track #22 - Something In The Way
春になりCMが放送されて、起用された新曲はヒットした。
そもそもタイアップ曲は注目度が高いので想定内だった。
新曲を披露するために久々に生放送の音楽番組に出演するにあって午後からリハーサルをしにテレビ局に来ている。
忙しいミュージシャン達は身代わりになってくるれるスタッフや関係者がリハーサルをこなすが、忙しくなったとはいえそこまで多忙ではないアタシは私服姿のままリハーサルをする。
発声練習程度に歌って楽屋に引き上げる時、有名人気バンドでギター兼リーダーに話しかけられた。
「ウチの14歳の娘が、あなたのファンなんですよ、憧れの女性だって」
「えぇ! それは光栄です」
「パパ達ももっと意味のある音楽やれって、お叱り受けてますよ。アメリカンスクール通ってるからか、ビビットなんだよね」
と、笑っていた。
彼にそんな年齢の娘がいることにも驚いたが、そんなところにまでアタシの音楽が届いていることに嬉しく思った。
「僕は
と、彼が話したメジャーシーンでの葛藤は、納得できる。ヒップホップ業界もロック業界も同じなのだと。
そして彼が恒例にしているチャリティライブへ誘ってもらった。
震災が起こればそこに寄付したり、何もなかった年には恵まれない子供達のために寄付したり、拘束の強いメジャーシーンでの消化不良を解消するかのように毎年1度たくさんのゲストを呼んでチャリティライブをしている。
彼のバンドが活動休止中に彼1人でその活動を始めて、バンドが復活してからは規模が大きくなってドームを埋めるほどのライブだった。アタシはもちろん快諾した。
娘に自慢すると、一緒に写真を撮って別れた。
テレビ番組に出演するのは得意ではないけれど、こういう出会いが楽しい。
この日はサオリも一緒だった。
偶然廊下ですれ違った時に
「ラブちゃんすごいじゃん、最近」
と、初めて話した時のように明るいテンションで話しかけてきた。
「あ、ありがと。でもアルバム、サオリちゃんのが上だったけどね」
「まぁサオを超えるのはムズイよ~」
ジョークまで言っている。確か最後に会ったのはどこかのクラブで、サオリが今所属している事務所
初めて会った時、社長を紹介してくれと頼んだサオリは、結果的にその社長に見出されてデビューし成功した。同じような夢を追いかける同じ年の女の子として一瞬にして親近感を抱いたが、あっという間に遠い存在になってしまった。でもやっとサオリと話ができる位置まで来れた。
「サオリちゃん、夢叶えたね。いつか会えたら、おめでとう、すごいねって言おうと思ってたんだ」
と、言うと
「ラブちゃんもね、お互いがんばろうね」
そう言って楽屋へ戻っていった。
番組には、バンド・アイドル・シンガーと様々なミュージシャンが5組ほど出演する。順番に司会者の横に呼ばれ、少し会話をしてから曲を披露する。出番ではないミュージシャン達は後ろのひな壇に座って大人しく番組の進行を見守っている。
ボーイズグループが司会者との軽快なトークを繰り広げている時、スペシャルゲストが登場して、観覧に来ているお客がざわめいた。
俳優のショウだ。クラブ界隈では評判の悪い、あのショウだ。アタシVIPルームに呼びつけて手を握ったままいたあの男だ。
彼は俳優としての立ち居振る舞いでさわやかな笑顔で観客に手を振ったり、ミュージシャン達に会釈をしたりしている。足元にあるモニターにはとても好青年に映っている。ボーイズグループの1人と共演するドラマがこの春から始まるので、応援に駆け付けたと説明していた。
「ラブちゃん、アイツとヤった?」
その様子を後ろから見ていると、たまたま隣に座っていたサオリが耳打ちしてきた。
アタシは耳を疑ってサオリを見て「は?!」と、声を出さずに聞いた。
「アイツ、あの俳優、有名だったじゃん、クラブ界隈で」
確かに悪い評判で有名で、また声を出さずにウンウンとうなずくと
「騙されたんだよね、プロデューサー紹介してくれるって言ったのにさぁ、まじむかつく」
と、ハッキリと言わなかったが、突然過去を告白しだしたので
「やっぱサイテーだね、アタシはずっと手握られてたコトある」
と、アタシが小さい声で返答すると、サオリはさらに際どいコトを耳元で言った。
「たいしたことなかったよ、かっこつけてるわりに」
かわいい淡いピンクのふわふわしたドレスを着たお姫様のようなサオリが生放送中にそんなことを言ったので、アタシはあまりのギャップに笑ってしまった。
「今ね、絶対、ヒヤヒヤしてるよアイツ、アタシとラブちゃんいるから」
と、サオリも笑った。2人でヒソヒソと笑っていたら、スタッフから
<静かに!>
と、書かれた紙をコチラに向けてられた。
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