8話:猪3分クッキング♪
『おー、良い香り!』
弟くんのウキウキした思考が流れてくる。
うん、焼く前から相当いい香りだねー。
『早く!早く!早く!早く!早く!』
すっごい思念…なんか鳴り響いちゃってるよ…。
『え!?あ!そっか!全部お姉ちゃんに思考流れてるんだ!』
そうだよ…ま、今から焼き始めるよー。
ここはあの谷からだいぶ進んだ所。
そこにある大きな川の中洲である。
何故こんなとこにいるかと言うと寝床のためだ。
この世界って夜は魔物が活性化するし、昼間も都市の外は相当危険らしい。
夜に都市の外にいると、ほぼ間違いなく命は無いんだとさ。
ということで地図を使って何とかなりそうな場所を探した。
それで見つかったのがこの中洲だ。
実際に行ってみるとそこで街道が途切れ、渡し船らしきものが配置されていた。
だからそれで川の対岸ではなく、中洲へと渡ったのであった。
丁度その辺でポーションの加速効果が切れたので、丁度良かったのかもしれない。
あ、ちなみに川が増水したら間違いなく水没だよ。こんなん。
ここは雨降ってないけど上流まではわからんし、みんなは真似しないでねー!
で、今はそこで夕食として、お肉を焼いているのですねー。
焼き石を焚き火から取り出し、上に肉を乗せる。
え?この肉は何かって?そりゃあ…
みんな大好き猪さんのお肉ですよ!
谷でガラスの破片で切り分けたのを、どの部位が何の役に立つか分からないから全部魔導袋に入れてきたのだ。
お肉の他には猪の皮、骨、角、後お腹の中にあった魔石が入れられている。
で、お肉を夕食にしようと言うわけだ。
調味料もちゃんとあるよ?ほらこれ。
────────
【プチローポーション】
分類:魔法薬
HPを5回復。
擦り傷、切り傷を全て治す。
ただ、それだけの効果。
最悪塗っても効果あり。
────────
これをさっきの戦闘中に1瓶飲んだのだ。
確かにHP回復効果は全然なかったが、手足の切り傷が全部無くなったし、最大HPがかなり低かったので全回復していた。
でですね、そのプチローポーションってのが相当しょっぱかったんですよ。
もうなんか塩水そのものって感じで。
ってことで肉にポーションをちょっとかけて、焼いているのだ。
え?ポーションの使い方違うって?
そんなことはない。ないったらない。
で、焼け石を触らないようにしながら焚き火の近くに近ずけ、表も炙る。
あー、そもそもどうやって火をつけたんだって?そんなの決まっているだろう?
河原の砂利を壊したら、10%の確率で出てきたんだよ!
あ、いや、ふざけてるんじゃなくてだね?
本当にこれで火打ち石が手に入ったのだよ。10%かは知らんけど、砂利に混ざって落ちていた。
うちがねなんてなかったから、まだポーションの効果が切れずに加速していた弟に、河原の石に高速で打ち付けてもらって火花を出してもらってー、薪は中州にいくつかあった枯れ木を使ったんだ。
にしてもこのお肉、本当に美味しそうなのよね。
『焼ける良い音!いい香り!』
なんて思考が流れてくる。
いつの間にか脳内のイメージは肉の画像で埋め尽くされている。
どっちの脳内イメージが反映されたのかはわからないけど、多分両方だと思う。
『あ〜、ちゃんと美味しそうだぁ…。』
私は肉を裏返し、焼けるのを待つ。
待っている間に私はテントを張ることにした。
魔導袋から支柱と布を取り出し、紐を使って固定していく。
かなり大きいテントっぽいし、そもそも普通のテントだけだって立てたことないから苦戦する。
何とかテントが建てられたところで、『焼けたんじゃないかな』って言う弟くんの思考が流れてきた。
途中で弟くんもテントを手伝ってくれたが、それでも弟くんはテントを手伝いながら肉を見張ってくれていた。かなり器用だ。
あと気づいたらテントもほぼ弟くんが建ててた。
何か姉の威厳なんてないような気がする。元々姉じゃないけど。
私は焼き石のある所まで戻って、予め川の水で洗っておいた平たい石の上に肉を移す。
おー、本当にいい香りだ。
『すっごい美味しそ!』
で、付け合わせのお芋を平たい石に盛る。
この芋はさっきの谷で、吊り橋を構成していたつるの根の部分…【ブリッジポテト】だ。
除草剤をかけて無い方の2本が、なんか食べられそうだったのだよ。
だからつるを登って谷から出た後に芋を抜こうとしたわけだが、流石に馬車でも渡れる橋を支えていただけはある。
ぜんっぜん抜けないんですねー!
しょうがないからなんかに使えそうなつるだけでも持ってこうと、端から魔導袋に入れてったわけだ。
そしたらね、3分の2くらいまでつるを入れたところで、残りのつるが芋ごと一気に魔導袋に吸い込まれていくんですよー。驚きましたね。はい。
魔導袋の判定と仕様が判明した瞬間ですよこれは。
ワンチャンどうにか悪用をかませるかも…いやまあまだ思いつかんけど。
そんなかんじで手に入ったのが、この芋なんですねー。
ちなみに、ここで私たち、完全に芋とつるを持ってっちゃったんだよね。
だから橋の復旧に時間がかかり、それが後々重要な役割を果たすんだけど…まあそれはまた別の話。
で、とにかくそうして持ってきたこの芋、橋を支えていて相当硬かったくせに、ポーションの空き瓶とか川の水とか使って、ちょっと煮てみたらそうとう柔らかくなったわけだ。
で、まあ香りから美味しそうには感じるんだけどね。
そんなことを考えながら、肉が冷めるのを待つ。
弟くんは耐えきれず、食べ出そうとしている。…熱いと思うよ。
『熱!火傷したっ!』
ほら。焦げては無いけどちょっと焼きすぎちゃったんだよ。
と、突然弟くんがこんなことを言い出した。
「…あ、そういえばしばらく思考共有切ってくれない?お姉ちゃんの思考、ずーっと流れてくるんだよ。」
何ですと!?
えーっと…どれだ!?オフにする方法!
「それで弟くん弟くんって…。」
あ!これだ!オプションってやつだ!
ここをいじって…ってかあれ?弟くん今なんか言ってた?
「すまんな弟。今オフにした。…今なんか言ってた?」
私の問いかけに対して、弟くんは一瞬考えるような表情をすると。
「…。いや、いいや。ありがと。これで意図的に思考を送る時以外は思考が流れないようになったかな。」
「OK。じゃ、とりあえずテントの中入ろっか。燃え移っちゃいそうだし、焚き火は消して。」
そう言って焚き火を消した後、テントに入る。
「うわすっごー。明るい!」
思わず驚きの声が漏れる。
「え?テントの屋根の裏側にヒカリゴケ貼ってるからじゃん。割と常識なのに…忘れちゃった?」
「あ、いや…。」
うーむ。何かきっかけがないとサリアさんの記憶が出てこないってのは結構不便だな…。
こっそりとヒカリゴケを【鑑定】する。
────────
【ヒカリゴケ】
分類:植物(小)
ヒカリダケの光に反応して強い光を発する苔。
発する光は黄緑色。
ヒカリダケの光が無くなると、即座に光るのをやめる。
高い生命力を持ち、簡単には枯れない。
その特性から、庶民や冒険者の安価な光源となる。
尚、地球のヒカリダケとは全くの別物である。
────────
【ヒカリダケ】
分類:キノコ
湿った暗い場所にはえるキノコ。
群生せず、一本が単体で発見される。
魔力を流すと少しだけ黄色に光り、もう1度流すと光るのを止める。
干からびてしまわない限りこの効果は残る。
────────
あーね。確かに光源だ。
苔って何かふかふかしてて気持ち良いね。
「じゃあそろそろ熱くないだろうし、肉食べちゃうか。」
ガラスナイフで肉を切り、洗った枝で刺して食べる。
フォークなんてものはない。手掴みじゃないだけいいよな。
「お、おおー!」
適度な塩味が効いている上に、芋がほんのり甘く混ざっていて、とても美味しい。
多分だけど、素材そのものが良いんだろうね、テイムされた魔物のだけど。
隣を見ると弟くんが爆速で肉を食べている。
もう後数口くらいになってる。結構大きいのあげたはずなのに。
で、それを見ていると食欲が湧いてきて、私は2口目を口に運んだ。
…と、気づいたら私は肉を食べきっていた。
何か肉が一瞬で消えた気がするんですけど?
でも私が食べたことは確かだ。お腹いっぱいだ。
「ん?お姉ちゃんまたどうしたの?そろそろ灯り消していいよね?」
つまり楽しい時間と楽しくない時間の時間の感じ方の変化が、極端に出ているわけでこれは…ん、なんか言った?
「…あー、いいよー。」
何か心ここに在らずって感じの返事になっちゃったな。
まあ本当に考え事してるんだけど。
まあ、今日は寝るかってことで弟の方を見る。
弟くんはテントの入り口の端のとこにぶら下げてあったヒカリダケに触れる。
…と、その途端屋根全体に生えていたヒカリゴケの光が1瞬で無くなった。
「うん、寝よ。」
気配で弟くんがテントに寝転がるのがわかる。
途端に思考共有に『ZZZ…』の文字が浮かび上がっていく。
別にわざわざ書かなくていいんだが…。
で、もう灯り消しちゃったしってことで寝ることにする。
暗闇の中でスマホをいじる?そんな生活もうやめだ!折角異世界にまで来たんだもの!健康重視!
というわけで私も寝転んで…寒!
冷気が凄い…。
布団くれー、こたつくれ暖房くれー!あ、この世界だったら【暖房石】とかか?
まあ、そんなこと言っても出るわけないよねー。
はあ…。
ちなみにサリアさんの記憶によると、あらかじめ何枚か上着を持っていて、それを敷いたりかけたりして寒さを凌ぐそうです。
今の私の服はペラッペラの奴隷の服だからねー。暖かい方がおかしいかー。
無理かー。諦めよ。
ちゃんと寝れるか心配になりながら寝転がる。
と思ったら杞憂だったっぽい。
…途端にものすごく睡魔が襲ってきました…あ、これだめだ!この睡魔強い!
というわけではい、おやすみなさーい。
…え?野営?見張り…そんなの知らん…じゃ…おや…す……み。
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