内戦の章

38話:れっつ開戦。

「都市ルースー、前方3000m、予定時刻に変更なし。」

「信号旗掲揚。『全船、全竜騎兵対象』『作戦フェーズ移行3-1』『降下開始』。」

「全飛翔石、出力を60%に低下。気嚢ガス調整!」

先住4部族の連合が独自のルートで入手した戦闘用飛行船。その司令室。

俺はそこで大隊の指揮を行っていた。


「目標、目視で確認。測距結果に異常無し。」

飛行船が降下し、雲を抜けると正面に一つの都市が見える。

あれが都市ルースー、今から俺が攻め滅ぼす都市だ。

俺は飛行船団と竜騎兵達を全身させつつ、同時にあらゆる村や陣地、障害を空から突破できる飛行船に感動していた。


「…このまま遙か上空から爆撃したほうが確実に奇襲できると思うが…事前に接近して拡声魔法による警告を行うということで本当に良いんだな?」

「あぁ、各領地の領主どもがそうしろとうるさいからな。それに私も虫ケラどもに対して少し話したいことがある。」

俺の問いに対して答えるのは鼓腹奴隷商会会長、ゲミニア・スリノナスという男だ。


飛行船はまだサントウルス王国の王都でも本格的に輸入を開始していない実質的な新兵器。相手の目の前に降下するという事はその優位を自ら捨てるという事…なんて理解していないのだろう。

彼は司令室に似合わない豪華な椅子にふんぞり返り、葉巻を咥える。

そもそも彼は軍人ですらなく、連合の領主達から何やら特命を受けて乗船しているらしい。

権限も俺より一つ上なのが気に障らないと言われたら嘘になるが、仕方の無い事だ。


俺の家系はルースーがでしゃばる前から先住4部族から選ばれし優秀な戦士達が代々紡いでおり、兵と政治を使い分けて勝利を掴んできた。

が、それは兄や領主達、そしてこの会長さんの仕事だ。俺の得意分野は別にある。

「上の考えは知らないが俺は勝利のために戦うのみだ。マイクならそこにあるから好きにするといい。」

そう言うと俺はゲミニア氏の演説など意識から捨て、演説終了後に一瞬で都市を攻略できる配置のシミュレーションに脳を集中させた。

…演説中は兵を動かすなとゲミニア氏に言われるまでは。





「竜騎兵に…アルアドの飛行船!?一体何処から持ってきたというんだ!?サントウルス王国に飛行船の製造技術は無いのに…まさかテニブルス帝国製!?」

エミリさんは監視塔から身を乗り出し、単眼鏡を覗き、驚きの声を上げる。

「え、あれってそんなにヤバいの…?いや明らかにヤバそうなオーラ放ってるけどさ。」

「あれはアルアドの…その戦力のほぼ全てだ!奴らリストサスの裂け目の上空を超えてきたんだ!」

ええまじで!?あの飛行船に…ああマジだでかいのが3隻もいる!!でかい飛竜に引っ張られてこっちに来てる!!


────────

【アドヌス級飛竜牽引式装甲型飛行船】

分類:航空機

兵士や物資の輸送に特化した飛行船。

装甲の重さを削って積載量を増やしており、一般的な装甲型より走行が薄い。

前後左右の大扉から、兵士を素早く展開できる。

────────

【飛行船】

分類:航空機

空気より軽い気体を気嚢に詰め、空中を飛行する航空機。

この世界での飛行手段は「飛行船」「飛行型魔物」「気球」のみ。

装甲型と高速型が存在し、それぞれ役割が異なる。

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【装甲型飛行船】

分類:航空機

気嚢の周りを一回り大きい装甲で覆い、装甲と気嚢の隙間にできたスペースを居住区画としたもの。

当然重量が大幅に上昇しているため、足りない揚力を補うために浮遊石と飛翔石をふんだんに使用している。

大型なものが多い。

────────

【高速型飛行船】

分類:航空機

気嚢の下に浮遊石などで極限まで軽量化した籠をぶら下げたもの。

重量を切り詰めることで余裕の出た飛翔石のパワーを推力に当てることができ、スピードが速くて小回りがきく。

────────

【浮遊石】

分類:鉱石

この世界の地下に埋没する重さの値が僅かにマイナスの石材。

重石を何もつけないと、ふわふわと一定高度まで浮遊していく。

古代の空中都市の残骸という説もある。

────────


飛行船…テニブルス帝国ってのが作ってるみたい。なんでも最近発明されたんだとか。

場所は地球でいうヨーロッパ?イギリス?よくもまーそんな遠くからこんなん輸入できたねアルアドも…っとか言ってる場合じゃない!!


「都市全域に避難命令!対航空・地上警戒配置!シールド緊急展開を伝達!」

エミリさんは近くにいた兵士に命令すると、監視塔に備え付けられた赤い紐を引き抜く。

途端に耳をつんざくような音でサイレンが鳴り出し、サイレンは隣の、その隣の監視塔へと連鎖して都市全体に鳴り響く。


青色の透き通った膜が都市全体を覆うように展開され、都市と飛行船団とを隔てる。

シールドだ。見るのは二度目だけどやっぱりでかい。

飛行船団はチカチカと明かりを点滅させ、都市のすぐ目の前で停止する。

飛竜の羽の音だけが聞こえる、一瞬の静寂が訪れ、そして…。


キィィィィィィン!!!

「拡声魔法!?」

うわうるさっ!マイクのハウリングのような音が鳴り響く。


「あー、あー。ルースーの虫ケラ諸君、ごきげんよう。私はゲミニア・スリノナス。鼓腹奴隷商会の会長で、そして外交官もやっている。アルアドのな。」

聞こえてきたのは…あーもうデブの声かよ。こんなん聞きたくねえようるせえよ。

「ルースーの領主よ。最後の言葉か泣き言でもあれば言え。聞いてやるぞ?」

あと会長が外交官兼任って普通に癒着だろ良い加減にしろ!


と、ルースー側からも軽いハウリング音がし、大きな声が流れ出す。

「言うじゃねえか。おいデブ野郎!俺はルースー家の長男にして第一第一隊長、ミナス・ルースーだ。お前みたいなの、親父が出てやる道理もねぇってよ。」

この声は…ミナスさんか。確かルイサが中央の塔にスピーカーを設置してた気がする。

確か無線機の概念がないから、遠くの人とは大声で会話するんだっけ?声には"威圧"の魔法も乗っている。


「おぉそうか。じゃあお父様にちゃんと伝えるんだな。外交官を攻撃し、そのまま追い出した領地があるってなぁ?こんな行為、常識的にも、過去に締結した条例にも違反しているなぁ?その名も…名も…」

台本かなんかあるのだろうか、紙を捲るような音が響く。

ってかこれまだ聞かされなきゃいけないの?


「サリア!準備できたから早く来い!お前も乗るだろう?」

と、ぼおっとデブとミナスさんの会話を聞いていた私の腕がエミリさんに掴まれる。

「準備って、何がです!?」

「お前の自慢の装甲車だ!私の軍と戦車隊はハイニ村で私の指揮を待っている。行くぞ!」

「え…ちょっとまって城壁から出るの…?ってか私も行くの!?」

怖いよー嫌だよー自慢なんかするんじゃなかったよー!

「当然だ。馬より早くて強いんだろう?見せてもらおうじゃないか。」


私はエミリさんにに半ば引きずられるように西門に到着する。

"ホワイトキャット"は兵士たちの手によって西門前まで移動させられており、弟くんが最後の調整を行っている。

「アレル!本当に私達も…ってかそもそもアレルも行くの!?怖いとか、そゆのないの?!」

「このまま何もしなければ殺されるのは僕達だよ。怖いからこそ相手を倒すし、生き残るために戦うんだよ。」

…だとしても人殺しって躊躇うもんじゃないの!?


この世界の倫理観が終わってる…んじゃなくて、地球生まれ日本生まれの私が平和ボケすぎるってやつ…いや違う。

日本にも裏町とかいう争いと死が蔓延ってる場所があるって思い出したし私もそこにいた。その上で平和ボケならそれはもう私の性格、特性、信念だ。


…じゃあ弟くんを放って信念に従う…ってこともできないのも私の面倒臭い点。

なんだろ姉の意地ってやつ?魂的に姉じゃ無いんだけどさ。

「わ、わかった。とことん付き合うよ!」

殺しを"私が"するのを認めたわけじゃないよ!?つまり他人がする分には気にしないのは私の冷徹で自己嫌悪しちゃう所。

「そうそうその意気だ。…ここから乗るのか?」

「これ本来3人乗りですから…。」

椅子には既にルイサが乗り込み、座ったまま寝ている。

それをエミリさんは押しのけて乗り込む。長い付き合いがなせる技ー。


「準備できたな。これより第二大隊直属第二特別小隊は装甲車にて敵軍を突破、本隊との合流を目指す…ああ、車両を動かす号令をかけるのは車長さんの仕事だったな。よろしく頼む。」

「え!?あ、えっとエンジン始動!アクセル全開…!?」

なんて言えばいいんだよそんな唐突に!!

私の言葉と同時にエンジンから8度の炸裂音が響く。

同時にホワイトキャットが急加速し、戦場のど真ん中へと躍り出た。見せ場の到来である。

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