28話:内戦のきっかけ私ってマジ!?

『えちょっと待って!?つまり私達がここに逃げ込んだから戦争始まるって事!?』

それかなり申し訳ないことしてるんじゃ…。

っていうかあのデブが自分の意思で領地動かせるってどういう事だよ!

あの驕りっぷりはそれが理由か!

『違う違う。確かにお姉ちゃんが言うのもきっかけの一つだよ?でも元々ルースー領とアルアド領はかなり仲が悪いんだ。それとルースー領もアルアド領もサントウルス王国って国に含まれるから戦争じゃなくて内戦。』


あー、元から仲悪くてマジでどうでも良い内容で宣戦布告してくる…って事?

そう考えると逆によく今まで形だけでも平和だったなこの都市。

『でもさ…どうして仲悪いんよ?』

『うーん、まあ色んな理由があるんだけど、そもそもここルースーとその為周辺領地の人達は民族からして微妙に違うんだ。』

『え!?何で?』

『元々サントウルス王国の王都はもっと西の方にあって、こっちは元々統治する国なんかなくて幾つかの部族が暮らしてたんだ。』

『ほうほう。』

原住民みたいなやつかな?


『ところがある日、王国は勢力拡大のために東方に開拓者を派遣。開拓者達は行き着いた先に都市を築き、自分達の領地とした。それが…』

『ルースーってことか。』

ルースー人って元々よそ者だったんだね。

『そゆこと。でもここで問題が発生。当時のルースー領内にその先住民達の部族の集落が含まれてたんだ。各部族は大激怒。』

『そりゃ突然訳分からん奴らに土地の所有権主張されたら誰だって怒る。』

『だけど当時の部族は武器も貧弱で、王国になんかとてもかないっこなかった。そこで…』


『そこで…?』

『自分達も王国に使える代わりに、領地の保有を認めてくれと頼んだんだ。元々王国は自国の勢力拡大を、言うなれば地図埋めがしたかっただけだからこれを了承。それにほら、この辺は王都からも遠いからそれぞれの領地は実質的に独立した都市国家みたいな感じになることができる。』

『相手の敵になるより味方になった方が有利と判断したのねー。』


『んで王国がそれを雑に許可したせいで本来ルースーが取れたはずの土地がだいぶ減少。ルースーは実質独立状態になるのを目論んでたもんで土地に執着してたから激怒!一方部族間を結ぶ街道のど真ん中にルースーとか言うのが出来たせいで行き来ができなくなった部族側も再び激怒!』

『あ…。』

『そうしてギスギス状態のまま、何とかギリギリ今までやってきたってわけ。』

じゃあほんと一触即発で、何が原因で爆発するか分からなかったんだ。


『…ところでその情報どこから…?』

『なんかの本で読んだんだよ。』

『…やっぱり。』

ここで思考共有から現実での会話に意識を戻すと、背の高い男性が壁に地図を広げていた。私たちが持ってるののでかいバージョンだ。


「アルアド領と戦うとなると、コイラ領も友邦を救うなどと言って攻撃してくるでしょうね。北と南、両方からの攻撃です。」

背の高い男性…アレクシさんって言うらしい…はそう言って地図に触れると、その場所が敵を示すオレンジ色に変わる。便利ねー。

「コイラとアルアド…2つの都市を真っ直ぐ結ぶ街道を塞ぐようにルースーはあるからな、邪魔なんだろうよ。まったくそんなに通行料取られたくねえんだったら大人しくサリウスでも迂回しろってんだ。」

「サリウスは中立を貫くとして…ドニ領とキール領も同様の理由で攻撃してくるだろうな。」

エミリさんもそう言いながら地図に触れる。途端に地球における千葉県がある半島が、一気にオレンジ色で塗りつぶされる。

「特にドニの連中はアルアド領と共謀して湾の入り口を封鎖、数ヶ月に渡ってルースーへの貿易船を妨害した前科がある。それでまず間違いないな。」

リアムスさんもそう言いながら頷く。


【挿絵:ルースー周辺地図1】

https://kakuyomu.jp/users/ri-esan/news/16817330665441579511

※リンクが開けない場合は、"小説用挿絵「ルースー周辺地図1」"って近況ノートを直接見に行ってください。(2023年10月18日投稿)


こう見るとマジでどっちを向いても敵勢力って感じ…。やばくね?

元々仲が良かった部族のど真ん中に突然現れたよそ者とだけあって、囲まれてるのはもはやしょうがないのかもしれないね…。

「てかこれ地図の半分くらいがオレンジ色になってる…ルースー領って結構小さいんだ。」

「違う!断じて違う。元々ルースー家は今の数倍の領地を任されていたのだ!それが後々現れた奴らが領地を主張しだし…王都も王都で何も考えず承認した結果私の代になる頃にはルースーは他の領地より小さくなったんだ!本当は全て我らが領地だと言うのに…!」

「父上、目が据わってるぞ。」

なんか…この人怖い。すごい恨みこもってる。


「戦力差はかなりあるが…どうする親父?まさか降伏するなんて言い出さないよな?」

「勿論だ。ハイニ村以外の全ての村の住人を都市内に避難させろ、都市の城壁を駆使して奴等を返り討ちにする。そして…」

「そして?」

「そして敵都市に逆侵攻を掛けて殲滅するのだ!…私はここに宣言する!今こそ周辺領地を駆逐して、ルースー領本来の栄光を取り戻すのだと!!」

リアムスさんは勢いよく拳を突き上げる。

「「「うおおおおおお!!!」」」

凄い盛り上がってる…。士気もかなり高いし、カリスマってやつかねー?


「で、でも…流石にこれだけの相手と戦うのは無理があるのでは…?」

弟くんがそう言ったところで部屋は再び静かになる。

一時的に盛り上がっただけで皆んな分かっていた。

単純計算でも戦力差は4倍、しかも最初から囲まれているときている。勝てるわけがない。

…いや…ちょっと待てよ。

何かあったはずだ。敵にはなくて、私たちにはあるもの…?

そうだ、一つだけあった。大事なものを忘れてたよ。

さっきまで私は何を見ていた?

「いや…勝てる…かもしれない。」

「本当か!?」

「何か知ってるのお姉ちゃん!?」

「そう!私達にはこれがある!…いや、この人がいる!その人こそがルイサさんだ!」

私が指を指した先では、ルイサさんが机に突っ伏して寝ている。


「「「……。」」」

「ん…すぅ。」

「ルイサっ!なんか呼ばれてるよ起きてっ!」

クルメさんが呼びかけてやっと眠そうに顔を上げる…そういえば窓の外を見ると丁度日が沈むところが見える。そろそろルイサさんも起きれそうだな。

「コール殿、その獣人の少女に何かがあるというんですか?」

「…くだらない。そもそもお前は参考人として呼ばれているだけだぞ?それが急に自分の友達が凄い!なんて言ってもそう簡単に納得できると思うか?」

まあミナスさんが言うのもごもっともだ。でも別に私も適当言ってるわけじゃないんだけどなあ。


ルイサさんはマジでガチの天才、いや眠才だぞ?冗談抜きで私が一生ついていきたいと思った人だぞ?

パンでも口に突っ込めば分かってもらえるかなあ?あの時感じた感動は、ルイサさんの凄さを象徴してると言えるんだし。

と、ここで助け舟が入る。

「ミナスよ、まあ良いではないか。高い理想を叶える為には、藁に縋ってみるのも悪くない。」

リアムスさんが目配せしてくる。どうやら続けて良いらしい。

ということで演説する。気分は商品紹介だ。

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