35話:商人さんとクルメさん
「え、それ猫耳…それじゃ…。」
「そっか…まあ、とにかくありがとう…。」
「うん…え?"キミはもっと活発なはず"?」
「調子狂うな、アンタの方が年下みたいなのに…でもまあ、よろしくねっ!」
◇
「やっぱりここにいたっ!探したんだから…ルーイーサッ!起きて!!」
(ん…ぁふ…美味し…。)
「もーやっぱ無理っ!寝言なんか言っちゃって…あでもサリアなら…よしっ!」
ん…?んむ…。遠くで何か聞こえ…。
「サリアっ!!来たよっ!!ほらねえ起きてっ!!」
「うわあああああ!?!?何!?何事!?って痛あっ!!」
耳元で突然大声を聞かされた私は文字通り飛び起きる…と同時に装甲車の装甲に思いっきり頭をぶつける。
目を開けると、やっと起きたっ!と気付いたクルメさんが笑顔を見せる。
えっと…どうしてクルメさんがここに?
私が困惑している横でクルメさんはルイサを揺すり、やっぱり起きないことを確認してからため息をつく。
「はぁ。えっと…サリアだよね?ルイサのやつが朝になっても店に来ないからここまで来たら見つけたんだっ!ルイサは前にも何回かここ来てたし、すぐ分かったよっ!」
「そうなんだ…。随分とルイサに詳しい…仲良いんだから当然か。」
あぁそうだ。だんだんと思い出してきたぞ。
昨日…じゃないか今朝か。装甲車運転できない私を一人残してルイサが寝ちゃったんだ。
私がこの辺の地理に詳しいわけがなく、無理に帰ろうとして魔物の巣にでも突っ込んだらまずいと思った結果、いっそここで私も寝ることにしたんだ。
それで暫く寝ていたらクルメさんが探しに来て…今にいたる。
「私さ、ここに来る途中周囲の魔物はあらかた処理しといたんだっ!だから安心して帰れる…」
クルメさんは自身の短杖に炎を灯して見せ、ニカッと笑う。
そして踵を返してルースーへと戻ろうとする。
「…いやいやいやいや。ルイサとホワイトキャットはどうするのさ…。」
「ホワイト…ああそれ。ルイサが作った凄いやつらしいけど動かなければただの足枷だね…じゃあそうだっ!私が押してあげるよっ!」
「押す…いけるのそれ!?」
「私をなめちゃあ困るよっ?私はルースーの特別。隠し玉なんだからっ!」
なるほど。クルメさん黒き以下略相手に持ち堪えれるほど強いもんねー。
私は記憶を頼りに運転席にあったレバーを動かし、ギアを切り替える。
「よし、これで押せば動くように…って早い早い!私がまだ乗って…ても動かせるのか、すっげえ…。」
クルメさんは魔法陣と共に何かを唱えたかと思うと、溢れ出る力とオーラで私やルイサごと装甲車を押し、そのままルースーへと帰っていく。
「ふう、これ本来の魔法とは違う使い方してるんだけどねっ!だから燃費が悪い悪いっ!」
「そう言いながらこうやって帰って来れるって…隠し球って凄いんね。」
「そうでしょ…凄いでしょっ!」
そんな隠し球さんは"るいさのぱんや"に用があるらしく、店のカウンターに向かう…とそのまま慣れた手つきでルイサの着ている毛布から鍵を抜き取り、扉を開けて奥の工房へと入っていく。
「あれ…あー、ルイサに用があったのね…。でも分かってるとは思うけどルイサ今寝てるよ?」
あ、私が用件だけ聞いておけばいいのかな。でも鍵なんか盗らずに待ってればいいのに…。
「大丈夫っ!だって私、機械だけ借りて自分でやるつもりだからねっ!」
そう言いながらクルメさんは銃を取り出して作業台の上に置く。
故障はしてないみたいだし、アルアドとの戦いの前に整備やアップグレードをしにきたとか、そんなとこだろう。
「え、自分でやるのか…あー、自分の武器にはこだわり持ってるよねそりゃ。」
「別にそういうわけじゃなくて…ルイサに任せると変な機能勝手に付けられて困るんだよっ!何度もあったんだよねっ!」
「変な機能…確かに多機能かつ複雑でまともに使いこなせないのはわかる。」
弟くんが説明読んだだけで理解できるのはやっぱ異常なんだよ。
「だけど今回はしっかりアップグレードしないといけない…でもルイサは信用できない…っ!」
「そこまで意固地にならないでいいんじゃないの別に…。」
え、そんなに嫌なの?ルイサのこと嫌いなのかな…。
でも結構仲良さそうだし…友達だからこそ粗が目立つってのもわからなくは無いけどさ。
「あ、そうだっ!そうじゃんっ!」
クルメさんは手を叩き、私の方にじっと視線を向けてくる。
え、なんか嫌な予感…。
「アンタにやってもらえばいいじゃんっ!」
…そう来たか!!
「え、でも…。」
「ほらあの戦車だって3分の1はアンタが作ったって聞いたし!おねがいねっ!」
いやだって私の担当は雑用…いや。
ここで私は一瞬の気の迷いか睡眠不足故の謎行動か。
絶対に言うべきではなかったことを口走る。
「もちろん!私なら分かりやすく、ルイサよりも充実したのを仕上げてみせるよ!」
言ってすぐ後悔した。
理由は簡単。そんな技術力は私にはない!!
でも…"やっぱ嘘"なんて言えるメンタルも無い!
…。
…ということで!数秒前の私の尻拭い、はーじまーるよー!!
はじまったけどえっと…どうすれば…。
私は助けを求めるように周囲を確認する…結果、弟くんもルイサもしっかりと眠っていることがわかる。
つまりいま頼りにになるのは地球での習慣のせいか夜更かしにある程度耐性がある(かもしれない)私だけ!…無理だって!
とりあえずクルメさんの武器は構造的に火縄銃ってやつだけど、使い方は狙撃。スナイパーだよね。
スナイパーといえば…スコープ?
単眼鏡を用意して…固定する!
あれ、固定す…する…。
ちょっと待って!どうやってもグラグラするよこれー!
あーもうマジでさ、思ってた数倍はどうにもなりませんね。
いや、私の技術力の方が。
「…なんか作業してるアンタ見てるとルイサと会ったばかりのこと思い出すよ。」
自分のくだらん見栄が原因で四苦八苦している私をよそに、クルメさんが呟く。
私が返事もできずにいる中、クルメさんは話を進める。
「私さ、捨て子だったんだよ。"鑑定石"の情報からも苗字は消されちゃって。孤児って数が多いんだよ。扱いも当然悪い。」
「あー、そういえばデブがそんなこと…。」
「デブ…あいつね。あいつが言ってたこともあながち間違ってはないのよね。元々私"っ"なんか付けないし、私はそれほど過発じゃない。」
…マジで?
「あいつが言うみたいに安易なキャラ付けなんかじゃ誓って決して無いけどねっ!ルイサが手を差し伸べてくれた時にそっちの方が合ってるし、生きるのも楽になるっって言われたんだ。今思っても滑稽な絵面だったな。私の方が年上なんだよ?なのにボロボロで、救ってもらう側で。」
え、それって数年は前の話だよね?やっぱルイサって…この時期で達観しすぎて無い!?
あと同時にこの話に対してこんな感想しか持てない私自身が嫌になるよね。これだから私は…。
「それから事あるごとに思い知らされるよ。彼女の眠才がいかに凄いかって…まあこんなこと、本人の前では口が裂けても言えないんだけどねっ。」
「ん…いやぁ…それほどでも…。ねん…んん。」
と、ここでカウンターで寝かせていたルイサの寝言が、私たちの耳に入る。
途端にクルメさんは慌て出すのがわかる。
「ルイサアンタっ!これ聞いて…っ!」
「まあまあまあまあ!寝言だから!ね?」
クルメさんはルイサの頭を軽くこずくと、明日取りに来ると言って店を後にする。
あれだ、仲の良さが溢れてる。いや本当そう。
私は後日改良したクルメさんのスナイパーライフルを届けに行った。
実はほとんどルイサに泣きついたのは内緒である。
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