track #18 - The Morning Show
ダイニングのテーブルで3人で朝食をとっている時ビッグニュースをママが口にした。
「結婚を前提に付き合っている人がいるの」
アタシがあっけにとられていると
「ほら、言うたやん、ママ恋人いるって~」
と、ジョージがアタシを見てにこやかに言った。
それからママはお付き合いしている男性が出版関係の仕事で1歳年下だと打ち明けた。
そして今3人で暮らしているこの家を2世帯住宅に建て替えようとしていることも。
「せっかくお爺ちゃん・お祖母ちゃんが残してくれたしさ、いい立地だし。だけどなにせもう古いから」
「結婚するから出て行けって言われるかと思った」
と、アタシが言うと
「そんなコト……アイともジョージともずっと一緒に暮らしたいもの。でも私とアイ以外は他人だしね、2世帯住宅ってどうかなって」
クレバーで優しいママのらしい意見だった。
「オレもイイんすか?」
ジョージが言うと
「もちろんよ、家族じゃない。その代わり出世払いで建て替え費用何割か負担してもらうし、今まで通り家賃ももらわよ?」
と、ママは微笑んだ。
理解のあるママが幸せになってくれることは嬉しい。アタシはママの結婚も建て替えも賛成だった。
建て替えしている最中にはママは彼のマンションで暮らし、アタシ達はどこかで安いアパートでも借りて住む。まだ具体的な日程などの話は進んでいないが、近い将来そういうことになる。そのためにも近々、ママの恋人を含めて4人で食事に行こうということになった。
朝食を終えて自室で出かける支度をしている時に、2人きりになったジョージが聞いた。
「アイ、オレ、ほんまイイのかな。アイんちに住んだままで」
今まで問題なくやってきたのに今さら何を気にしているのか察しがつかなくて真意を聞き返した。
「オレがいてるから2世帯住宅なんやないの? 結婚してへんのに、いいのかなぁ」
「ジョージじゃなくて、アタシがいるからだよ。アタシと彼氏が他人だからだよ。ジョージがいなくても2世帯住宅したと思うよ」
「そんならええんやけど」
「そんな気にするなら結婚する?」
めずらしく慎重になっているジョージに冗談半分で聞くと
「それはまだ」
と、アタシのプロポーズはあっさり断られた。
「ちょっと傷ついたよ」
アタシがふてくされた表情をわざと作って言うと
「いずれは結婚するよ、オレにはアイしかおらんし。でもまだオレは自信がないねん。男として、家族を養っていく」
進歩的なジョージがかなり前時代的な発言したので笑った。
「アタシは自分で稼げるようにがんばるし。家父長制の権化みたいなコト言わないで」
「せやね」
と、彼も笑っていたけど、昔ながらの“男のプライド”というモノがジョージにも多少あるのだと感じた。でも、このプライドは“アイを幸せにしたい”というキモチからの派生だから悪いモノではないと考えるようにした。
「アタシは、貧乏だったとしても、結婚してなくても、しても、ジョージといられれば幸せだよ」
と、言うと
「オレも」
と、言ってメイクをしているアタシを後ろから抱きしめた。
愛し合っていれば状況や環境なんて関係ない。それが真理だと思う。
そして朝から立て続けに2つ目のニュースがサクラから届いた。
まもなく仕事で会うにもかかわらず電話をかけてきたので何かと思って出てみると、アタシとジョージが今こうして実家で仲睦まじく暮らしているコトが週刊誌に書かれることになったとの報告で、それで週刊誌側から問い合わせが来ているのでどう応答するかという相談だった。
『
サクラは笑いながらそう言ったが、デビューしたからと言ってまさかアタシがそんなゴシップの対象になるとは思ってもいなくてどう返答したらいいかわからなかった。
「なんで、アタシなんだろ」
『SNSが若干炎上したりするじゃない、それ系の人には“メンドクサイ女が出てきた”ってかんじで注目されてんのよ』
確かに、アタシは政治や世界情勢について賛同できる意見にはSNSで“いいね”をおしたりするし、A&Rのルカが取って来てくれたラジオのレギュラー番組でそういった発言をしては、炎上というほどではないが批判のコメントをもらったりしている。何も言わない“イイ子”ではないミュージシャンだ。アタシのような人は稀で、希少な“モノ言うミュージシャン”はたいてい炎上している。それで週刊誌はアタシに関心を持ったのは理解できる。週刊誌らしいと言えばらしい。
「ルカさんは何て?」
『あっちも何とも思ってないよ。もう週刊誌デビューなんてすごいって笑ってたよ』
アタシは事務所とレコード会社には恵まれたようだ。こんなゴシップに動揺せずにいてくれている。
『
と、言ってサクラは電話を切ったので、アタシは早速ジョージに相談した。
「アイと
アタシは恋人にも恵まれたようで、ジョージは動揺もせずにそう言った。
「普通に付き合ってますって言っていいの?」
と、アタシが聞くと
「普通じゃない付き合いてなんやねん」
と、笑っていた。
週刊誌にはアタシ達は交際していて一緒に暮らしているのは事実だと認めるだけの返答をして、詳しくは土曜日の自分のラジオ番組で話すことにした。
今日は朝からニュースが多い、3つ目はレコーディング中の午後だった。
ルカが突然スタジオにやってきて
「曲、提供して欲しいってオファーがあった」
と、にこやかに知らせた。
オファーしてきたのはデビューして1年足らずにもかかわらず大人気のボーイズアイドルグループだった。6人組のそのグループはとてもおもしろい経歴で、彼らが所属している事務所
そんな彼らがなぜアタシを気に入りオファーをくれたのかというと、デビュー曲だった。さほど売れなかったあの曲を聴いてくれていたことにも驚いたが、高く評価してくれたのもいがいだった。
「あそこの社長、音楽にうるさいのよ、元シンガーだから。インディーズとかも細かくチェックしてるらしいよ。デビュー前のデモとかも手に入れてたかもね」
ルカはオファーの理由をそう予測した。そんな耳の肥えた人に指名されたのは光栄だし、アイドルの曲を作るというアタシにとって初めての体験に興味が沸いて挑戦してみようと思った。
今すぐ欲しいのはバラード曲らしいが、イイのができたら何でも聞かせて欲しいというリクエストだった。
アタシは自分のアルバムの制作中だが煮詰まってもいたので、自分とは違った毛色のモノに挑戦することで気分転換をしつつ成長できればと思っていた。
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