track #05 - Chemical Of Romance②
アタシとケイに距離ができているのにはもう1つ理由があった。
マサトしか知らないがアタシはジョージと付き合う前、ケイとジョージの間で揺れていた。
ある日の明け方、クラブ帰りに寄ったファミレスでケイはアタシに愛の告白をした。
「アイ、オレら付き合おうぜ」
「は?」
「
「いや、意味じゃなくて、
「好きだからじゃん」
アタシとケイは向かい合って座ってモーニグメニューのサラダとトーストを食べている最中に、いつもとなんら変わらない会話の流れで彼はあっさりとアタシ言った。ケイの隣では突然の出来事にマサトが
アタシは聞き返した。
「好きって?」
「
「だから日本語わかるって」
「じゃぁ付き合おうよ」
「あのさぁ、オレもいるし! 告る時とかって2人きりでやるんじゃねぇの?!」
と、呆れて会話を
しかしその日から本気かどうかいまいち疑わしい態度でケイは会うたびにアタシに『付き合おうよ』とか『好きだよ』とか言うようになった。
まんざらでもなかったが、同時にジョージにも好意を持たれていたアタアシはどちらを選ぶかで揺れていた。
ケイには同期の仲間という感覚の方がどうしても強くて、恋人になる想像があまり具体的にできなかった。
一方ジョージの方はまだ大阪にいたので、どういう付き合いになるのか具体的に想像できなかった。
そんなふうに2人の間で揺れていた頃、日本で1番大きなMCバトルの大会が行われ、何の
この対戦の後、アタシはジョージの新幹線に飛び乗ることになり、ケイはメジャーデビューする。ジョージが敗北し、ケイが優勝した大会だ。
ケイはジョージとアタシがデートしていることを知っていたので
「オレ、絶対勝つから、見てて」
と、試合前にアタシに言って、その宣言通りケイは優勝する。
夜遅くに大会は終わり、取材や打ち上げでどちらとも会えずにいて、アタシはまた別の一緒に観戦していた友人たちと飲んでいた。ジョージにはなんて言っていいかわからなかったが、ケイには<おめでとう>とメッセージを送っておいた。しかし優勝したからきっと忙しかったのだろう、返信はこなかった。
深夜、ジョージからはメッセージが来た。
<始発で帰るんやけど、それまで一緒にいてくれませんか?>
アタシはすぐさま返信をして友人たちと飲んでいる席を立ち、ジョージは打ち上げを抜けて、アタシ達は落ち合った。公園を歩いて、ファミレスに入って、マンガ喫茶で朝まで時間をつぶした。
薄暗い個室で2人掛けのソファーに深く腰掛けてマンガを読むアタシの肩に、ジョージは頭を乗せて寝ているのを見ると、そのまま抱きしめたい衝動にかられた。さっきの試合でアタシはジョージへの恋心を自覚していたのだが、ケイを失う怖さがあってそれを行動に移せなかった。
ジョージの恋人になってもケイにはアタシを好きでいて欲しいなんて都合がよすぎるのはわかる。でも、せめて友達としての仲は壊したくなかった。
ケイに何か不満があったわけではない。ただジョージに惹かれてしまっただけだから。
そして、始発の新幹線の発車のベルがなかなか踏ん切りのつかないアタシを
アタシとジョージは大阪に着いて、そのままホテルに入った。
ジョージとの初めてを過ごして眠っている間にケイからメッセージが来ていた。眠い目をこすりながらそのメッセージを読んだ。
<I dedicate the win to u.
did u get that I am serious?>
(キミにこの勝利を捧げるよ。本気だってわかった?)
ジョージと結ばれて幸せの絶頂のはずだったが、この後ケイを失うんだと実感したアタシは胸が張り裂けそうだった。
どうメッセージを返したらいいかわからず、ジョージを起こさないようにそっと服を着て静かに廊下に出てケイに電話した。
「ケイ、アタシ」
『おぉ、おはよ』
ケイは寝ぼけた声だった。
「
『オッケィ……』
「ごめん」
『アイ、愛してるよ』
「うん……」
『愛してる』
「うん……」
それから無言が続いて電話が切れた。
もっとケイを傷つけない方法はなかったのだろうか。
全員が幸せになれる方法はないのだろうか。
どちらかを選ぶと決めた瞬間にどちらかを傷つけないとならないなんて神様はいじわるだ。
幸せのはずのアタシは背徳感と罪悪感でいっぱいになり廊下にしゃがんで泣いた。
少したって部屋の扉が開いた。
「何してん、帰ったかと思ったやん」
廊下にしゃがんだアタシを見つけたジョージが言った。
ジョージはアタシとケイの件は知らないので、ママからの電話だったとウソをついてその場を取り繕って部屋へ戻った。
それ以来アタシはケイと話していない。
だからどうしてケイはドラマの曲のフィーチャリングにアタシを指名したのかわからない。アタシはケイを傷つけたのに。
サクラが出かけるのでアタシを家まで送ってくれることになり、サクラの車の助手席に乗った。
「サクラさんは気がついてる? ケイのオファー断った理由」
アタシは聞いてみた。
「まぁなんとなくね。あんないいオファー断るなんてさ。若い男女には何かと事件が起こるものだから」
事件という程のことではないがやはりサクラはアタシ達のことを察していた。それで最後には味方してくれたのだ。
「サクラさんは彼氏とかいないの?」
「私はね、最悪なことにまだ旦那を愛してんだよね。もう死んでんのにさ。形すらないんだよ」
サクラはハンドルを握って前を見ながら顔色一つ変えず言った。
もう亡くなって数年たっている人を愛しているなんてステキな話だが、残酷で彼女に同情と同時に尊敬のキモチが沸いた。
「人ってそんなに人を愛せるんだね」
「そうだね、最悪だよね。
アタシにはジョージがもし死んだらなんて想像することさえも辛かった。
「多分アタシにとってジョージはそれかも。死んでも一緒にいたいかな」
「死ぬまでじゃなくて、死んでもだね」
サクラは笑って言った。
ジョージが死ぬのじゃなく、アタシがジョージとの愛に溺れて死にそうだ。
ケイの事を思い出し、サクラの話を聞いて、ジョージに思いを
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