track #06 - Join Hands

 家に着くとジョージはソファーに座ってまだドラマを見ていた。

「まだ見てるの?」

「うん、いや、さっきまで風呂掃除して昼寝してたし、そんなまだ見てへんよ」

ジョージの横に座って、ただいまのキスをするとジョージは目線は画面に向けたままで適当にしたので

「ジョージ、チューするときはちゃんとして!」

と、頬を両手で押さえると

「ごめん、ごめん、今ええトコやったんよ。告るかどうかの」

と、言って慌てて一時停止を押してアタシをソファに押し倒した。

そしてアタシの唇以外にも顔や首や耳にもしつこい程キスを繰り返した。怒ったアタシにふざけてこれでもかとキスをするのでおかしくて「もうやめて」と、アタシが笑いながら言うとジョージも笑いながらそれをやめた。

 彼は楽しそうにドラマの続きを見だしたので、アタシはそれを邪魔しないように隣に座って一緒に見ているフリをしながらリリックをノートに書いたりしていた。

「いいタイミングで曲かかるんよなぁ。エモいわぁ」

ジョージはケイの作ったドラマのタイトルと同じ曲名のテーマソングを褒める。アタシはケイのことは置いといても、それほどイイ曲だとは思っていなかった。

「えー、それほどじゃないじゃん」

「アイはドラマ見てへんから、伝わらんのよ」

ジョージの『ラブソング』の方がよっぽどリアルで*韻も硬い上に*ライミングが見事で、内容もさることながらテクニックに感動する。これぞラッパーの作るラブソングという感じだ。ケイの作った『マイファーストラブソング』はフィーチャリングの女性シンガーが上手いだけだ。


 いつも通り夕飯を食べたり夜を過ごして2人でベッドに入った。

アタシはジョージに背を向けてウトウトしていると、彼はアタシを後ろから抱きしめた。いつもの事なので何も気にせずそのまま眠ってしまおうとしていたが、ジョージが低い声でアタシの名前をささいたので眠気をこらえて返事をした。

「アイがケイくんの事ディスると嫉妬するわ」

アタシがケイの事を批判すると何故ジョージが嫉妬するのか、まったく意味がわからずにアタシは彼の方を向こうとして身体をひねったがジョージは強くアタシの身体を抱きしめているので動けなかった。

What do u mean?ホヮッドゥユゥミーン?  寝ぼけてるの?」

ジョージの表情が伺えなかったが、そのままの姿勢でアタシは聞き返した。

「オレがバトルで負けたから、アイはオレを選んだんやろ? かわいそうやって」

彼がアタシとケイの件を知っていたのは初耳で、しかもそんなふうに思っていたなんてショックだった。アタシは勝とうが負けようがそんなのはどうでもよくて、ただジョージに惚れてしまっただけなのに。

ジョージの腕を力づくでほどいて、勢いよく起き上がって彼を見て

「アホちゃう? かわいそうで慰めるだけなら、あの日、ホテル行ってヤってたわ! その1回だけ!」

アタシが大きな声で言うと、ジョージが寝転がったまま驚いた顔してアタシを黙って見ている。ショックが収まらないアタシは続けた。

「バトルなんてちょーーーどーでもええし、勝負がつく前からジョージにドキドキしてたし。だから何も持ってないのに、チケットだって持ってないのに、新幹線乗ったんじゃん。車掌さんにめっちゃ怒られたじゃん」

 アタシが座ったままボロボロと涙をこぼすと、ジョージはアタシの腕をつかんで自分の胸に引き寄せた。

「ごめん、ごめん。わかったから」

と、言いながらジョージの胸の上に頭を置いて泣いているアタシの頭を撫でた。

「ジョージめっちゃムカつく」

「うん、オレがアホやね、ごめんね」

彼は優しくアタシの頭を撫でながら優しい声で何度も謝っていた。


 少したって落ち着いたアタシはジョージの隣にうつ伏せに横になり、彼を見つめながら聞いた。

「ケイのことなんで知ってたの?」

「バトルの前にケイくんがオレんとこ来て、アイは渡さんて、宣言されてん」

「今ちょう大声でファックって叫びたいわ」

余計な事を言ったケイに今更ながら腹が立つ。ケイを傷つけて、自分だけ幸せになって申し訳ないキモチでいっぱいだったが、そんなキモチは消え去った。

「アイはそんなにオレにドキドキしてたん?」

「ちょっとだよ」

勢いに任せてさっき言った言葉を蒸し返されて恥ずかしかったので、濁した返答をすると

「ほな、今度はアイがオレの好きなトコ言う番な」

「えー」

「えーやないよ。言わないとオレまた勘違いして嫉妬すんで?」

それはもう困るしショックなので、アタシは彼の好きなところを1つ1つ思い出して口に出した。

「顔はぁ、そこそこタイプぅ」

「そこそこかーい」

「スタイルはけっこうタイプぅ」

「まじか」

「背、高いやん。そんで、髪型が*宮城リョーチンみたい」

「湘北のガード?」

「そそ。韻が硬くてラップうまい」

「おぅ」

「いいリリック書くぅ、わりと社会派でぇ」

「おぅ」

「ママと仲良しで、家事もちゃんとするぅ」

「うん」

「アタシの事大好きぃ」

「せやね」

「声がエロくてぇ」

「なんそれ」

「エッチ上手。かな」

「おまえ、だいたいオレの身体目当てやな」

眉をかしげてジョージが言うので

「そやで」

と、返答すると大きな声で笑っていた。アタシも笑った。

ケンカになりかけたが、アタシ達は結局お互いの愛情を再確認して眠ることにした。

手をつないで2人共仰向けになって目を瞑っていると、ジョージがまた口を開いた。

「せっかくお褒めに預かったのに申し訳ないんやけど、もうママが寝てるので、腕前は明日披露させていただきますわ」

「ラップ?」

「ちゃうわ、なんで家でラップすんねん」

「うん、わかってるよぉ。Good night darlingグッナイ ダーリン

「おやすみ、マイラブ」



◆◆◆


韻:言葉の響き。


韻を踏む:言葉の響きを合わせる。→音楽においてはリズム感を出す効果がある。


韻が硬い:韻を細かく踏むこと。


ライム/ライミング:意味が通るように韻を踏む。


宮城リョータ:マンガ“SLUM DUNK”の登場人物。湘北高等学バスケ部のポイントガード。

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