39話:何度目かの逃亡劇

お久しぶりです。

待っていた人がいたか…は別として。

もしまだこれを読んでくれている人がいらっしゃるなら、前の前の「ここ読めばわかる!!」から読み直すのをお勧めします。


ーーーーーーーー


「おいおいどうした!?まさか条例の名前を忘れたのか?お飾りの外交官なんて本当にいるんだなあ?」

私たちを乗せたホワイトキャットが門を通過する中、デブとミナスさんの壮大なレスバというか時間稼ぎが繰り広げられる。

デブはぐぬぬとうなり…って、本当に言う人いるんだ。

「あぁもう面倒臭い!臆病な領主どもの言う通り、わざわざ大義名分を作って正当化するのに何の意味がある!…お前らの敵は四つの領土、四倍の戦力。どうせこの領地もお前らも滅びるんだ!」


あーあ、やぶれかぶれなんかになっちゃって。そのくせこっちにまで敵意を…って!

「ってヤバい!あのデブ短気すぎてもう攻撃してくる!!ねえアレルこれもっと早く何ないの!?」

「これで最速だよ!」

「ん…多分昨日雨…道ちょぐちょ…ぅむ。」

あ、ルイサ起きたんだ。いやこれ実質寝てるようなもんだけどさ…じゃなくて!!


「おいカイア!攻撃だ!魔弾でも兵士でもなんでもぶち込め!動く物は全て殺せ!」

「「「「突撃ー!!!」」」」

あーもう突っ込んでくる!!

「なんでこっちにまで来るんだよ!!あっち狙え!あっち!」

都市シールドの分厚いとことかさ!そしたら反撃して撃墜してあげるから!!

と、ルイサが毛布から手だけ出して弟くんをつつく。

「んぁアレルぅ…速度ー落として。」

「え何で!?」

「いい…から…!」


静かな所が取り柄のはずだった魔力エンジンから出る、悲鳴のような駆動音が弱まる。

同時にルイサが操作すると車体の装甲の表面を半透明の輝く膜が覆う。

魔力発生装置から魔力エンジンに流れる魔力エネルギーを一部こっちに回した…とかそんな所だろーね。

竜騎兵から放たれた魔弾が装甲表面を滑るように逸れていく。

「シールド最高!」

「ま…屋根のとこ…うん。なんもなぁいけど…」


じゃあダメじゃん!!

ほら来た!ほら来たよ竜騎兵!速いよどうするんだよ!

すぐそこまで竜騎兵の槍が、杖が迫る。

私が反射的に目を閉じたその瞬間…ダンと激しい音がした。


目を開くと敵竜騎兵が鎧ごと貫通され、崩れ落ちるのが見えた。

「ほう…クルメの銃とは随分違うのだな。だが威力も性能も十分。流石はルイサだ。」

横を見ればエミリさんが機関砲を射撃していた。

こいつは装甲車の言わば主砲。回転砲塔みたいになってるし、上が空いてるから真上に向けて撃つこともできる。口径は20ミリ。

って言うだけじゃピンとこないけど竜騎兵なんかにはオーバーキルだろーね。恐ろしや。

おまけに薬莢という新技術を用いた結果一々火薬を詰める必要も無くなった。つまりこれをヒントも先人の知恵も無しに完成させたルイサはすげーやべーやつって事。


…あ、すげーやべーやつならエミリさんもだ。

試作品で発射速度がクソ遅いとはいえ、エミリさんは連射式の銃弾を複数の敵に一発ずつ命中させていく。

「エミリさん…銃も上手かったんですね…。」

「ああ。もともとクルメに銃を教えたのも私でな、まあ直ぐに実力は抜かれ…」

と、その時ルースーの壁上からこちらへ真っ直ぐと光線が走る。

一発の魔弾は3頭の竜を貫き、残る追手は全て同時に落下する。


単眼鏡を覗いて壁の方を見れば、クルメさんが満面の笑みで手を振っているのが見える。

(凄い性能じゃんっ!この銃で何もかも仕留めてやるから、私に任せてねっ!)

(あ、そうだこの子に名前をつけないとっ!じゃあ"8mm魔弾銃・サリア"…どうかなっ!)

なんかそんな声が聞こえてきたような気がする。以心伝心…?

聞けばサントウルス王国の銃は貴重品で、職人が作ったものは一丁一丁に名前がついてるんだとか。

だからと言ってその名前は…ええ?

(改造してくれたお礼だよっ!)

こっちの感情が届いた!?元の"アレーロイ"でいいじゃん…かっこいいし…。

まあいいけどさ。


「噂をすれば…見送りといったところか。彼女が自由に動ける状態になっている限り、たとえ兄上が突破されてもしばらくは安泰だ。」

そんなに!?クルメさんってそんな強いの!?

「特別とは聞いてたけど…そこまでなんです!?」

「ん…うん。そーだよ。」

「ああ。お前達が彼女の武器を強化してくれもしたからな。感謝している。」


"長い付き合い"の二人が声を合わせるように言う…すっごお。

「それよりお姉ちゃん、こっからどっちに行けばいいの?」

え、何で私に聞くの…あ、車長だからか。

「えーっと…確かドニって村…だっけ?」

エミリさんに視線を送る…反応的に合ってるっぽいね。

「主力と言ってもいい戦車のみなさんはあえてそこに集められてるんだってさ。エミリさんが合流すればそりゃもう無敵でしょ。」

ルースー領は決して広くはない。だから速さが勝利へのカギになる。

ホワイトキャット…作ってよかった!





同刻

視点:カイア・アリナス


「敵魔弾攻撃B7装甲に集中!まもなく限界!」

「牽引飛竜HP低下!残り87!」

「敵砲弾B7装甲に命中!火災発生!」

「なんであの砲で当ててくるんだよ!」

司令室全体に飛び交う声、声、声。

事態は刻一刻と悪化していく。


限界だ。俺は無駄に特等席でふんぞり返っている会長に詰め寄る。

「おい!どうして演説中に飛行船を着陸させ、兵士を展開させることを否定した!?」

「い、いや違う!それは許可できなかった!高い所から見下みくだして…じゃなかった見下みおろすことで戦況を把握しようという気はないのか!」

…己が無知なのを大人しく認めて任せればいいものを。俺は自分の行動が無意味だと悟り胸ぐらから手を離す。


「…仕方ない、意見具申だ。愚者への易しい説明だ。戦いの要は歩兵、その歩兵の三分の一はこの飛行船に乗っていて全く戦闘に参加できていない。コイラ領軍との合流が遅れている今、このままで…」

その時だった。

司令室正面に設けられた覗き窓がピンポイントで突き破られる。


「な、何だ!?今何が起きた!!」

「て、敵の攻撃です!!地上からの狙撃を受けています!!」

愚者が喚き散らかし、司令室全体は騒然となる。


「ほら、いよいよ凄腕スナイパーまで現れた。全権を持つ会長さんよ、どう対処するか教えてもらおうじゃないか。」

「知るか!それを考えるのがお前の仕事だろう!全権やるから・・・・・・今すぐ俺を…」

その言葉を待ってたよ。

まぁ今更指揮権を取り戻したとしても降下して兵士を展開する余裕はない。なら。

俺は手を叩き、司令室全体の注意を惹きつける。


「これより本船は彼が生み出した状況を打破し、忌々しい壁をも打ち破る。」

伝声管に口を近づけ、飛行船全体に声を飛ばす。

「牽引ロープ切断。飛翔石船首および中央停止、船尾出力10%。気嚢ガス緊急放出弁解放!」


「おいカイア…貴様それは…!!」

「お前でも気付けたか。お前のせいでもはや安全な降下は不可能。ならばいっそこいつを落とす!忌々しいシールド目掛けてな!」

飛行船がぐらりと傾き、船首から落下を開始する。


「全員個人シールド最大展開!衝撃に備えよ!」

誰かの声と同時に各々の周りを輝く球体が覆う。

おっと、1人展開できてないではないか。俺のに入れてあげよう。

「貴様…覚えておけよ!アルアドに戻ったら貴様を…」

「まあまあ、それより見ろ、なかなかに壮観だ。」


皆が船尾方面へ逃れようとする中、俺は愚者の首を掴み、窓へと顔を近づける。

「ひっ…!」

まったく、こんな光景一生に一度見れるかもわからんというのに。

本当に、つまらんやつだ。


直後、船首から落下した飛行線は都市防衛シールドに接触する。

装甲型飛行船は言わば無理やり浮かべた鋼鉄の塊。

その質量はいくら大型シールドといえど耐え切れるものではない。シールドは破壊され、飛行船は都市内のおそらく住宅街に墜落した。

「侵入成功、軽傷が20人、残りは無事。それと兵器は全てお釈迦…さて、果たして元は取れるかな?」

おっと、愚者さんは気絶してしまったようだ。気絶者1人…と。

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