16話:天才は寝るのも仕事らしい
「すう…すう…。」
おそらく店番の少女が、机に突っ伏して寝ている。
店番のはずなんだが、枕を持ち出してるのを見るに寝る気満々だ。
もっこもこのなんだっけ…着る毛布?まで着ている。
あ、あとさ…
「獣人だーーーーーーー!!!」
着る毛布でもこもこだったから危うくスルーするところだった!!
明らかに人間の耳とは別で猫耳が付いている。多分尻尾もある。
うーわまじかすっごお!こうなってたのか!!
────────
【獣人】
分類:種族
人間をベースとし、獣などの動物の特徴が追加された種族。
人間と比べてステータスの伸びが僅かに良いらしい。
その昔、とある村では『自然に祈り、そして獣などの動物たちの力を得る』という祭りが行われていた。
彼らはとある日の祭りで本当に一部の人々が動物たちの力を得て、『始祖』と呼ばれる存在となった。
『始祖』は知能を除き獣そのものだったが、その血は世代交代する毎にだんだん薄くなって来ているという。
ただし獣人がどれだけ獣に近くなるかは個体差で決まる。
────────
「ふぇ!?ん…んー。あ、お客…さん?」
やっべ、起こしちゃった。流石に声がデカすぎた。
でもこれは叫ばずにはいられないよ!何故かって?私日本人ですもん!それ以上の理由があるかい!?
「お姉ちゃん!失礼だよ!この辺の地域は昔から獣人が差別されていて、獣人差別が無いのはルースーだけなんだ!!」
え!?そうなの!?
「ごめん…。」
「まあ聞こえてなかったっぽいから良かったけど…。今のお姉ちゃんはこの世界のこと詳しく無いんだから気をつけてね。」
そういえばルースーは奴隷制も無いんだっけ…まったくここが楽園なのか他がヤバいのか…。
「なにか…ふぁ。用ですか…?」
少女は眠そうに目を擦っている。声にあくびが混ざる。
「えっと僕たちクルメさんの紹介で来たって、店主さんに伝えてくれないかな?」
ちゃんと割引してもらわないとね。
「え…あぁクルメの…。えっと私ルイサ…店主だよぉ…?」
あ、この人が店主なんだ!若いなー!!
いや、私だって商人として物売ってるけどさ。
この子見た感じだと私より若いよ!?
それであんなすごいもん作ってるんでしょ!?
「ああ、あなたがルイサさんなんだ。僕たちポーションとかを買いに来たんだけど、どこにあるかわかる?」
弟くんがメモをルイサさんに見せて質問している。私は周囲を見渡した。
中央の台の上のケースにいくつかの武器とパンが一緒に並べられている…結構すごい光景だなー。
後は左側の壁には盾や防具が掛けられてて、右側のおっきな棚にはランタンみたいなのとかー、つぼみたいなー…何だろこれ。
でもポーションは見当たらない。
「んー…えっと…『【何か…買っていくかい?】』これ見て。」
私達の前に商品の一覧が表示される。
にしても詠唱ってあんなのんびりした感じのでも良いんだね。
「やっぱないな…でも品揃えすごいや。」
「私にはさっぱりだけど…名前だけでも凄そうなのがいっぱいあるよ。逆になんでパン売ってるんだ?」
「あれこれ魔力発生装置…え?」
そこで弟くんの動きが止まる。
「どしたの?」
「魔力発生装置だよ!!各国の上層部が開発し、製法の流出を恐れてひた隠しにしてきた本当にヤバいやつ!!眉唾物のオカルト本でしか見たこと無かったけど…本当にあったんだ!!」
「アレル…凄い興奮してんじゃん…。」
しかもちょっと早口になってる気がする。気持ちは分かる。
「お姉ちゃんにはこの凄さがわからないだなんて!!」
「え…作った…んだよぉ…。」
「え!?じ、自分で!?」
「うん。」
「ちょっと待ってまさか!ルイサさん失礼なんだけど、鑑定させてもらっても良い?」
凄い圧だ。ルイサさん引いてるよ。
「え…いい…けど。」
あなた鑑定石持ってないじゃんと言いかけるルイサさんを遮って、弟くんが
そしてその結果が思考共有に映し出される。
────────
【ルイサ・アメニス】【獣人(猫)】
LV16
HP78/78
攻撃:28
防御:36
速度:33
魔力:31
自己スキル
【魔道具作成6】【ポーション作成7】【回路把握5】【保存4】【魔石接続4】【調合5】【思考整理5】【効果付与7】【防具作成5】【武器作成6】【資料確認4】【魔石特殊鑑定7】【鍛錬6】【精錬5】【固形物加工8】【パン焼き9】【火力調整6】【何か買っていくかい?3】【細視20】【聴覚強化6】【爪術1】【眠才30】
耐性スキル
【熱耐性2】
装備
【特製もこもこパジャマ】【特製もこもこ毛布(大)】
────────
…すっご。
えー、スキルの皆さんが今まで見た誰よりも充実していらっしゃるようで。
レベルまで高え。
何ならさっきのパーティーの皆様より沢山持ってるじゃん。
弟くんはその中の1項目を拡大する。
────────
【眠才】
分類:種族パッシブスキル
入手条件:才能
主に猫系の獣人がごく稀に手に入れるスキル。
極めて強い才能を持つようになるが、常に凄まじい眠気に襲われるようになる。
眠った時間に応じて、各種能力が向上する。
夜間に本人が望んだ時のみ、眠気に襲われず覚醒することができる。
────────
猫は夜行性…ってこと?
極めて強い才能って…確かにアレは極めて強い才能が無くちゃ作れないな。
「それはそれとして、ポーションは品切れっぽいね。どうする?」
弟くんを本題に引き戻す。
「ごめん…材料…無いよぉ…。」
ルイサさんも在庫を確認して、そう言う。
「うーん…じゃあこうしよう。」
『え、そこまでするの?』
本人の前で言うのは流石にアレなので思考共有を使う。
『流石に他の店行った方がいいんじゃ』と。
『眠才を持ってる人が作るポーションだよ!?性能が倍…5倍にはなってるに違いない!!』
そんな凄いのか…いやルイサさんが凄いことは分かっていたことだけどね。
「ふぁぁ…ん。かすよ。あと…」
「ん?」
ルイサさんは、椅子に座ったまま壁についている様々なものをいじり出す。
ボタンを押したり、紐を引いたり。
そうこうしているうちにルイサさんの真後ろの戸棚が、一部へこむ…はい?
で、その戸棚の一部分がゆっくりと下へ下がっていき…。
…中から大型の、赤くて豪華な宝箱が出てまいりましたー!
…あれだな。忍者屋敷みたいな仕掛けだな。
おそらく、隠し金庫みたいなものなんだろう。
にしても豪華な宝箱だな…こんなの王城の宝物庫くらいにしか無いだろフツー。
入手ルートどーなってんだよこれ。
それからルイサさんは着る毛布の…これどこに隠してたんだ?って感じの隙間から鍵を取り出し、机の上に置く。
「ん。きみたち…なんとなく…しんよー……ふぁぁ。…どーぞぉ……」
「え?何て?」
「何かどんどん声が聞き取り辛くなってきた。」
「すう…すう…。」
そのまま寝たよこの人!
「…どうする?お姉ちゃん。」
「いやいやいや。そこで私にふらんでくれよ…じゃああれか?とりあえずこれ開けてみるか?」
せっかく貸すって言ってたしね。
「じゃあ他の客も来そうにないし…開けてみたいでしょー?」
「うん、みたーい!」
「いきますよー?せーの!」
「あ〜〜!…ってなんだこれ。」
宝箱の中には、黒ずんだ本が一冊だけ入っている。
「本…だね。」
「タイトルすら書いてないや。」
「お姉ちゃんちょっとそれ貸してよ。」
「ほらよー。」
本を箱から取り出して弟くんに渡す。
思ってた数倍は分厚くて重いなこれ。まるで辞書だ。
「どれどれ…手書きなんだ…ってえ?…これマジ!?」
弟くんが高速でページを捲り出す。
「どんなだった?」
「凄いよこれ!ルイサさん特製のポーションレシピが全部書かれてる!凄いよこれ協会が出してるそれよりも詳しいし質が良い!!これと照らし合わせれば欲しいものの材料が全部わかるんだよ!」
また弟くんが早口になってら。興奮すると早口になるのは私も弟くんも一緒…サリアさんもそうだったりして。
「なるほど。流石は眠才ってことか。」
「あ、必要素材がとれる場所やモンスターの倒し方まで書いてあるよ。」
「つまり、その素材を狩ってこいって事なのねー。」
私は壁に掛かっている手頃な武器を外して魔導袋に放り込む。
多分売り物だけどルイサさんが貸すって言ってたし…大丈夫よね?
よし。行こう。
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