track #11 - Sex And The Chat
「あぁ?アイツ1回シバかなあかんなぁ」
朝帰ってきたジョージに1晩の出来事を話すとルミに対して彼は言った。
「その俳優とはどーでもええわ、好きにしたらええよ、でもオレの女をそんな目で見てたとはな」
ルミが淋しいからアタシを押し倒すと言った件についてだ。
アタシは笑ったが、ジョージは仲の良いルミに対してもその調子だから、俳優ショウに手を握られてたことなどは言えない。
<ショウとヤっちゃった!>
午後、ルミからのメッセージが届いてアタシは目が覚めた。
ハートのかわいい画像がキラキラしている。まだ寝ぼけているし、それに対してなんて答えるべきがわからずにアタシは返信しないでいると
<アイちん聞いてよー通話しよー>
と、またメッセージが来て強引に通話が来た。
「ちょっとぉアタシまだ寝てるんだけど」
アタシが通話に応じると
『既読ついたから起きてるのかと思ったぁ。』
ルミのテンションの高い声が帰ってきた。
「どうしたの、何を聞いて欲しいの?」
『
「無理だよ、隣にいるもん。この会話で起きちゃってるし」
横向きに寝ているアタシの胸元にジョージは顔をうずめながら眠そうな目で不思議そうな顔をして電話しているアタシを見ている。
まぁいいやと言ってルミはショウとのベットシーンを回想し始めた。アタシが呆れた顔して
「ルミ、結論だけ教えて。過程はもういいや」
と、めくるめくその話を遮ると
『うーん、悪くなかったよ。でもぉ、顔がイイからって感じ』
「そういう結論じゃなくてさぁ」
『やっぱ、あの顔は別格だよ?』
「もういいや、また寝る。またね」
アタシは電話を切った。
「アイツ、たくましいな……」
話をだいたい理解したジョージがつぶやいた。もう1度寝ようとしたが、やっぱりルミが気になって
<本当に楽しかった?>
と、メッセージを送ると
<アイちん、ありがとうね。本当にショウには恋愛感情とかないよ。ヤれただけでいいってかんじ。アイちんには軽蔑されるかもだけど。>
長文の返信が返ってきた。
<軽蔑なんてしないよ、ルミが楽しんだならアタシもうれしいよ>
そう返信すると『大好き』という画像が送られてきた。
女の子だって淋しい夜はあるし、したいときだってある。現に今だってママが休みで1階にいなければ、アタシはジョージを誘っている。相手とどういう関係性かももちろん大事だが、欲望に率直なルミがアタシも好きだった。
しかしもっとマシな男の子とすればいいのにとも思った。
ウチの2階には3部屋あって、1部屋はアタシとジョージの部屋でもう1部屋はママの寝室、残りのもう1部屋は音楽の部屋となっている。
レコードやCDが押し込まれているラックがあり、ターンテーブルとデスクトップPCの乗ったデスクに、ママが少女時代に買ってもらったピアノまで並んでいる。ヴォーカルまでは
アタシはそのモノで溢れて身動きをとるのもやっとな乱雑とした“おうちスタジオ”で作曲に
基本的には自分の為のトラックを作っている。どんなリリックを書きたいか、だいたいのテーマを考えるとリリックを仕上げる前にトラックを作る。出来上がったモノを聞くとさらにリリックが具体的に浮かび上がるからだ。
アタシは今日もこの部屋に
「ええやん。アイ、トラックメイカーとしても宣伝したら?オファーくると思うで」
褒めてくれたが、それは恐れ多い。
アタシが音楽を始めたのは、高校生の時。
祖母の介護のためにママと日本で暮らすようになり、通い始めた日本の高校でアタシは独りだったからだ。子供の頃から日本語学校に通っていたし、家ではパパとは英語、ママとは日本語で話すという環境だったので、言葉はそれなりにできた。しかしきっと外見が平均的な日本人とは違うから受け入れてもらえなかった。たった1年だったが友達ができずに独りで過ごした。
アメリカでは何の悩みもなく暮らしていたのかというとそういうわけではなく、あちらではアタシはアジア人として扱われて差別する人もいた。自分は結局日本人でもなければアメリカ人でもない、10代のアタシそう考えていた。
子供の頃から歌うのは好きだったし、ピアノもギターも習っていて弾けるので、自分で曲を作って、自分でリリックを書いて、自分で歌おうと目標を定め、なんとなく自分でできるようになって、それを仕事にしようと決意した。
人前で歌って歓声を浴びるのも好きだし、メッセージが伝わると嬉しい。だけどその反面、そもそも黙々と人知れず作業していたのがきっかけで音楽を始めたわけで、自分には裏方仕事も向いているような気がしていた。ジョージは褒めてくれるが才能があるかどうかは別として。
「アイはサンプリングもできるしさ、ゼロからも作るやん。ルミとの曲なんてめっちゃええし」
「うん……。だけど人に提供するのは緊張するっていうかさ、自信ない」
「ほな、オレに作って。おおまかなテーマ考えるから」
「ええよ、高いよ?」
「
アタシが顔をしかめるとジョージは声を上げて笑っていた。
もともと聞くのはラップが多かったので自分はそちらの方が作るのは得意のようで、ジョージはきっと硬派なリリックを書くので期待に応えられるかもしれない。
狭い雑然として部屋でアタシはPCの前に座って、その少し後ろの1人掛けのソファーに深々とジョージが座ってノートを片手に真面目な顔をして何かを考えている。考えてる時、眉間にしわを寄せて口をへの字にして真面目な表情のジョージの顔も好きだった。それに見とれるのをやめてアタシもまた作業に戻った。2人で黙々と音作りに集中した。
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