track #08 - Tokyo Sky
<チャラバコでナンパされてる?>
大阪にいるジョージからメッセージがきた。アタシはヒマでフロアの後ろの方の目立たない場所に立って踊っているフリをしながらメッセージのやり取りをしている。
<まだされない 待ってるんだけど>
<待つなよ どうせ断るんやから>
<断らないかもよ>
<やりもしないことでオレをあおるな>
アタシ達は離れていてもつながっている。
「あの、突然ごめんね、キミ、ちょっといい?」
スマホに目を落としジョージとメッセージをやり取りしているアタシの右肩をたたいて、男の人が話しかけてきた。
「何ですか?」
アタシは顔を上げてその男の人を見た。周りの人々が彼の事を見てザワついているので、きっと彼は有名人なのだと察した。
「オレの友達っていうか、一緒に来てる人が、キミと飲みたいって言ってるんだよね」
と、言ってVIPルームのある2階を指さした。
「ごめんなさい、アタシ、この後出番なんです」
「そうなんだ、DJ?」
「いえ、DJ
「へぇ、
そう言い残して彼はVIPに戻って行ったが、出番が終わっても行くつもりはなかった。
声をかけてきた男の人と、一緒に飲んだら得があるという人が何者なのかは気になったが、VIPルームでのバブルな遊びなど興味はない。
多分ジョージは酔い始めたか、出番かで、メッセージが途切れたので、アタシはやる事がなくなってしまった。出番前にあまり飲むわけにもいかず、あまり楽しめないタイプの音楽が鳴り始めたので、アタシは外に出た。
煌びやかに輝く出入り口から出てその建物の端に移動すると、アタシよりも少し小さく細い女の子が煙に巻かれていた。ビルだらけで見えない空を見上げて、タバコを吸っている。邪魔をしないように少し距離置いてアタシも空を見上げた。
「あれ、さっきミッチーに話しかけられてた子じゃん?」
タバコを吸っている彼女はアタシに話しかけているようだったのでそちらを向くと、彼女もアタシを見ていて、ネオンの光でもハッキリわかる美人だった。
「アタシ、ミッチーに話しかけられてたの?」
「ウケるぅ。ミッチー知らないの? 超人気じゃん、ダンス&ヴォーカルグループだよ」
服装は少しあか抜けないかんじのワンピースだったが、細くて、金髪の髪を巻いていて、大きな瞳に鼻筋が通っていて化粧はしっかりしていて手入れの行き届いた身なりの彼女は、甘えたように話した。
「で、ミッチーはダンサーなの? ヴォーカルなの?」
「日本にミッチー知らない子いるんだぁ、若いのにぃ。ミッチーはダンサー」
彼女は大きな瞳を細めながらケラケラと笑った。
そのミッチーに何を話しかけられたのかと聞かれたので、VIPで一緒に飲まないかと誘われたと言うと
「え、行かないの?」
「うん、アタシ、ミッチー知らないレベルだし」
「まぁそれはちょっと引かれるだろうけど、普通行くっしょ」
彼女も有名人とお近づきになりたい
「じゃぁさ、私、VIPに連れてって!」
彼女はアタシの腕をつかんで大きな瞳をもっと大きくしてキラキラ輝かせながら言った。
何故かと理由を聞くと今日はミッチーと一緒に彼のレコード会社の社長が来ているからだそうだ。
シンガーなら一緒に飲むと得すると言われた理由がわかった。
「私、歌手になりたいんだよね、その社長に顔売りたいの。お願い!」
「うん……出番終わって、チャンスがあったら……」
彼女の熱に押されてアタシはそう答えるしかなかった。
サオリと名乗った彼女とアタシは偶然にも似たような夢を追っていたことに親近感を感じてお互いについて話した。
彼女はアタシと同じ年で芸能人志望で高校卒業後に上京した。現在は小さな事務所に所属してはいるが、グラビアやドラマの通行人程度の仕事しかもらえないらしい。業界人がよく出入りしているこのクラブに通って、誰かの目に留まるのを期待しているそうだ。
アタシにでもわかるほどの美人で、日本人の最も好まれそうな細身の体系で、話し方もかわいい。こんな子でも夢を叶えるのは大変なのだ。
「本当は歌手になりたいんだよね、でも事務所にチカラなくてさ、自分で売り込まないとで……」
次のタバコに火をつけながら、彼女は
「私の地元、田舎で、親の手前、30で独身でほぼ無職はキツイからさぁ、後1、2年で決断しないとなんだよね」
ウチのママは年齢で判断したりしないし、ジョージに結婚してと言えばしてくれそうだが、夢ということに関してはアタシと同じような状況でキモチはわかった。
「アタシなんて、彼氏と実家に同居だからね、笑えるでしょ」
「家の人、心広いんだねぇ。今更アイドルグループとかに入れないじゃん、年齢的に。時間だけどんどん過ぎていくんだよね……」
サオリは明るく小さな空を見上げながらタバコを吸っている。アタシはそのかわいらしい顔を見ながら「そうだね……」とつぶやいて、彼女と同じ空を見た。
チカラになってあげたいが、アタシはVIPルームに行きたくはない。どうするべきか悩んでいると出番の時間が近づいてきた。
「ごめん、サオリちゃん、アタシ行かないと」
「がんばって、ラブちゃん。後でよろしくね!」
サオリの期待に応えられるかわからないが、アタシはクラブの中に戻った。
ジローがステージに登場すると歓声があがった。さすが有名DJだ。
1曲目*
『今日は後輩連れてきました。激しい曲が続いたんで、ロマンチックな曲を歌ってもらいます! 好きな人と一緒に聴いて!』
と、紹介され、普通DJプレイ中にそんなことはしないが、特別に1曲歌う。
選んだ曲は
「恋している人達、恋が始まりそうな人達に送ります」
と、言って歌い始めるとお客は静まった。
この曲はみんなの大好きな感動系のラブソング、その中でも最も有名だ。騒ぎたい人もつい聴きたくなってしまう。それに歌唱力が必要とされるのもわかっているお客は審査員気分で耳を傾ける。そもそも
1番好きな『I Wanna
歌い終わると拍手が起こった。
ジローに目で合図を送ると彼もニッコリ笑っていた。成功の笑顔だ。
『
と、言ってアタシはステージから降りてジローはまたDJプレイに戻った。
舞台袖でジローのプレイを見てもよかったがサオリが気になったので、楽屋にいる先輩DJ達に挨拶してまたクラブの外に出た。
サオリはもういなかった。辺りを見回し、クラブの中も簡単に探したが見つからなかった。
◆◆◆
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