track #09 - Lost Girls

 次の日、ジョージはまだ大阪の実家にいてアタシはヒマを持て余して、昨日出会った人達について検索し始めた。

<サオリ>と、検索してもさすがに昨日出逢った歌手志望のサオリは見当たらず<サオリ グラビア>と、ワードを加えると昨日のサオリの写真をいくつか見つけた。

白いビキニを着てプールサイドで、快活な笑顔と裏腹に胸を強調したりヒップを突き出したりとセクシーなポーズをとっていた。

雑誌のページのようで、セクシーな彼女の脇には“平野 さおり”という名前と簡単な紹介文が記載されていた。

<平野 さおり>と、検索しても先ほどの写真と所属事務所のかしこまった紹介ページしか出てこない、Wikipediaウィキペディアすらない。やっと出てきた本人のInstagramインスタグラムにはかわいくポーズをとる彼女がたくさん並んでいたが、コメントも“いいね”も数少ない。

 同性から見ても一般的に見てもかわいい。良いか悪いかは別として、ルックス至上主義の芸能界でも彼女では通用しないのか。

昨日、サオリの望みを聞き入れて彼女を伴ってVIPルームまで行くべきだったのかもしれない。そこに行ったからといって彼女の望みが叶ったかどうかはわからないが、同じように夢を追っている同い年の女の子を手助けしてあげるべきだったのかもしれない。アタシは曖昧あいまいな態度をとらずに、一緒に行こうと言えばよかったと後悔していた。

 それからミッチーについて調べた。サオリが言っていたように今のメジャーシーンで人気のダンサーとヴォーカリストからなる5人グループだった。王子様のようなアイドルに飽きた大人向けのアイドルといった印象で、YouTubeユーチューブで彼らの曲を聴いてみたが、アタシはそれほど興味が持てずに途中で画面を閉じた。

 ミッチーのグループが所属しているマネージメント兼レコード会社“DEAR STARディア スター”。アタシをVIPルームに呼びつけた社長は、この会社を立ち上げて若くして成功し、メディアなどにもよく取り上げられていてネットにも記事や写真が溢れていた。昨日のチャラバコは繁盛しているこのレコード会社が出資していることも知った。だからだろうか、40歳くらいでまだ若い社長はあのハコが良く似合うような派手な風体だった。

DEAR STARディア スターには、アタシにでもわかる有名なミュージシャンが何人も在籍しているし、他社のアイドルグループの音楽出版もしているので、きっと今の音楽業界をけん引している会社だろうと想像する。

サオリがあれだけ強くVIPルームに行きたがった意味がわかった。


<ちゃんとイイ子にしてるか?>

夕方になってジョージからメッセージが来た。きっと羽を伸ばして地元の仲間と日が昇るまで ── 日が昇っても飲んでいて、今頃起きたのだろう。

<アタシは常にイイ子>

<オレ禁断症状きんだんしょうじょう

<え?>

<アイが足らん>

離れていてもジョージはかわいいメッセージでアタシを喜ばせてくれる。

通話に切り替えて、約1日ぶりに彼と話した。

『せや、アイ、おまえホイットニー歌ったやろ、昨日。』

「うん。何で知ってるねん」

『なにその関西弁、かわいいんやけど』

「いいからぁ、何で知ってんの?」

『動画、ネットに上がってんで』

昨日歌っている時にたくさんのスマートフォンを向けられていたから、それで動画を撮られてSNSに上げられてるのだろう。

「まじか。お客さんかなぁ」

『多分な。たいがい褒めてる。オレ、みんなに自慢したし』

ぜんぜん関係ない事ばかりを調べていて、そんな事には気がついていなかった。

それからアタシはサオリとの出会いや昨日起きた事を話した。ミッチーに声をかけられた件は、心配するといけないので伏せた。

 20分くらい話をしてジョージは両親と妹と4人で夕飯に出かけるというので

『ほなね、明日帰るから、イイ子にしてなあかんよ』

と、言って通話を終わらせた。

帰ってくるまで数時間だが、声を聴いたら逆に離れていることの淋しさを実感してしまい感傷的な気分になってしまった。早く明日が来るように今夜は早く寝てしまおうと思った。


 ママと2人の夕飯を済ませて、自室に戻って先ほどの電話でジョージから聞いたアタシの昨晩の動画を検索した。

予想通りあの場にいたお客の何人かがSNSに手振れのひどい動画を上げている。一緒についているコメントに辛辣なものはなく、ホッとした。

自分のSNSとYouTubeユーチューブを見てみるとフォロワーの数が増えていた。きっと昨日のWhitneyホイットニー効果で現場にいたお客と動画を見た人がフォローしてくれたんだろう。

 でも結局アタシの属性は、歌うまい・ダブル・エロカワイイに、昨晩の効果で『DJ JIROジローの後輩』が追加されただけだ。あの大きくド派手で人でごった返すチャラバコで歌っても何も変わらない。

しかしサオリを思うと、少しフォロワーが増えただけありがたいと思うようにした。

 夢を追う女の子のリリックを書いた。アタシとサオリ、東京の真ん中で夜中にクラブの外で出会った2人をモデルにして。

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