33話:商人さんとルイサさん(上)
「…以上が魔力発生装置の仕組みや。作り方がこないなのやさかい、仮に設計図が奪われたとしてもウチが作るこれよりも出力が大幅に下がるやろうな。」
ルイサの声が聞こえ、私は目を覚ます。あれ…寝てた…?
「…さて。次はお待ちかね魔力エンジンの説明や!魔力発生装置とは違ってエンジンはウチの助け無しで量産できるようになってもらうで!」
ルイサが説明してるってことはもう夜だよな…。私あれからどうしたんだっけ…。
あー、記憶曖昧だけど戦車の紹介をして…気づいたらフラフラっとしてて寝てたんだ…っけ。
紹介はあらかた終わったはずだからよかったけど…。やっぱ寝不足だな私。
昼間から材料集めをして、夜にはルイサさんと設計を手伝う…そりゃそうか。これで寝不足にならない方がおかしい。
ただまあなんとなーくこんな生活、地球でもしてたようなそんな気がする。
記憶が曖昧な部分も多いから、なんとなーくだけどね。
「魔力エンジンのパワーは爆発によって発生するんや。こいつがピストンを上下させて、回転運動が発生する…」
ルイサの説明を流し聞きしながら、私は周囲を確認する。
さっきまで私が喋ってた聴衆達の…主に技術者達が席に座り、真剣な面持ちで説明を聞いている。さしずめワイルドボアの量産を、ルースー全体でやるってのが目的かな?
「ここにセットされているのが"圧爆魔石"。こいつは魔力を与えることで定期的に周囲に爆発を発生させることができる優れもんやな。さらにさらに、特殊配合したスライムの薬液をピストン全体に詰めて、爆発の衝撃だけがピストンにまっすぐ伝わるようになっとる!」
ルイサさんは壁に手書きの図を貼り、棒で指しながら説明を続ける。
あ、それから私のすぐ横の席で弟くんが寝ている。
そういえば一昨日丸一日がっつり寝た時も、弟くんは上手く寝付けなかったらしい。私より寝不足だろう。ゆっくり休んでくれ。
あ、これよく見たら例の毛布にくるまってるね。ルイサさんの着る毛布。
それでこんなに気持ちよさそうに寝てるわけだ。これ絶対ただの毛布じゃ無いよね…?
「そしてこっち。これは爆発する危険な敵から取ってきた危険なもんや!こっちも重要やで?こいつは"炸裂石"言うて圧爆魔石とはまた違った重要な役割を持っとるんや!爆発…この場合は圧爆魔石のやな…を受けるとこいつ自身が大爆発!パンパンと大きな音を出しながらエンジン始動時に止まってるピストンをいっきに動かしたり、あとは一気に加速したい時に使えるんや!使ったら無くなっちゃうし三発しか装填できんかったんやが…それでもこの小ささから生み出される爆発のエネルギーはそりゃもう凄いんや!」
ルイサ…なんか活き活きしてるなあ…。本当にこう言うのが大好きなんだろうなってのが説明に対する彼女の熱量から感じられる。
え、私?まあ実のところ私もこういうのはちょっと好きだけどさ。問題は私が致命的に座学に向いてないってことなのよ。
「魔力エンジンのメリットはそこやな。そこにいるサリアが言うにはエンジンっちゅうもんは起動した後ももっとうるさいし、排気ガスっちゅう有害なもんを撒き散らすたしいんやが…魔力エンジンはそないな問題もないんや!他にもメリットは…」
だからこんな風に説明されてもあんま頭に入らないし、むしろ眠くなって…ふぁ。
少し気を抜くと意識が遠のいて…っていうかそのまま寝てしまう。
身体が倒れ、弟くんが身にまとう毛布のに顔が埋もれた瞬間、私の中で力が抜けるように感じ…そのまま意識を手放した。
◇
「サリアー?おーいサリアー?」
「ん…?あれ、説明会は…?」
気づけば部屋には誰もいなくなっていた。みんな帰った…?
「んなもんとっくに終わっとる…。それより随分ぐっすり寝とったなあ、あそこからは結構よう見えるんやで?」
「あ…それはごめん…。」
「ええねんええねん。ところでまだ夜明けまで時間があるんやしウチは散歩にでも行こかと思ってたんやが…無理そうかな?」
あー、せっかくならちょっと行ってみたいな…いや結構行きたい…。
「私はそこまで眠気があるわけでもないし付き合うよ?さっきまで寝てたしね。」
ただまぁ流石にアレルは無理だろうから寝かしとこう…ってことで弟くんを二人がかりでパン屋のベッドに寝かせる。
「…よし。にしてもアレル、気持ち良う寝とんで。ウチの毛布をがっちり掴んで…。」
「あーそうだよこの毛布だよ。これ絶対ただの毛布じゃないよね?触れただけで寝落ちしそうになる…。」
「せやろか?んまあウチのこだわりっちゅうもんは入っとるが…」
「あー確かにルイサならこだわりだけでもこのレベル作れるか…今度私の分も作ってよ。」
「せやな、あれ意外と材料簡単やから…あ、ここや。」
そんなことを話しながらルイサは工場の方へ行き、その大扉を一気に開く。
「あれ?どうしてここに…?」
「どうしてって…ああ、散"歩"言うとったがウチがやりたかったのはこいつの試運転や。ウチらで頑張って作ったやつやろ?乗ってやらんのはウチらにとってもこいつにとっても可哀想や。」
「あー…"それ"ね。」
私の目線には一台の装甲車があった。
戦車の試運転と解説をした時に、動かさなかった方だ。
私は大きくてインパクトありそうって理由でワイルドボアくんの実演をしたわけだが、理由はそれだけじゃない。
こいつはどっちみち量産できない。いわく付きだ。
(え、なにこれ。お姉ちゃんこれ何か分かるの?)
(うん…だってこれ…本物…。)
(本物?)
(本物の…タイヤ…。)
私が初めに見た時には無かった。
それまで気づかなかっただけなのかもしれない。でも気付いたらそこにあった。私を待つように。
地球生まれ地球育ち。異世界に存在するはずがないもの。そんなタイヤがそのまんま使われている。
多分これはカミサマが私のためにご都合主義で用意してくれたもんなんかじゃない。
私がなぜサリアさんの体の中に入っているのか、なぜ記憶が曖昧なのか。
というか異世界ってなんなのか。
その答えに思っている数倍は近づいてるのでは?そう直感で理解したからだ。
異世界転生なんだから考えてもムダ…なんて思いそうになるが、実際に起きてるとなると話が違う。
だってこれ…だって…
「…まぁまあ、考えとってもしょうがないやろ。むしろこいつはもう作れない、唯一無二の存在やからな。そう考えると、むしろ嬉しくなるのはウチだけか?」
一人で考え込んで固まっていた私を、ルイサは軽くこづく。
私の意識はルイサの前まで戻され、少し落ち着いてふうと息をついた。
「そないなことよりせや、アレルいないしサリアが運転やってみるか?簡単だし楽しいし!そんな暗い気持ちも吹っ飛ぶで!」
いやいやいやいや!事故る!私免許とかないし天才でもないし絶対事故る!!
「無理無理!操作簡単なわけないじゃんこのレバーの量で!」
地球の車みたいにアクセルとブレーキで大体なんとかなるシロモノじゃ無いっぽいし!
「せやろか?サリアもこいつ作った側やろ?ならいけるいける!」
「いやぁ…私はほとんど雑用だし…マニュアルとか読んだだけで全て理解できるアレルとは違うんだよ…。」
もっと言えば私は戦車っていうざっくりした"概念"出しただけだし…。
「うーん…せや、それらサリアは車長ってのやりぃや。ウチの操縦席だと周りの様子が見づらくて怖いんや。」
車長?あぁ、色々指示出す人ね。
戦車は大砲撃ったり移動したり。複数人でやって忙しいから誰かがまとめ役になるんだってさ。
まあ別に私達は前線で戦うわけじゃないから実質無職だろうけど…景色見るのは好きだしまあいっか!
ちなみにこの装甲車は色々やっても車体が重すぎて、結局天井を取っ払って上から顔を出せるようになってる。つまりオープンカー。ちょっと違うけどさ。
「じゃあ…私それやるね。」
「あとな、せっかくならこいつの名前もルイサが付けるってのはどうや?車長なんやしワイルドボアってのもサリアが付けたんやろ?」
あーそれね。いや確かにそうなんだけどさ。
えー、名前ー?
何か…何かないだろうか…?
またあれ?魔物の名前とかからとって勇ましくする?でもどうせこいつ私達しか乗らないし戦車じゃないし…。
そう考える私の前ではルイサの白色で滑らかに伸びた髪がゆらゆらと揺れ、その毛に包まれるように白色の猫耳がぴこぴこと動いている。
………よし。これにしよう。
「じゃあ…"ホワイトキャット"で!」
「な、なんやそれ!?何を思ってそんなんにしたんや!」
私の目線で名前の由来に気づいたのか、ルイサは慌てたように手をぶんぶん振る。
「いやあれだよ……なんて…嫌だった?」
「別に嫌っちゅうわけやないんやが…なんかこうむず痒いな?」
雑談しながら私達は"ホワイトキャット"に乗り込む。
狭い。とても狭い。これで後1人追加で乗るんだよ?乗れるん?
私は上から顔出してられるけど、運転しようとしたら窓っつうか隙間みたいなところからしか外見れないってのに。
「よーっし。座れた。私が車長ってのでいいのかな…まあいっか!」
「よし、じゃあ…行くでぇ!?」
パン!パン!パァン!
ホワイトキャットは炸裂石のけたたましいエンジン起動音を夜のルースーに響かせると、一気に加速して走り出して夜でも開いてる東通用門から都市の外へ出る。
乗り心地はまあ最悪ってほどじゃない程度だが、車の上から顔出してられるってのはなかなか新鮮だし夜風も気持ち良いものだね。
あとがき
…。
やっべイメージ共有コーナー忘れてた!
一応ホワイトキャットの見た目のイメージは"sdkfz222"。ドイツの装甲車だね。
ルイサの最強エンジンと超技術で、荒れ道でも爆速で走れる優れもの!
主人公のしばらくの愛車、これになりました。
あと史実の性能は反映されてな以下略。
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