21話:『暗黒』黒き漆黒のダークブラ(以下略)

《ボルタス・グルスタさんにプロテクト・ポーションを0G(設定価格)で販売しますか?》《ボルタス・グルスタさんにパワーポーションを販売しますか?》《クルメさんに…


10個くらいの申請が一気に私の脳に届く。

よしきた!全部承認!

私は魔導袋に手を入れて、1回で10個のポーションを取り出す。

「行くよ!」

私は岩陰から飛び出す。

壁を蹴り、竜の攻撃を避け、天井までも走りながら私は的確に仲間にポーションを手渡していく。

私こんな身体能力あったの!?自分でも驚いちまうよ。

「ありがとな!嬢ちゃん上手いなぁ。」


「…いくらあのスキル持っていても、普通は手渡しです。あなた自身が可能な能力内で最適な方法で商品を渡すっていう効果ですから…あなた才能ありますね。」

「そうです?ありがとうございまーす!」

セルスさんに褒められたぜ。やったー。


「いよっしゃあ!もう一回行くぞ!セルス!出し惜しみナシだ!」

「了解です。『盾よ潰えよ…』」

そこまで詠唱をしてセルスさんは止める。


「よし、タイミング合わせろよ…?」

「『業火よ蔓延れ。【火炎区画】!!』行っけーっ!!」

「『…【シールドブレイク】!!』」

「『我流【断絶】!!』」

「セイッ!!」


さっきよりも大きな音と共に、龍にダメージが入る。

[15!×6!][109!][8!]

ダメージ量がこんな上がった原因は…おそらくセルスさんのこいつだな。


────────

【シールドブレイク】

分類:一般魔法スキル

入手条件:努力と才能が必要

防御力に対するブレイク系魔法。

かなりの強さと入手難易度の高さからこれを持っていればレベルが低くてもパーティでやっていける。

そのため他のスキルを全部捨て、このスキルを手に入れるための特訓だけをするものも多い。

────────

【ブレイク系魔法】

分類:一般魔法スキル

HP以外のステータス能力の値を一時的にゼロまで下げる。

武器やアクセサリーなどによるステータス上昇は対象外。

効果時間をゼロにすることはできない。

一度ブレイク系魔法を受けると短時間の無敵時間が存在する。

効果時間は相手との能力差によって決まるが、ゼロにはならない。

デバフ無効、デバフ軽減で値を幾らか残せる。

────────


…何これつっよ。

タイミングはむずそうだけどクルメさんはずっとダメージがある技を使ってるね。

ボルタスさんは技量でタイミング合わせてるのか。すご。

あ、弟くんの8ダメージは…タイミングずれちゃったんだろうなあ…。

と、その時だった。


「ゴアアアアアアァァアァ!!」

龍の雄叫びが響き渡る。

と、同時に竜が大きく口を開け、超巨大な魔法陣を展開。体が光りを放ち始める。

空気が震える。


…なるほど。これはアレだ。ゲームでいう予備動作だ。

さっき黒炎の説明に、紫色の魔力と書いてあった。

魔力と電力は、似ていることが多い…明るいほどやばい…そして今は…?

「見える…?」

「どうしました?」


岩が、光の99.965%を吸収するはずの岩が、ちゃんと見える。


「まずい逃げて!!」

『走れ!!!!!』

咄嗟に大声で周囲に危険を伝え、同時に強い思考共有を弟くんに送る。

弟くん達が走り出すのが見え、次の瞬間。


「あ、まず…」

龍の口から極太の紫色のビームが放たれる。

「『緊急発動!!【オールシールド】!!』」

ビームの激しい光に、私は一瞬目を塞ぐ。

そして次に目を開けた時には光は収まっていた。


…光はおさまっていたけど、私の持つ明かりで地面の抉れた穴はちゃんと見える。

スポットライトに当てられたように穴のところだけが見え、その中央に大怪我をしたボルタスさんが倒れている。


「…おいおいシールド貫通しちまったぞ…痛ってえ…ゲホッゲホッ。」

力ない声でボルタスさんはそう言い、むせる。

「わ、私が非力なばかりに…『慈愛と癒しの力よ、蘇生の力を授けよ。【治癒魔法】その8、【メガヒール・リバイバル】』すみません!!」

「久しぶりにやっちまったな…強さを見誤ったぜ。代償もでけえな…」


「代償」と言いながら差し出す彼の腕は肘の辺りから無くなり、ところどころ焦げている。

…無くなりってサラッと流したけどえ、ヤバいやん!!

え!?流石に治るよね!?やっべ冒険者舐めてた!!

そういえばビームの傷口は、熱ですぐ塞がれるから出血しないっていうのは本当なんだね…じゃなくて!

「!、だ、大丈夫です!?お姉ちゃん!早くポーション!!」

「え!?え!?どれ!?【骨再生・ポーション】!?それか…」

必死になって魔導袋を探るが、良いものが見つからない。

「無理だボウズ、完全に吹き飛ばされれば治せん。頭良いお前なら知ってるだろ?人間をやめでもすれば、あるいは可能かもしれんが…。」

治らねえ…。

…結構ハードなタイプの異世界だった…ここ…。

もっとゲームみたいにさ…薬飲んだら腕くらい生えろよ…頼むからさ…。


「とにかく、これ以上ここにいるわけにはいきませんね…やはり撤退しなくては。」

「でも、ドアは閉まっちゃっいましたよ?洞窟内で狼煙なんかたけないし…。」

すまねえ…まじですまねえ…。

「ねえ皆!ドラゴンがこっちくるよっ!」

「クルメ!ちょっと待ってろと伝えろ!…ゲホッ。」

ボルタスさんが無理難題言ってる。

「ええっ!?そ、そんなにはもたないからねっ!」

逆にちょっとならもつんだ。


「よし…。じゃあどうやって撤退するか、だな。」

「えっと…ええ…やっぱ倒す…?それか次のパーティが来るまで…耐える?」

そりゃ無理だ弟くん。

えっと…ここまできたらもうラノベーの知識とか…それかゲームの知識を…

「無理ですよ…こんな巨大な穴開けてしまうんですよ?ビームで。」

あ、そういえばボス戦ってさ。敵の攻撃を利用することあるよね。

「ちょっと待って。そのクソデカ穴、あいつが黒くした岩盤層を貫通したんだよね。」

穴の奥はちゃんと見えた。つまり黒くなってないってことだ。

「それがどうしたの?」

「それをドアに開ければ…?」

もしかしたら、逃げれるかもしれない。


「でも、どうやって?」

それなんだよね…えっと…?

「誰かが…囮に?」

でギリギリで避ける…?

「誰かって誰?まさかボルタスさんとは言わないよね?」

まあそれは…流石に…。

「私はリーダーの様子を見ていないといけないし、クルメも…。」

「もう多分限界だよっ!ああ、そっち行っちゃう!」

部屋の奥からクルメさんの声が聞こえる。

うーん…。


「あ、そうだフックショットってやつ持ってたよね。お姉ちゃん。」

え!?私!?私が行くの!?

「弟よ。マジで言ってるのか…?」

無理無理無理!サリアさんの元々の身体能力は知らんけど、私運動まともにしてきた事ないもん!!!

「言い出しっぺの法則だよお姉ちゃん。ね?」

え、ちょっと待ってなんかまずい方向に話が…。



〜あとがき〜

【詠唱のタイミング調整について】

無詠唱魔法は例外だが、魔法は最後のスキル名まで詠唱しないと発動しない。

逆に言えばスキル名だけ詠唱せずに待つことで、いつでも魔法を放てる状態で待機できる。

この時、むせたり他のこと喋ったり息を吸ったりしたらアウト。最初からやり直し。

そのため術者の肺活量がそのままタイミング調整の限界とされる。

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