27話:近年稀に見る心置きなく殴れる系悪役

「捕まったー!!」

「お姉ちゃん!」

はい、捕まりました。

「ほら大人しくしろ。まったく会長を殴るなんて…お前正気か?」

大男二人が私の両腕をがっちりホールド。全く動けねえやっべぇ!

でもまあ、殴れて満足できたし、別に良いんだけどね。


「この餓鬼め…奴隷という劣った存在でありながらよくも私にの顔に傷を…!」

「あー、デブがなんか言ってら。」

「何だと!?」

「こんなに分かりやすい悪者、いると思ってなかったよ。ひっどい思想持ち出したり、自分の満足と快感の為にいじめまがいのことを始めたりとかさ。だから殴ってみたんだー。私の満足のためにね。」

デブの顔が分かりやすく赤くなる。

直後狂ったように戯言を乱射し始めたが、いい加減いちいち聞くつもりもない。


元々さ、こういう話聞くの反吐が出るのよ。その対象が自分でも人でもね。

だから自分を満足させる為には、人も満足させないといけない…めんどくさいね。

でも殴れたのは良かったかも…などと思っていると、デブが急に静かになった。

「もう良い。逃亡奴隷の回収などやめだ。殺るぞ。」

あ、やっべそうなるか…。


腕を抑える力がさらに強くなる。

デブは太い針のような武器を取り出す。

「急所は外してやろう、何度でも刺してやろう。刺すたびにぐりぐりと捻ってやろう。傷で価値が下がるなんて気にしなくて良いからな。思う存分楽しもうじゃないか!」

絶体絶命…と言うべきだろうか。


『あ、待ってそれ、大丈夫。こう見えて勝算はあるんだー。』

ナイフを抜き、不意を突こうとする弟くんに思考共有して、静止させる。

さてまあ、このまま刺されたら私が満足できるわけが無いんですよ。

だから私は初めっから絶対安全な状態で殴りに行ったんだ。

「危ないところだったけど…やっと来たねー。」


「全員動くな!!」

扉の方から声が聞こえる。エミリさんだ。

「領主様を連れてきたと思ったら…、何の騒ぎだこれは?」

そしてその後ろ、少しオーラを感じる男性が一人。

『リアムス・アメニス…都市ルースーとルースー領のトップ、領主様だね。』

『ふーん。リアムスさん…と。』


「これは…どうやらお客様のようだね。ゲミニア・スリノナス様、本日はどう言ったご用件で、そして何故市営工場へ?」

リアムスさんは落ち着いた様子で、ゆっくりと歩いてくる。

ってかデブそんな名前だったのか…デブはデブだけど。

トップを前にしてあのデブはどう出るか…?


「な〜に鼓腹奴隷商会の看板に泥を塗った逃亡奴隷のゴミが二匹いてだな、教育しようとしてるんだから邪魔するんじゃねえぞ?」

デブはそう言い放ち針を振り上げる。

すっげえ!全くスタンス変えねえのかよこいつ!

ってちょっと待てこのごに及んで刺す気かえちょ…!

「エミリ。」


リアムスさんが一言だけ発したその瞬間。

エミリさんは針目がけ目にも止まらぬ速さで蹴りを打ち込む。

針は宙を舞い、地面に落ちる。

蹴りは同時に大男の腕にも正確に命中し、私の腕を摘む力が緩まる。

わぁ…この人強い…。


リアムスさんは小さな魔導書のようなものを取り出すと、小声で呪文を詠唱する。

そして形成された魔弾を向けながら、諭すように話す。

「スリノナス様、事情はわかりました。しかしここはルースーです。ルースーに奴隷制がない以上、彼女も、もちろん貴方も大切な客人です。双方の安全の為にも、どうか自領へお引き取りを。」

「ここに来るのも相当な労力がかかるんだ。そう言うなら償ってもらわなきゃならんなあ?」

リアムスさんは魔弾にかける力を強めながら続けて言う。

「事情を考慮し、今回の事を罪に問うのはやめておきます。ですから今回は、自領へお帰りを。」


デブは周囲をギロリと睨み、不利を理解したのか不服そうに呟く。

「……。良いだろう、今は帰ってやる。」

「私が門までお送りします。」

エミリさんはデブを見張るように付き添っていく。

と、最後にデブは振り向くと気持ち悪い笑みを浮かべてこうとだけ言う。

「あ〜そうそう。言い忘れてた事があったな。私には役職とここに来た理由が、もう一つありましてね。」

「何だ?」

「外交官ってやつだよ。それを攻撃して追い返すなんておやまあ大変だ!…それでは…ねぇ?」

その時私は、リアムスさんの眉が少し動くのを見た。

当時の私にはその意味は理解できなかったが。

リアムスさんは少し考えた後、意を決したように静かに言う。

「緊急で議会を招集する。理由は…"この都市の存亡"とでもしておいてくれ。」





私達は今、都市の中央に聳え立つ領主の住む塔にいた。

あれから臨時の議会とやらに私たちも呼ばれたわけだ、何故かはわからないが。

岩の位置エネルギーと人力で動く、初歩的なエレベーターがゆっくりと登っていく。

なるほど、ここからだと都市の全てがよく見えるねー。

そしてエレベーターが停止し、衛兵が扉を開く…そこも人力なのね。

そんなことを思いつつ、私は皆んなに続いて部屋に入る。


部屋には円形の大きな机があり、それを沢山の椅子が囲んでいる。

すでに何人かは席についてて…あ、エミリさんと同じ服着てる人もいるね。

「皆んな集まってくれてありがとう。今回の議題はこの領の命運を決めるものだ。心してかかるように。」

リアムスさんはそう言いながら席に座る。その隣にエミリさん、さらに隣に私達。

「親父よお、あんたいつもそれ言ってるじゃないか?」

そう言うのは例のエミリさんと同じ服着てる人。

親父って言ってるし多分リアムスさんの息子かな?つまりエミリさんの兄弟。

『ミナス・ルースー…領主の息子ってことは後継候補一位。あ、第一大隊隊長なんだ。』

『アレル…なんで分かるんだ…まーた「どっかで読んだ」ってやつ?』

『流石の僕も知らないよ!ほら、机の上に名札があるからさ。』

あ、ほんとじゃん…他のお偉いさんの前にもそれぞれ名前と役職が書かれている。


「ミナス…せめて父上と呼べ。それに今回は本当に重要なのだ…先ほど鼓腹奴隷商会の会長がルースーにいらっしゃった。大変気分を害されたようで、すぐお帰りになったがな。」

「何!?」

「ほ、本当か!?」

途端に部屋が騒がしくなる。リアムスさんはそのざわめきを手を叩いて止め、続ける。

「皆はこの意味がわかるな。知っての通り鼓腹奴隷商会はアルアド領と密接に関わっている。おそらくアルアド領はこれを大義名分とし、数日後に侵攻してくるだろうな。」


〜あとがき〜

やっと…やっとだ…!

まじ一週間もかけなかったて何考えてるんだよ作者は…!

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