29話:超異世界流!戦車ができるまで(1)
「…良いですかみなさん。彼女は天才…いや眠才です。ルイサさんの手にかかればこんな大量の敵も、不利も一発で吹き飛ばれるような兵器があっという間に手に入るのです!!」
盛ってる…かな?
いや、あの時の感動は本物だ。行ける!ルイサさん(と私)なら!!
「ふむ、それでその兵器と言うのは何だ?」
「それは…えーっと…」
どうしよう、こうは言ったものの別に私兵器に詳しいわけでもないからな…。
何があったっけ…爆弾…?それとも大砲…?いや。
エンジン…。そうだエンジンだ!つまり車!いやこの場合は!
「戦車!戦車ですよみなさん!」
私はそう高らかに言い放つ…が、みんなの反応はあまり良くない。
「お姉ちゃん…。戦車ってそれ900年とかそれよりももっと前のものだよ?そんなもん持ち出したって…。」
え、900年前!?どゆこと?
────────
【戦車】
分類:馬車
2〜4頭立て1〜2人乗りの戦闘用馬車。
主に947年前に起きた開拓戦争やそれ以上前の戦いで用いられた。
チャリオットとも呼ばれる。
────────
あぁ、なるほど。そんなんもあるのね。
ってか戦車の概念がない人に言ってもわかるわけがないわな。
ちゃんと説明しないと。
「違う違う。ここで私が言う戦車ってのは、キャタピラをつけた車に…ああ車って概念もないのかどーしよ…とにかく!戦車には敵のあらゆる攻撃を防ぐぎきる鉄や鋼の装甲が!更には巨大な主砲が!主砲から放たれるは必殺の徹甲弾!徹甲弾は敵の盾を、壁を、装甲を、粉砕できる!」
私は壁のボードにイラストを描き、それをドンと叩く。
「おお…!」
周囲が私の勢いに圧倒され、息を呑むのを感じる。
まあ私が急に大声出したから、なんだこいつと困惑してるって可能性もあるけどー?
とにかく、この流れを崩さないように私は畳み掛ける。
「しかもしかも!戦車は動くことができるんです!ルイサさんがたった一人で開発に成功した魔力エンジンで!攻撃をことごとく防ぎ、主砲をぶっ放しながら迫ってくる鉄の塊なんか目にした敵は、戦意喪失して逃げ出すこと間違いなし!少なくとも私なら逃げ出す!いやあ戦車ってすっごい!」
私の説明…いや、もはや演説みたいな何かが終わると部屋中に拍手が巻き起こっていた。
「す、凄いよサリアっ!いやルイサっ!」
「なるほど、それが本当ってなら確かに凄い話かもしれねえな。」
「それなら可能性はある…いや、それどころか勝利を確信できるレベルかもしれないな。…その話が本当なら。」
…にしても別に戦車についてこれといった知識も無いのにこんなに演説できる私って、意外と天才?いやだなぁそんなに褒めないでよー。…なーんて。
「…どうです!?そんな強力な兵器を私なら…いや、ルイサさんなら本当に作ることができるんです!ね!ルイサさん!」
部屋中の視線が、一気に寝起きのルイサさんに集まる。
ルイサさんは突然の状況においていかれそうになりながらも、話は聞いていたらしい。
今すぐ逃げ出したいと言わんばかりの表情でクルメさんを見つめるも、無視されている様子が見える。
今更ではあるんだけどなんか申し訳なくなって来た…。
まあ、嘘は言ってないし!都市のためだし!ってか私がそうしたいからだし!うん!
ルイサさんは周囲を見回し、少し考え込み、最後に諦めたような表情をして一言呟く。
「ま、まあできないことはないと思う…んやが…。」
「ほら!できるって!という事で私達にお任せください!」
私は強引にそう高らかに宣言すると、再び拍手が巻き起こる。
…この人達熱しやすいタイプだなさては。セールスのしがいがあるってもんだ。
「なるほど。コール殿、そしてアメニス殿。どうか数日ほどでその戦車とやらを作ってはくれないか。期日が短いのは申し訳ないがわかってくれ。戦車ができないのなら早いうちに代替案を用意する必要が出てくるからな。」
リアムスさんが頭を下げてくる…いやぁ、むしろそのセリフを待ってたのはこっちだったりしてー?
「もっちろん!どかっと作ってやりますよぉ戦車!私!…と言うかルイサさんが。」
ルイサさんはもう諦めたのか、何も言わずに頷く。
「ありがとう。それでは私達はこのまま作戦会議を続けるがあなた達はそろそろ休息が必要かもしれないし、これ以上引き止める理由もないから解散しても構わない。本当にご苦労だったな。」
あっそうなんだ。ならそろそろ帰るとするかー。
「じゃあ私達はそろそろ行こーかな。」
「…ウチももう帰る。これ以上何か押し付けられるのは懲り懲りや。」
「私はまだ聞いてよっかなっ!作戦会議ってのも気になるし、そもそも私って軍の隠し球だしっ!」
そうして各々はそれぞれの行動をとる。
◇
私達はエレベーターに乗り、塔を降りて外に出てきた。
……。
やって…もうた…。
正直さっきまでのはかなーーーり私もハイになってた。
私の奥底にある商人としての本能みたいなのが作用したのかのもしれない。よく分からないけどね。
途中からは自分の声に調子付けられ、後先考えず適当なこと言ってもうた…やらかした!
ってかそもそもルイサさんって最近関わりが多かったとはいえほとんど他人だよ!
これがまたややこしくて私の性格的に完全なる赤の他人なら別に雑に扱っても私が良ければ心が傷まない…と思うんだ!
だけど私はルイサさんを尊敬している!尊敬してるんだ…!
「あのぉ…ルイサさんさっきのは…。」
「…数日で戦車を完成させるなんて大変そうやね。せいぜい頑張りや。」
ルイサさんは私の方は振り返らずにツカツカと歩きながら、そう言う。
怒らせたー!いや、あの、その…。
無理だよ…私一人じゃ!そんくらい分かるでしょー!分かって敢えて言ってんのかそりゃ!
ってかさっきルイサさんだって頷いたじゃん!リアムスさんのお願いに!
…コレはほとんど逆ギレだね。わかってるけどさ…。
「怒られちゃったね。」
弟くんが横から口を挟んでくる…うるさい!
「何を言われてもウチもう帰るからな。そもそも眠才は"夜望めば覚醒できる能力"や。ウチも今望んでへんし毎晩毎晩働けるもんとちゃう。」
「そっか…。」
どうしよう…いっそのこと戦車なんか作らず夜逃げするか?
いや、周囲の他都市は奴隷制の概念がある上、結託していると聞いた。一番安全なのはここ。でも兵器がなくっちゃ…。
ふと、私はあることに気づいた。
ルイサさんが立ち止まっている。
「なんや、なんちゅう表情しとる。せいぜいウチに置いてかれへんように頑張りやっちゅう意味や。あない大言壮語並べたんならあんたらも相当働いてもらうで。」
……!
「ありがとうございます!頑張ります比喩抜きで馬車馬の如く!」
後から弟くんに聞いた話によると、この時の私は泣いてこそいなかったものの表情がぐっちゃぐちゃだったらしい。
…恥ずかしっ!
「はいはい分かったわ。やるだけやりゃええっちゅうんやろ?元々ウチもあんたがエンジンなんかに興味持ってくれて嬉しかったんや。しかも車とかいう可能性を秘めてるなんてロマンあるやん!?資金や資材まで都市が出してくれるっちゅうなら願ったり叶ったりやな。」
ありがとう!本当にありがとう!いやまじで本当に!
「じゃ、じゃあ明日の夜までに開発に使えそうなぽい素材を集めておきます!そりゃもうえげつない量!ルイさんの為ならいくらでも!」
「まあ…勝手にせえ。あと呼び方はルイサでええわ。よろしゅうな。」
それは私と弟くんと、今後長い間苦楽を共にすることとなる仲間が加わった瞬間だった。
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