9話:都市に行く前の下準備ってやつ

「おはよー!朝だよー!僕が作った即席日時計によると、今は8時だよ!」

弟くんの大声で私は目を覚ます。

「8時?え!何それ!おかしいでしょ!アラーム1分おきにつけて…おい…た、のに…あれ。」

慌てて飛び起きてしまう…あ、ここ異世界や。日本やない。


「どうした?大丈夫?…アラームって何?」

「あー、何でもないよ。ってか日時計なんてどうやって作ったん?」

心配そうに見てくる弟くんを落ち着かせつつ、話題を逸らす。

「この地図使ったんだね。必ず上が北になるからさ。方位が分かれば後は簡単。作り方は…」

…弟くんが説明してくれるんだが、全くわからねえ…。

「あ。うん。」

簡単とは…何だ?


「それよりさ、折角だしお姉ちゃんも地図みてよ。」

「え?どれどれ?」

見せてもらったのは古そうな紙に色鉛筆みたいなので書きこまれている地図。

この地図、厳密にいうと魔道具で、必ず今いる場所が中心になるように表示されるっぽいね。


まあ縮尺も、表示している場所も(移動しないと)変えられないけれど、それはまあスマホの地図に慣れてるからだろーな。十分すぎるくらい便利だ。

「えーっと、中心が現在地で…」

「あ、赤い点が街とか村、緑の線が街道、青の線が川。領地の境目とかその他は黒で描かれてる。」

結構詳しい情報が書いてあるのね。

「なるほどねー。」


…にしてもさ、この地形どーみても日本のだねえ。

例えば私たちがさっきまでいた港町は、うろ覚えだけど鎌倉の辺りだと思う。

海岸線の形が完全にそれだしー?


「見方分かった?でね、ココが【ルースー】っていう都市。もうすぐにつきそうでしょ?」

地図の中央より北東にある赤い点を、弟くんが指差す。

えっとここが日本だとすると…?

渋谷だねー。場所が。完全に。


てか此処って位置的に多摩川だよね…それもちょっと上流だし…だとすると…。

えーっと…徒歩2時間…半とかかな?

弟くんのもうすぐって2時間なのか…うわー。


ん?多摩川知らない?東京と神奈川の境にある川だよ。知りたきゃ地図みてね。

まあ何にせよ向かうかー。しゅっぱーつ。





「…ふう、着いたかな?ほぼ荷物無しとはいえ、結構大変だね。」

私達は都市ルースーのすぐそばの、丘みたいな何かに立っている。

ここからだとルースーがよく見えるからね。

「どっかで読んだんだけど、城郭都市であるルースーの特徴は、中央の塔と都市を囲う壁って感じだね。壁は他の都市の3倍くらいの高さと頑丈さを誇るとか。」

…確かにそんな風に見えるな。

別に巨人が来るわけでもないだろうから高さは普通の城壁レベル。しかしかなり分厚い。多分壁の中に部屋とかある。


「ってか弟よ、『どっかで読んだ』でどんだけの知識を持ってるんだよ。」

サリアさんの記憶にも無いのがちょくちょく混じってるぞ。

「いや、単純にお店の商品の本を読んでるだけだけど?」

「にしてもだよ。どーやって知りたい情報ちゃんと覚えてるのよ…。」


【ルースー】っていう都市の存在すら、サリアさんの記憶に一切無いぞ?

私が思い出せてないだけって可能性もあるけど。

「まあ知識は多ければ多いほど良いじゃん?とにかくあの塔の最上階にルースーのお偉いさんがいるんだって。因みにエレベーター完備。他都市よりちょっと遅いけど。」

だからさー、何で自分の住んで無い国の建築の、エレベーターのことまで知ってるんだよ…。


「えーっと…とにかく、この都市の入り口ってどこなのよ?」

「そりゃあ壁と僕達が歩いていた街道がぶつかるとこに有る、でっかい門だよ。」

あー。みたまんまザ、門ってのがあるわ。

「ああアレかー。昨日の町の門とはかなり違うねー。」

「うん。堀がないから跳ね橋タイプじゃ無い…あ。」

弟くんがそこまで言って、何かを考える仕草をする。

「何?どーした?」


「あのねお姉ちゃん、あの門の所って検問あるのよ。」

検問ですか。以外と厳しいんだな。

「…それで?」

「で、この都市入るには【滞在許可証】ってのを買わんとってのを思い出した。」

「あ、そゆこと…金無いからなー。こんなんなら逃げる時ぶちまけたお金拾えばよかったね。」


「あとちょっと服も洗いたいよね。これ猪との戦いで泥だらけになってるし、どっからどーみたって逃亡奴隷だし。」

「洗っても奴隷服は奴隷服だけどねー。」

弟くんによるとルースーって都市は周囲の他都市と違って奴隷制がないらしい。

でも奴隷制のあるなしと入れてくれるかは別問題だ。OKかは…知らない。

「まあお姉ちゃんの左にあるしさ、泉。」

そう弟くんが指差す先には、確かの大きな泉がある。

「あ。ほんとや。」

なんで気づかなかったんだ?にしても綺麗な泉やな。

「じゃあとっとと洗って行こう。僕はあっち行くから、お姉ちゃんはここ使って。」

「りょーかい。」


ってことで泉まで移動してボロボロのTシャツみたいな何かを脱いで泉に突っ込んで洗う。

奴隷服に下着の概念なんかないので洗って干したら裸なのだが、まあ弟くん含め誰もいないのでそこまで問題にはならない。

というかそんな事より気づいたことがある。

泉の水があったかい!!


温泉ってレベルでは流石に無いが、おそらく冬のこの寒い気温の状態でも全く冷たく無い。

つまり…入れる!!

こっちに来てからと言うもの風呂なんか当然入れてない訳だ。

体洗いたいって思うのは必然って訳さ。

ってことでLet's go!泉に飛び込む。


あー…気持ち良いー…。

適度な水温に綺麗な景色と、とても素晴らしい環境である。

身体の汗と汚れを流した後、ちょっと泳いでみることにする。

これじゃプールな気もするけど…まあね?


と、しばらく泳いでいると私は泉の底に何かが落ちていることに気づいた。

石…か?いやでも模様ついてる。それに心なしか光ってる気も…気のせいか?

「アレルー!!これなんだと思うー?」

こーゆーのは弟くんに聞くのが早い!

丁度泉の対岸で服を干している弟くんを見つけた私は、泳いで行って呼びかける。


「うわお姉ちゃん!?ちょっと何で泳いでるの!?てか何で来るの!?」

やべ、意外と驚かせちゃった。

酷く慌てた様子で、干してたズボンを履き直している。

「いやなんでってあったかいし…ってか洗ったズボンそのまま履いていいの?乾き遅くならない?」

「いや、裸は流石に…お姉ちゃんみたいにやるのは無理だよ。」

「みたいって何だよ…それよりこれ。明らかに普通の石と違わない?」


私は石を弟くんに渡す。

弟くんは石をじっくりと確認するが、意外と正体は知らないようだった。

「あれ、ここヒビ入ってる。ほら、乾いたとこ。」

「えー?さっき無かったけど…。」

と、そのまま石がボロボロと崩れ、中からナイフが現れた。

「え…なにこれ。」

結局鑑定してみる。最初からこうすれば良かったと、後から思った。


ーーーーーーーー

【加護を受けた超万能ナイフ】

分類:防具

攻撃力増加値8

ーーーーーーーー

【加護を受けた超万能ナイフ】

大量の能力を詰め込めるだけ詰め込めた小型のナイフ。

以下はその能力たちである。

尚、泉の加護により全ての能力が強化されているが、生き物を含む全ての他人に危害を加えられないようになっている。

【研ぎナイフ】

物凄く研がれたナイフ。ある程度柔らかいものならスーッと綺麗に切れる。

【ビームナイフ】

ナイフの刃の表面にビームを巡らせる。硬い鉄扉などもを破壊する事ができる。

【ヒールナイフ】

ナイフの刃に消毒と小回復の効果を付与する。大きめの傷口に直接触れられるため、手術のようなことができる。

【ミニフックショット】

10メートルまで伸びる切れにくい糸と、自動でひっかかってくれるフックを発射する。巻き取り速度は異常に遅いが、使用者の体重には耐えてくれる。

【プチサンライト】

ナイフが光る。光は弱い。ランタンとして使う。

【フラッシュライト】

ナイフの前方を光で照らす。懐中電灯。一瞬だけ光をとても強くすることが可能。

【プチアイス】

小さな氷を出現させる。主に飲用。

【ミニローバリア】

ナイフを置いて、半径1メートルの攻撃を軽減するバリアを貼る。

【転移回収】

1日の間能力を失う代わりに、呼んだ所有者の手元に帰ってくる。

【自己再生】

ナイフが傷ついたり、付属品が消費されたときに回復して元に戻る。

【穴あけ】【栓抜き】【ミニハンマー】【ミニルーペ】【ライター】【ピンセット】【鉛筆】【釣竿】【時計】【コンパス】【只の棒】【針金】【針と糸】【メモ帳】

ーーーーーーーー


「うわすご!多!」

何すか君…?いくら何でも能力多すぎない?

「すっごい能力だね…でも多すぎない?」

「何か…器用貧乏って、そんな感じがするよねー。」

「…どうすんのこれ?」

「まあ…せっかくだし持って行こうよ。」

そんな感じでナイフをゲット。やったね。

「この泉なんか凄いやつだったのかな…あこの服にも加護ついてる。」

乾かした服を鑑定すれば情報が更新されているのがわかる。


ーーーーーーーー

【加護を受けた販売用奴隷服】

付与加護:泉の加護(幻)

ーーーーーーーー

【泉の加護(幻)】

見たものの脳に作用する幻術の加護。

この場合は服を見た者が、服が少し新品に見えるようになる。

ーーーーーーーー


「やった!服が新品ってことは街に入れてもらえる確率上がるじゃん!」

「奴隷に渡される服は着古したボロボロのものだからって事か。」

私がそう言うと、弟くんはその通りと頷く。

「じゃあ次行こ。」

着替えた弟くんは、丘を降りるように歩き出す。

「…どこへ?」

「そりゃ僕達商人だもん。商売の時間だよお姉ちゃん。」

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