32話:超異世界流!戦車ができるまで(4)
人歩歴990年11月29日、昼
「まさか昨日は丸一日寝てしまうとは…ルイサの為にも素材は私達が昼の間に集めておくべきだと思うんだ!って事で行くぞアレルー!」
「うん…それで都市の外で集めるってのは分かったけど、お姉ちゃんは何を探す気?」
「ふっふっふ…新しい作戦を思いついたんだ…使うのはそう!タイヤ!」
「タイヤ…?何それ。」
「丈夫なゴム風船みたいなのを車輪の外側に嵌め込むんだよ。中に空気がはいってるから衝撃を吸収してくれて安定するしー?サイズを大きくして溝を掘れば不整地でも走れる!」
「な、なるほど…。でもゴムなんかこの辺の地域じゃ手に入らないよ?」
「あー…じゃあ代用品を見つけよう!なんかあるでしょ!?」
「うーん…。」
◇
人歩歴990年11月29日、夜
「全部ダメだったー!」
「まあ…そんな気はしてたよ。木の皮はボロボロになるし、草を編んだのは作るのが大変だった上に結局隙間から空気が全部抜けた…。」
「スライムの外側の膜とか、蜘蛛系モンスターのネバネバとか、結構イケると思ったんだけどなー。」
「それで、何で僕達また都市の外にいるの?真っ暗でちょっと怖い…。」
「そりゃもちろん、新しい材料を探しに行くんだよ!」
「ええ!?ただでさえ昼間明るい間でも見つからなかったのに…当てはあるの?」
「うーん…言われてみれば無いかなー。アテ。」
「あ の さ あ…。ルイサはタイヤなんかじゃなくて履帯式の新しいの思い付いたみたいだし…それで良いじゃん!何でそんなのにこだわるのさ!」
「えーだってー…ちょっと待って。え…これって…。」
「どうしたの?…お姉ちゃん?」
「アレル…そっち照らして。」
「うん…え、なにこれ。お姉ちゃんこれ何か分かるの?」
「うん、だってこれ…。」
◇
人歩歴990年11月30日、朝
「なに!?本当か!?」
一瞬驚愕の表情を見せた後、私のまえで喜びをあらわにして膝を叩くのはこの領の長、リアムスさんである。
「もっちろん!完成して今工場にあるよー。」
私たちはあれからついにマトモに動く試作車を完成させ、リアムスさんに報告しに来ていた。
ちなみにルイサさんは寝た。だから私達姉弟だけで解説しなきゃならないんだけど…大丈夫かなあ。
「ミルソネ。マルファリス。今日の予定を全てキャンセル。それから…」
リアムスさんは手を叩いて部下を呼び出すと、素早く手続きと支度を済ませる。
そして数分後には都市じゅうの職人や工場長、軍関係者にその他諸々が全て工場前の広場に集められる。
この人…できる!流石は領主!
リアムスさんと、その横に立っているエミリさんに目配せされた私は、彼らに向かって話し始める。
話し始める…やっべセリフ飛んだ!この間はできただろ!頑張れ私!
「えーっと…そう、あれです!戦車!出来ました!」
私はそれだけ言うと、弟くんに合図を送る。
次の瞬間弟くんが機械を操作し、工場の大扉がゆっくりと開いた。
あ、これ?ルイサさんがおまけ程度に自動で動くように改造してた。
ちょいちょいっとね。凄かった。
「おお…。」「これがか…。」
聴衆のざわめきが聞こえる。みんな扉が開いて姿を現したそれを、見たんだろう。
特徴的なフォルムの、2台の鋼鉄の塊を!
そう!これこそがこの都市初の…いや、この世界初の戦車なんです!
「そう!これこそがこの都市初の…いや、この世界初の戦車なんです!」
頭に浮かんだ内容を、そのまま高らかに言い放つ。
とりあえずみんなの初見の感想は、悪くは無いようだ。
私は妙な見た目に仕上がったと思うけど…それはまあ…ね?
この前の失敗の原因、それは理帯が小さく、細かい加工ができなかったからだ。
つまり裏を返せばサイズを大きくするだけで完璧なものが出来上がると言うこと!もう設計図は頭の中で組み上がった!
私達が色んな材料を持って帰ったその時、ルイサは自信満々にそう言い放った。
そしてその言葉通り、ルイサは本当に驚くべき速さで作業して、たった一晩でこいつを作り上げたんですよ…一晩で。一晩で!
本当に巨大な履帯が出来上がったから、履帯の上に車体を乗せるんじゃなくて履帯の中に乗るスペースをぶち込んだり…?
んで主砲が上に積めなくなったから、左と右に出っ張りを作ってそこに無理矢理固定した!…よく固定できたな?
そのせいで左右にクソほどデカい大砲が取り付けられた、謎な見た目のが出来たんですね。思ってたんと違う。
いや、そもそもこの世界に戦車なんて無いんだし、私も戦車詳しいわけじゃないし、戦車らしいってなんだよ!
これは戦車!私がそう決めた!
「それで、これはどうやって動かすのですか?」
当然の質問が出る。
うん、操縦ならアレルの出番だ。
一番最初に操縦席に座らせた時からそう決まった。っていうかアレルが一番上手い。
「もちろん今から動かして見せましょう!じゃあまずは…」
私は2台のうち、まずは巨大な方に乗り込む。
デカければ強い。この世の真理だね。インパクト重視って感じ?
あ、そうだ。こいつに名前を付けよう。
そのほうがこいつに親しみを持てるし、だいいちわかりやすくなる。
『アレルさ、こいつに名前…っていうか愛称みたいなのつけたいんだけど、なんか良いの無い?』
『"リトル君"みたいなのってこと?あ、それとも強そうなのにしたいなら魔物の名前とかつけると良いかも。開拓戦争時代の兵器には神話生物の名前がいっぱい付いてたんだっけ。どんな兵器なのかは記録に残ってないんだけどね。』
なるほど、魔物…いや、魔獣…。
私が戦った相手がまだ少ないってのもあるけど、やっぱり強かったのは猪さんだよね。最初に頃た相手でもあるし、今でも印象に残ってる。
ってか黒き(以下略)を名前につけるわけにはいかないし…。
「だからこいつの名前はイノシシ君…いやカッコつけるために英訳してワイルドボア!ワイルドボアの特徴は何と言ってもこの強力なエンジン!」
パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!
エンジン始動。いつもに増して強い6回の炸裂音が景気良く鳴り響く。
6気筒…って言うんだっけ?
地球に存在するエンジンとも仕組みが違うし、私も詳しいことはわからないけど、筒の数が減った代わりに大型化してパワーも上がった…んだってさ。
あとルイサの様子を見るにこっちの方が前のエンジンより作るのが簡単っぽいね。
突然の激しい音に呆気に取られている聴衆達に見えるように、私は戦車の横に付いている扉を開けて中を見せる。ついでに何人かは乗せてあげる。
「巨大な風車を用意しなくても、全力で漕いだりしなくても、ボタン一つで圧倒的なパワーが手に入る鉄の機関!これこそが魔力エンジン!名前は…ルイサの名前から取ってアメニス一式六気筒大型魔力エンジン!」
私が指差す先、戦車内にどんと置かれているエンジンがガシャガシャと動いている。
それを全員にしっかりと見せつけた後、私も乗り込む。
普通こんなじかおきなのかね?地球のエンジンだったら排気ガスで車内が凄いことになるよこれ。
魔力エンジンだからこそできる芸当だねー。とにかく。
唐突だけどニッポンの優れたオタク文化の作品群って、どんな特徴があるか分かる?
そう正解!美少女がクソ強い!
美少女はロボットで無双するし、銃弾避けながら無双するし、戦車に乗って無双するんだ!
異世界なんて実質アニメみたいなもん!私は美少女だから私にだって出来るんだ!行くぞおらあ!
「さて!こいつはワイルドボアの言わば"牙"!2つ付けられた巨大な大砲!攻城砲は敵前で命懸けで設営し、必死の防衛をしながらやっと射撃するものと聞いたけど…ワイルドボアには装甲がある!エンジンもある!移動しながらでもいつでも射撃可能!」
…こんな風に!
私は照準器を覗き、あらかじめ用意してあった的に狙いを定める。
やっべ…思ってた数倍は遠くに的配置しちゃったし、移動しながらだから大砲がぐわんぐわん揺れてる…。
あと試し撃ちなんかしてないし…。
だが…私なら出来る!
あー、多分その時は私もハイっていうかそーゆーのだったんだと思う。
自信というものは時に人に凄まじい力を与える。
初めての私の、そしてワイルドボアの砲撃は、見事に的を打ち砕いた。
〜あとがき〜
作者に絵心がないが故の戦車の見た目イメージ共有コーナー!
ワイルドボアくんの見た目イメージはマーク I 戦車!菱形戦車ってやつだから画像検索してみよう!
ただし今作で積んでる主砲がクソデカ攻城砲だから、もっとアンバランスで妙な見た目になってます。
あ、あとこれはあくまで見た目のイメージ。
現実のそれとはまるで違う性能だからツッコミ入れないでね。
ってか現実のマーク I 戦車クソデカ攻城砲なんか積んで無いし…。
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