4話:お金で万物は解決する

今私は鳥籠の中で息を潜め、中央をこっそちと伺っている。

別に息を潜める必要は無いんだけど、気持ちの問題だね。

弟くんは籠の中央でのんびりと座っている。が、だいぶ緊張しているんじゃない?


「姉の勘」的な?「中の人」は完全に別人の私だけど。

…来た。部屋の中央にゆっくりと魔法陣が現れる。


私は1度深呼吸する。

魔法陣の中央に厳ついおじさんが1人現れる。

うん。あいつなら何とかなるかな?ちょっと怖いけど。

すぅぅ…はぁぁ…。よし。

私はゆっくりと話しかける。


「ねえそこの…おじさんでいいの?」

「あぁ?なんだ?」

怖!声怖!そして低い!

でも返事をしてくれてよかった。

"会話"してくれてありがとう。だって…


「『【何か買って行くかい?】』」

「『価値を分け、束ねよ。【両替え】』」


弟くんと私が同時に呪文…?を唱える。

おじさんの動きが止まる。…よし今だ!

そして、私たちの頭上と足元から何かが吹き出す。

ふう。脱出成功かな?





〜数時間前〜


「弟よ、私閃いてしまったかもしれない。」

私は多分ドヤ顔で弟に語りかける。

「え?ここから出れるの?道具とか何も無いのに?」

弟くんはまだ怪訝な顔をしている。

「道具はあるぞ。これさ。」


貯金を発動して、お金を抜き取るように脳内でイメージする。

私の手のひらに金貨が2枚と銀貨が1枚現れる。

私の所持金のほとんど、2500Gだ。


「え?買収?流石にこの額じゃ…」

弟くんに不安そうな表情が浮かぶ。まあまあ。

「違う。とにかくお前の1500Gも出して。」

「まあ出すけどさ…何すんの?」

不安そう通り越して呆れた表情してるぞおい…。

弟くんから金貨と銀貨を1枚ずつ受け取る。


弟くんの銀貨と私の銀貨を私からちょっと離した所に並べる。

銀貨と金貨には、本当に小さいが装飾のように魔石がついている。

こんな小さな魔石じゃ普通の魔法は出せないが、消費MPが1の【両替え】なら…。

「『価値を分け、束ねよ。【両替え】』」

掌の上に小さな魔法陣が現れ、2枚の銀貨が1枚の金貨に置き換わる。そして…

「『価値を分け、束ねよ。【両替え】』」

今度は金貨が消え、パンという音とともに10枚の銅貨が飛び散る。…いい感じ!


「いや本当…お姉ちゃん何してんの?」

「両替えを使ってみてる。」

そう。私がさっきから呟いている、この訳のわからないフレーズも、両替えを発動するための呪文のようなものだ。絶対言わなきゃダメなんだって。


「そういうの聞いてるんじゃなくて…。」

私の思考をひき戻すように、弟くんがつっこんでくる。

が、それを無視して私は話し出す。

「…まず金貨クラスが500円玉サイズで、大金貨は多分もう1回り大きい。

それ未満は全部100円玉サイズ。OK?」


「ゴヒャクエンダマ?何それ。」

あ、そっか知らんか。ま、そのまま続けるけど。

「とにかくね、金貨の大きさと石貨とかの大きさってそんな違いないじゃん?でも価値は全然違う。」

「…それがどうしたの?」

まだわからないか。じゃあ教えてやろう。


「つまり両替えを使えば、硬貨の総質量を何倍にも増やせるって事。…昔の人はピラミッド用の石を切り出す際、石を割りたい所に木を打ち込んで、そこに水をかけて質量を増やし、石を割ったんだってさ。増えたお金は多いと飛び散るって特性もこのスキルにはあるし、それを狭い所でやれば…」


「…あ!」

「狭い所。それは即ち私たちの鳥籠を釣る鎖の隙間。そしてこの足輪と足の間の隙間。

あらかじめ鎖に1枚ずつ、足輪に1枚ずつの計4枚金貨を挟んでおくんだよ。両替えなら4000枚の石貨の力でそれらを破壊できる!」

多分鎖が砕ければ、鳥籠落下の衝撃で格子がひしゃげると思う。

そっから出るって算段さ!

「凄い!これなら僕たち自由になれるじゃん!今すぐやろうよ!」

「あ、今は無理。」

「えっ。」

「今のでMP切れた…。」





〜そして現在〜


来た!来た来た来た!

左足首にかなりの衝撃。上から「バキッ」と砕ける音。

直後、鳥籠が地面に落ちて鉄格子がひしゃげる。

外への隙間が生まれた…のはいいのだけど。


「痛い!すごい痛い!本当痛い!多分足折れた!」

まあこうなるだろうとは思ったよ!

だけど私は行くんだよ!外へ!こんな序盤で終わってたまるか!

何とか痛みを堪えて隙間から出て、部屋中央の転移陣まで移動する。


厳ついおじさんは私たちが逃げ出したことに気づき、捕まえようとしてきたが、その手は見事に空ぶっている。

対策済みなんだよ残念だったな!


ここで何か買っていくかい?が効くわけだ!

こいつの効果に「相手の目の前に商品の書かれたウインドウを出す」ってのがある!

つまりウインドウの分だけ前が見えなくなるのだ!

そしてウインドウは最大サイズにしてある!閉じるボタンは広告の×ボタンくらい小さい!

こんな訳のわからない戦法だが、勝てるなら結構!

私の生への、自由への執着を舐めんじゃねえ!!


脱!出!


私達が魔法陣に入ると、すぐにすぐに景色が切り変わる。

なんか店の奥みたいなところだ。

薄暗く、かつ誰もいないから、今は夜なんだろうなー。


で、店内には誰もいない…いや、一人いるな。少年が魔法陣のある柱に縛りつけられている。

「この人は?」

「魔法陣は維持のために常に魔力を必要とするんだ。酷いことするなあ、彼は死ぬまで魔力をここに流し続けるよう命令された奴隷だよ。」

私は少年の縄を解いて解放する。

「さ、君はもう行って。私たちはまだ探さなきゃいけないものがある。」

「あ、ありがとうございます!」

魔力を失った魔法陣が動きを止める、これでしばらく時間が稼げる。

それにもしバレてもあっちを追いかけてる間に時間が稼げる…なんて考えが一瞬頭を通過する。いやいや。

いいか。私は良い事をしたんだ。何か問題があるか?


「これで…あのおっちゃん転移してこないよね?」

「この魔法陣は外側からしか起動できないもん…。」

なるほど、じゃあしばらく誰もこないか。

「じゃあとっとと見つけちゃおう。そっちの端の箱から一個ずつ見てって。私はこの棚を探すから。」

手分けして捜索を開始する。目的は魔導袋だ。

魔導袋の中には、サリアさんが売っていたアイテムや武器たちが入っているはずだ。

で、それが無いととてもじゃ無いけど街とかの警備を突破できそうに無いのよー。

と言うことで探している。え?見つかんなかったら?知らんな!


「そういやさ、街を出る方法までは考えたけど、そっから」

えーっと…ね。

「え!?お姉ちゃん考えてないの!?」

弟くんが驚いた声をあげる。どこか呆れというか、やっぱりかという感情も含まれてる気もする。


「じゃあ…門を出たら、街道を北に行こう。そこにルースーって都市があるんだ。」

「そこなら安全なの?」

「多分。結構遠いし、途中に川と谷を渡らなきゃいけないけど。」

「谷?」

「そう。"リストサスの裂け目"だっけ?歴史書かなんかに書いてあった。」


何じゃそりゃ。

と、思った瞬間【鑑定】が発動した。


────────

【リストサスの裂け目】

分類:地名

全長5キロにおよぶ巨大な谷。

約千年前、当時勇者がここで"聖剣・リストサス"を振るったとされる。その攻撃跡だとする説が有力。

現在は街道を隔てる谷であり、1箇所のみブリッジポテト橋がかかっている。

近年"聖剣・リストサス"が谷底から発見された。

────────


ほー。勇者ねえ。

ま、私の目的は魔王討伐じゃないし、どーでも良いかな。

むしろ【ブリッジポテト】とか言うのの方が気になる。


────────

【ブリッジポテト】

分類:植物

つると芋で構成される植物。

近くの他のブリッジポテトと共鳴して、それに向かってつるを伸ばす。

やがて、つる同士は融合し、簡単には離れなくなる。

人々はこれにを川岸などに2つずつ植え、木の板などをつけて吊り橋にした。

この吊り橋はとても頑丈で、1台ずつなら馬車でも渡れる。

────────


うーん…謎技術!マジで!

でもこういうのが一番好きだ。説明読んでるだけでなんか面白そうじゃん。

「にしても…全然見つからないもんだね…。」

「うん…っとあ!あ。あったよ!」

私が話しかけたタイミングで、弟くんが見つけたようだ。

「よし!じゃあとっとと行こう!」

とにかくこんなとこは、とっとと出ちまおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る