲し、各々の曲に適切なシンガーやラッパーをジャンルの隔てなく起用して、1枚のコンピレーションアルバムを作るという計画が立ち上がっているらしい。ちゃんと聴いたことはなかったが、彼は過去にそういうを何枚かリリースしていたのも、その評判が良いのも知っていた。

とてもおもしろそうな企画だし、いいチャンスに違いはない。彼ほどのベテランがアタシとはかけ離れた曲を提示するはずはないが念のために聞いてみた。

「でも何でアタシなんですか? 無名だし、ハウスじゃないし」

「知名度とかは関係ないよ、俺のアルバムだし。ジャンル関係なく英語でちゃんと歌えるうまい子探してたんだよね」

それなら、アタシは問題ない、納得だった。

 まだ曲が完成してるわけでもないので、完成した曲を聴いて双方納得したら一緒に作ろうということになって電話を切ったが

<事務所に俺からちゃんとオファーしたほうがいい?>

と、改めて丁寧なメッセージが来て

<大丈夫です。アタシから伝えます。正式に決まったら事務所にお願いします>

と、アタシが返信するとメッセージでのやり取りは終わって、まだ仮という形だがDJ |MIURAミウラのアルバムに参加することが決まった。

 SNSには所属事務所のCOLUSCANTコルサントの連絡先も載せてはいるが、まだ無名のアーティストは事務所に所属さえしてない人もいるので直接SNSに問い合わせやオファーが来るのは普通で、後から自分で事務所に申告する。それにCOLUSCANTコルサントのような個人事務所は人手が足りないのもあって自由裁量が認められていて、自分のやりやすいように自分で交渉もできる。

<DJ |MIURAミウラからアルバムのオファーがあったよ 曲できたら話詰めようって>

と、サクラに報告のメッセージを送ると

<すごいじゃん! いいのできるといいね! 西クンにも伝えておくね>

と、すぐに返信があった。サクラはクラブ遊びをしていたし、今は音楽業界で働いているし、もちろんDJ |MIURAミウラのコトは知っていて喜んでいた。


 ジョージと共作している曲ができあがった。

初めて一緒に作るのでラブソングでも作るのかと思ったが、ジョージの構想にはまったくそんな色気はなく、硬派な社会的な内容だった。もちろんそういうジョージの一面もアタシは尊敬していたし好きだった。

ジョージのテーマを聞いたアタシはそれにつられて低音をきかせたトラックを作った。それを聴いたジョージがリリックを仕上げていく。またそれに影響を受けてトラックはワンループで大きな展開は少ないシンプルなものになっていった。弱者に寄り添う内容でメッセージ性が強いリリックで韻が硬くて聴きごたえのあるラップ、それに特徴的なジョージのイイ声は、凝ったトラックを必要としない。アタシ達は日ごろから相性が良いのが楽曲制作にもイイ影響を及ぼしたようで、スムースで自然に最適解をができる作業だった。結局余分なモノをそぎ落としたシンプルなトラックにチカラ強いラップが乗った硬派な1曲ができあがった。

 たいがいジョージの曲は注目を浴びるのだが、その曲はクラブ界隈で評判になった。トラックを作ったのは誰かとよく聞かれるとジョージは言っていて、アタシだと答えると

『まさか女の子が作ったとは思わなかった』

と、いう反応が多いようだった。

それでアタシはトラックメイカーとして注目を浴びて、いくつかのオファーをもらった。

「オレ言うたやん、アイはトラックメイカーとして優秀やって」

と、ジョージは言った。

まさかの展開だったがアタシはいがいと曲作りは好きだし、評価されてうれしかった。

「歌うことに疲れたら裏方になろうかな」

と、アタシがつぶやくと

「家でできる仕事だから、子育てしながらできるしな」

と、ジョージは言った。

たしかにそうだ、表舞台に満足したらジョージとの子供を産んで、トラックを作りながら仕事と両立した子育をてして、幸福な家庭を築いて、平和に暮らしていく未来も悪くない。

その理想を叶えるために、今は自分の夢を現実にしなくてはならない。満足するまで歌いたい。

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